25 / 71
25話
しおりを挟む
「そんなわけない。見てたら分かるだろ、吉川」
答えたのは安東だった。
「反応の速さ、その前のポジション取り、身体の入れ方……吉田は完全に誘われてやられたんだよ。自分でドリブルを仕掛けたと思っているかもしれないけど、吉田は仕掛けさせられたんだよ……コイツのタイミングでな」
安東は何故か太一を冷たく睨んでいた。
「……まったく、何が未経験者だよ。おまけにその前の練習ではわざと下手なフリまでして……コイツは何が目的なんだ?それとも最初からサッカー部を掻き回すことが目的だった……いや弱小の俺たちをバカにするつもりで絡んできたのか、なあ?」
どうやら、安東は太一が相当なサッカー経験者だと勘違いしているようだった。
「……いや、安東。俺コイツとは中学からの付き合いだけど、マジでサッカー経験はないと思うぞ!コイツは中学の時はずっと将棋をやっていたんだ」
「はぁ、将棋?……うそつけ!机の上でパチパチやってた人間が何で吉田のスピードに付いていけるんだよ?」
……安東の言葉は、実は俺が最も疑問に思っていたことだった。
どんなに読みが完璧だろうと、一瞬のスピードがなければ吉田を止めることは不可能なことだろう。
俺と安東に見つめられて太一は、やれやれといった顔で口を開いた。
「もー……僕、昔から脚は結構速かったんだよ。正洋が勝手に忘れてただけだろ?」
「……そうか、思い出したわ」
太一にそう言われて、俺は中一の頃の記憶が一気によみがえってきた。
そうだった、太一と仲良くなった最初のきっかけは中一の最初の体力測定の時だった。
いかにも青白いひょろひょろの太一が、クラスで一番50メートル走が速かったことがあまりに意外で、俺が話しかけたのがきっかけだった。
太一は将棋の関係で体育祭などのイベントにはほとんど出なかったから、その印象が皆に広まることはあまりなかった。だからいつの間にか俺もそのことを忘れていたのだろう。
……余談だが、最近世に出てきて最年少記録を次々と塗り替えた例の天才棋士も短距離走は速いそうだから、もしかしたら頭の良さと運動神経というものには関連性があるのかもしれない。
だが、安東は依然として納得のいかない顔で太一を見ていた。それに対してため息まじりで太一は答えた。
「……実際僕は体育の授業以外でボールを蹴ったことはないよ。でも、僕だって15年生きてきた中でサッカーを目にする機会はいっぱいあったから、完全に未経験って言ってしまうのは違うかもね」
太一の謎過ぎる発言に、俺と安東の周りに????が大量に浮かび上がってきたところで、キャプテンがトイレから戻ってきた。
「おし、じゃあもう一本始めるぞ~」
能天気な胴間声がグラウンドに響き渡ったが、相変わらず誰からも威勢のいい返事などはなかった。
答えたのは安東だった。
「反応の速さ、その前のポジション取り、身体の入れ方……吉田は完全に誘われてやられたんだよ。自分でドリブルを仕掛けたと思っているかもしれないけど、吉田は仕掛けさせられたんだよ……コイツのタイミングでな」
安東は何故か太一を冷たく睨んでいた。
「……まったく、何が未経験者だよ。おまけにその前の練習ではわざと下手なフリまでして……コイツは何が目的なんだ?それとも最初からサッカー部を掻き回すことが目的だった……いや弱小の俺たちをバカにするつもりで絡んできたのか、なあ?」
どうやら、安東は太一が相当なサッカー経験者だと勘違いしているようだった。
「……いや、安東。俺コイツとは中学からの付き合いだけど、マジでサッカー経験はないと思うぞ!コイツは中学の時はずっと将棋をやっていたんだ」
「はぁ、将棋?……うそつけ!机の上でパチパチやってた人間が何で吉田のスピードに付いていけるんだよ?」
……安東の言葉は、実は俺が最も疑問に思っていたことだった。
どんなに読みが完璧だろうと、一瞬のスピードがなければ吉田を止めることは不可能なことだろう。
俺と安東に見つめられて太一は、やれやれといった顔で口を開いた。
「もー……僕、昔から脚は結構速かったんだよ。正洋が勝手に忘れてただけだろ?」
「……そうか、思い出したわ」
太一にそう言われて、俺は中一の頃の記憶が一気によみがえってきた。
そうだった、太一と仲良くなった最初のきっかけは中一の最初の体力測定の時だった。
いかにも青白いひょろひょろの太一が、クラスで一番50メートル走が速かったことがあまりに意外で、俺が話しかけたのがきっかけだった。
