ふわふわまるまる飛車角

きんちゃん

文字の大きさ
上 下
37 / 71

37話

しおりを挟む
 まずは今回の試合について簡単に確認しよう。
 コートは通常のサッカーコートの4分の1ほどの大きさで、ゴールはハンドボールのゴールを用いている。まあフットサルのゲームに近いだろう。
 ゲームは6人対6人の15分ハーフ。1年チームは2人の交代を自由に使える、というハンデがあることはすでに述べた。
 ゴールキーパーは1人固定。キーパーも当然ペナルティエリア外では手を使えない。オフサイドはなし。
 以上が今回のゲームの大体のルールだ。



(……なるほど、向こうはそういう感じね)

 2年チームのボールで試合が始まった。
 俺はすぐに向こうのフォーメーションを理解した。
 2年チームは翔先輩・中野先輩というツートップを生かすために、2-1-2という形を取っていた。(キーパーを除いた5人のフィールドプレイヤーの配置をフォーメーションとして記す)。経験のほとんどないであろう岸本先輩がキーパーをしているのが弱点と言えるかもしれない。
 この点だけは1年チームが有利と言えるかもしれない。今井キャプテンは本職のキーパーなのだ。2年チームの2-1-2に対し、1年チームは1-2-1-1というフォーメーションだ。(あくまで便宜的なものではあるが)。ワントップには高さがあり身体の強い高島を置き、その下にはこちらのチームで一番攻撃的センスがある安東を置く。俺と竹下は守備を重視したプレーを心掛けるが、攻撃にも出ていかないと前線の枚数が足りないだろう。そして最後尾のリベロ(イタリア語で自由な人という意味)には太一を置く。これが俺たちのフォーメーションだ。
 太一を最後尾に置くのは賭けでもあった。
 1年生同士の練習の中では抜群の読みで存在感を示していた太一だったが、2年生とはまだ一度も対峙していないのだ。2年生相手にどれだけその守備力が発揮されるのか……正直に言えば不安もあった。最初は交代要員としてコート外からゲームを見させた方がリスクは少ないのではないか?という気もしたが、最終的には太一という人間を信じた。
 太一の相手の攻撃を読む能力が発揮されれば、翔先輩・中野先輩と言えど簡単には得点を重ねられないだろう、と思えたからだ。もちろん、太一だけでなくその前にポジションを取る俺と竹下がきちんと連携しなければ守備は崩壊してしまうだろうが。

「おい、吉川。お前ら帰宅部のアイツ……マジで試合に出してんじゃん。超ウケるんだけど」

 俺がマークに付くと、試合中にも関わらず中野先輩が話しかけてきた。
 ボールは2年チームが後ろで回していた
 当然俺は無視した。
 そりゃそうだ。試合中のそんな話にいちいち付き合ってられない。

「なあ……アイツどう見ても素人じゃん。それをDFラインに置くなんてお前らマジで勝つ気ないの?」

 中野先輩の挑発がさらに続いた。流石にこうも続けて話しかけてくるとは想定外のことだった。

「……まあ『揉めた直接の原因は自分だ』って言い出して来たんで」

 仕方なく俺も適当な返事を返した。
 むろん本心では(うるせえな、試合中に話しかけてきてんじゃねえよ。アンタらには負けねえよ!)と思っていたのだが、せっかく太一の仕掛けた計略が成功し1年チームを大いに舐めてかかってきてくれているのだから、この方針を続けた方が良いだろう……俺はそう答えておいた。

「くく、あんなヤツでもそれなりに責任感はあったんだな……。ま、俺たちに舐めた口利いたアイツは絶対許さないけどな!」

 そう吐き捨てると中野先輩は急激に自陣側にダッシュした。
(ヤバイ!)
 油断していた俺はマークに付いていくのが一瞬遅れた。そこにDFラインから縦パスが入る。
 中野先輩は鮮やかにターンしてボールを足元に収めた。
 こうなっては迂闊にボールを奪いには行けない。ある程度の技術があるFWならば飛び込んできたDFをかわすことは容易だからだ。完全にかわされてしまってはよりピンチが深まるだけだ。DFはじっくりと対応しなければならない。
 ゴールエリア中央辺りでボールを持った中野先輩は、やや右サイドに向かってドリブルを仕掛けてきた。
(させるか!)
 この2週間のフィジカルトレーニングで俺は自分のキレが増していることを実感していた。
「中野先輩のドリブルにも付いていける!」ということを最初の一歩の対応の段階で感じていた。
 だが……俺の予想に反して、ドリブルを始めた中野先輩は俺を抜き去る前にパスを出した。
 ノーモーションでほぼドリブルの足の振りのまま出されたスルーパスだった。ボールスピード自体は緩いものだったが、俺の後ろに構えていた太一と竹下も完全にドリブルで抜きに来ることを想定していたのだろう。ゴール前左サイド奥に出された斜めに切り裂くスルーパスに完全に虚を突かれた。
 そこに走り込んできたのは翔先輩だ。
 キーパーの今井キャプテンが飛び出してきたが間に合わない。
 翔先輩はダイレクトの右足インサイドで簡単にゴールに流し込んだ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ほつれ家族

陸沢宝史
青春
高校二年生の椎橋松貴はアルバイトをしていたその理由は姉の借金返済を手伝うためだった。ある日、松貴は同じ高校に通っている先輩の永松栗之と知り合い仲を深めていく。だが二人は家族関係で問題を抱えており、やがて問題は複雑化していく中自分の家族と向き合っていく。

イルカノスミカ

よん
青春
2014年、神奈川県立小田原東高二年の瀬戸入果は競泳バタフライの選手。 弱小水泳部ながらインターハイ出場を決めるも関東大会で傷めた水泳肩により現在はリハビリ中。 敬老の日の晩に、両親からダブル不倫の末に離婚という衝撃の宣告を受けた入果は行き場を失ってしまう。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

Cutie Skip ★

月琴そう🌱*
青春
少年期の友情が破綻してしまった小学生も最後の年。瑞月と恵風はそれぞれに原因を察しながら、自分たちの元を離れた結日を呼び戻すことをしなかった。それまでの男、男、女の三人から男女一対一となり、思春期の繊細な障害を乗り越えて、ふたりは腹心の友という間柄になる。それは一方的に離れて行った結日を、再び振り向かせるほどだった。 自分が置き去りにした後悔を掘り起こし、結日は瑞月とよりを戻そうと企むが、想いが強いあまりそれは少し怪しげな方向へ。 高校生になり、瑞月は恵風に友情とは別の想いを打ち明けるが、それに対して慎重な恵風。学校生活での様々な出会いや出来事が、煮え切らない恵風の気付きとなり瑞月の想いが実る。 学校では瑞月と恵風の微笑ましい関係に嫉妬を膨らます、瑞月のクラスメイトの虹生と旺汰。虹生と旺汰は結日の想いを知り、”自分たちのやり方”で協力を図る。 どんな荒波が自分にぶち当たろうとも、瑞月はへこたれやしない。恵風のそばを離れない。離れてはいけないのだ。なぜなら恵風は人間以外をも恋に落とす強力なフェロモンの持ち主であると、自身が身を持って気付いてしまったからである。恵風の幸せ、そして自分のためにもその引力には誰も巻き込んではいけない。 一方、恵風の片割れである結日にも、得体の知れないものが備わっているようだ。瑞月との友情を二度と手放そうとしないその執念は、周りが翻弄するほどだ。一度は手放したがそれは幼い頃から育てもの。自分たちの友情を将来の義兄弟関係と位置付け遠慮を知らない。 こどもの頃の風景を練り込んだ、幼なじみの男女、同性の友情と恋愛の風景。 表紙:むにさん

野球小説「二人の高校球児の友情のスポーツ小説です」

浅野浩二
青春
二人の高校球児の友情のスポーツ小説です。

児島君のこと

wawabubu
青春
私が担任しているクラスの児島君が最近来ない。家庭の事情があることは知っているが、一度、訪問してみよう。副担任の先生といっしょに行く決まりだったが…

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...