太一は将棋の関係で体育祭などのイベントにはほとんど出なかったから、その印象が皆に広まることはあまりなかった。だからいつの間にか俺もそのことを忘れていたのだろう。
……余談だが、最近世に出てきて最年少記録を次々と塗り替えた例の天才棋士も短距離走は速いそうだから、もしかしたら頭の良さと運動神経というものには関連性があるのかもしれない。
だが、安東は依然として納得のいかない顔で太一を見ていた。それに対してため息まじりで太一は答えた。
「……実際僕は体育の授業以外でボールを蹴ったことはないよ。でも、僕だって15年生きてきた中でサッカーを目にする機会はいっぱいあったから、完全に未経験って言ってしまうのは違うかもね」
太一の謎過ぎる発言に、俺と安東の周りに????が大量に浮かび上がってきたところで、キャプテンがトイレから戻ってきた。
「おし、じゃあもう一本始めるぞ~」
能天気な胴間声がグラウンドに響き渡ったが、相変わらず誰からも威勢のいい返事などはなかった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
イルカノスミカ
よん
青春
2014年、神奈川県立小田原東高二年の瀬戸入果は競泳バタフライの選手。
弱小水泳部ながらインターハイ出場を決めるも関東大会で傷めた水泳肩により現在はリハビリ中。
敬老の日の晩に、両親からダブル不倫の末に離婚という衝撃の宣告を受けた入果は行き場を失ってしまう。
全体的にどうしようもない高校生日記
天平 楓
青春
ある年の春、高校生になった僕、金沢籘華(かなざわとうか)は念願の玉津高校に入学することができた。そこで出会ったのは中学時代からの友人北見奏輝と喜多方楓の二人。喜多方のどうしようもない性格に奔放されつつも、北見の秘められた性格、そして自身では気づくことのなかった能力に気づいていき…。
ブラックジョーク要素が含まれていますが、決して特定の民族並びに集団を侮蔑、攻撃、または礼賛する意図はありません。
冬の夕暮れに君のもとへ
まみはらまさゆき
青春
紘孝は偶然出会った同年代の少女に心を奪われ、そして彼女と付き合い始める。
しかし彼女は複雑な家庭環境にあり、ふたりの交際はそれをさらに複雑化させてしまう・・・。
インターネット普及以後・ケータイ普及以前の熊本を舞台に繰り広げられる、ある青春模様。
20年以上前に「774d」名義で楽天ブログで公表した小説を、改稿の上で再掲載します。
性的な場面はわずかしかありませんが、念のためR15としました。
改稿にあたり、具体的な地名は伏せて全国的に通用する舞台にしようと思いましたが、故郷・熊本への愛着と、方言の持つ味わいは捨てがたく、そのままにしました。
また同様に現在(2020年代)に時代を設定しようと思いましたが、熊本地震以後、いろいろと変わってしまった熊本の風景を心のなかでアップデートできず、1990年代後半のままとしました。
イケメン成立した時秘密奉仕部何が勘違いしてる?
あるのにコル
青春
花の上はるのは誰も憧れるのお嬢様。女性友達ないの彼女は、12歳で小説家として活躍中。女性友達必要ないなのに、”時秘密奉仕部入り”の変の課題出た
星空に叫ぶ
範子水口
青春
高校三年夏の甲子園出場を目指す球児、毅と功治。そして毅の恋人の和美。補欠の毅はベンチ入りを目指して日夜練習に励む。一方恵まれた体格の功治は不動の四番バッターとしてチームを牽引している。秀才の和美は受験勉強と陸上部競技の文武両道の道を歩んでいた。
毅が紅白戦でデッドボールを受けて、膝を痛めたことをきっかけに、三人の運命は静かに動き始める。
巡り会う命が触れ合いぶつかり合うリアル。生きる喜びや葛藤を余すところなく書き上げた大人向けの青春小説。
ゴーホーム部!
野崎 零
青春
決められた時間に行動するのが嫌なため部活動には所属していない 運動、勉強共に普通、顔はイケメンではない 井上秋と元テニス部の杉田宗が放課後という時間にさまざまなことに首を突っ込む青春ストーリー
文化研究部
ポリ 外丸
青春
高校入学を控えた5人の中学生の物語。中学時代少々難があった5人が偶々集まり、高校入学と共に新しく部を作ろうとする。しかし、創部を前にいくつかの問題が襲い掛かってくることになる。
※カクヨム、ノベルアップ+、ノベルバ、小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる