上 下
22 / 71

22話

しおりを挟む
「おし、じゃあミニゲームやってみるか。ここで戦力を判断してアイツらの対策を考えていこうと思ってるからな。チームは、今の鳥かごをやったチームでいこう」

 なんとなく鳥かごの練習が終わって、キャプテンがそう声を掛けた。皆黙ってうなずく。体育会系らしい威勢のいい返事などは特にないのがこのチームの特徴だ。

「……太一、ルールは大体分かるよな?基本的には普通のサッカーの小さい版だと思えば良いよ。オフサイドは無しだし、キーパーも無しだ」

「うん、大体大丈夫だと思うよ」

 今までの練習中はあまり冴えなかった太一の表情が、少し明るさを取り戻してきたような気がする。目にしたことがある実戦形式の方が、太一にとっては馴染みやすいのかもしれない。

「安東は前目で、吉川は真ん中な。俺は後ろやるから。で……とりあえず川田君は好きに動いて良いよ。ボール持ったらまずは味方にパスすることを考えてくれ。ミスっても気にしなくて良いからな!」

 キャプテンがそう声を掛けて我がチームの作戦は決まった。……いや、もちろん作戦と言えるほどのものではないが。
 弱小の極みと言える我が『向陽高校』サッカー部と言えど、流石に本番の試合ではきちんとした作戦を立てるし、そのフォーメーションに基づいた練習を行う。だが、今回は4対4のミニゲームだ。作戦はこれくらいで充分だし、実際には今ざっくり決めたフォーメーションですら試合中は大きく変わってゆくだろう。

「おーし、じゃあとりあえず10分ハーフで!」

 キャプテンの声でミニゲームが始まった。



(……やっぱり太一にいきなりゲームは難しかったか?)
 開始から2,3分経ったが太一の動きはイマイチだった。
 基礎のボールタッチや鳥かごをしていた時の動きを見ていたら、もう少し出来るんじゃないかと思っていたが、まだ実戦に近いゲームの感覚にはついていけていないようだ。
 やはりサッカーをしている人間は、ゲームになると一段階ギアが上がる。相手も戦力的には大したことのない1年生だけのチームなのだが、太一には寄せが早くプレッシャーがキツく感じられるのだろう。……まあ、初めてなんだからそれも当然だろう。
 ちなみに戦力的には本来こちらが有利なはずだった。
 相手チームには183センチという長身の高島、俊足の吉田という特徴のある二人がいたが、二人とも高校になってからサッカーを始めた選手で、まだまだ自分の強みを生かせる場面は少ない。残る二人の森田と竹下は経験者で堅実なプレーをするが、経験者な分だけプレーも読みやすく悪く言えばあまり特徴がない。どちらかと言えば怖いのは時に強引なプレーを仕掛けてくる高島と吉田の方だった。
 対するこちらのチームは2年の今井キャプテン、俺、安東という3人だ。
 今井キャプテンは本来はゴールキーパーだが、この中でならフィールドプレイヤーとしても充分に通用する。攻撃的なセンスはあまりないが、ディフェンス面ではやはり強い。安東もオールラウンドで特徴の強い選手ではないが、1年の中では一番テクニックがあり、逆に言うとこのレベルのゲームでなら何でも出来る。俺自身もオールラウンドな選手だ(ちなみに攻撃的なセンスは安東の方があり、守備面では俺の方が貢献度は高いと思う)。

 ここにサッカー部の誰が入っても俺たちのチームが有利になるだろう。……しかしここに4人目として入るのが全くの未経験者である太一だと話はそう簡単にはいかなくなる。これがサッカーの難しいところであり、面白いところだろう。

 弱い鎖の論理……というものを聞いたことがあるだろうか?
 他の箇所がどれだけ頑丈な鋼鉄で出来ていても、一箇所だけ弱い紐で出来ているような鎖があったとしたら、その鎖は紐の箇所からあっという間に切れてしまう。要は鎖の強度を決めるのはその鎖の最も弱い箇所なのである……という話である。
 サッカーにはモロにこれが当てはまる。強い人間が弱い人間をカバーするということには限界があるのだ。ましてや4対4という少人数のゲームではそれが顕著だ。攻撃面・守備面ともに「最低限これだけはやってくれ」というタスクが1人こなせないとなると戦術は崩壊する。チームとしてはかなり厳しい。
 もちろん今日サッカーを始めたばかりの太一に一人前の働きを望む方が無謀なのだが、そういったサッカーの構造的な部分も思い出した上で俺は(やはり厳しいな……)と感じていたのだった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あの空の向こう

麒麟
青春
母親が死に天涯孤独になった、喘息持ちの蒼が 引き取り先の兄と一緒に日々を過ごしていく物語です。 蒼…日本と外国のハーフ。   髪は艶のある黒髪。目は緑色。   喘息持ち。   病院嫌い。 爽希…蒼の兄。(本当は従兄弟)    職業は呼吸器科の医者。    誰にでも優しい。 健介…蒼の主治医。    職業は小児科の医者。    蒼が泣いても治療は必ずする。 陸斗…小児科の看護師。    とっても優しい。 ※登場人物が増えそうなら、追加で書いていきます。  

雪花 ~四季の想い・第一幕~

雪原歌乃
青春
紫織はずっと、十歳も離れた幼なじみの宏樹に好意を寄せている。 だが、彼の弟・朋也が自分に恋愛感情を抱いていることに気付き、親友の涼香もまた……。 交錯する想いと想いが重なり合う日は? ※※※ 時代設定は1990年代となっております。そのため、現在と比べると違和感を覚えられる点が多々あるかと思います。ご了承下さいませ。

雨上がりに僕らは駆けていく Part2

平木明日香
青春
学校の帰り道に突如現れた謎の女 彼女は、遠い未来から来たと言った。 「甲子園に行くで」 そんなこと言っても、俺たち、初対面だよな? グラウンドに誘われ、彼女はマウンドに立つ。 ひらりとスカートが舞い、パンツが見えた。 しかしそれとは裏腹に、とんでもないボールを投げてきたんだ。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

僕の周りの人達には秘密がある

ノア オリバー
青春
ぼくの周りの人たちには、何か秘密がある。例えば横の席の子とか前の席の子とか。女の子に囲まれたぼくは一人一人の秘密を解決していくのだった。 「僕に話してみなよ」 これは優しい声音で聞く、優しく頼りになる彼を好きになっていく少女達の恋物語。

2度めの野球人生は軟投派? ~男でも野球ができるって証明するよ~

まほろん
青春
県立高校入学後、地道に練習をして成長した神山伊織。 高校3年時には、最速154キロのストレートを武器に母校を甲子園ベスト4に導く。 ドラフト外れ1位でプロ野球の世界へ。 プロ生活2年目で初めて1軍のマウンドに立つ。 そこで強烈なピッチャーライナーを頭部に受けて倒れる。 目覚めた世界で初めてみたプロ野球選手は女性たちだった。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

幻影の彼方~青春の狭間に枯れゆく決断~

nnsmost
青春
青春、美、そして自己認識に関する心理的葛藤を描いた物語です。 主人公の水野輝は、見た目と実力を兼ね備えた高校2年生で、サッカーの才能に恵まれ、学業でも優秀な成績を誇ります。彼の日々は、彼女である白玖や幼馴染の宇都美との関係を通じて、複雑な感情が絡み合う青春ドラマへと展開していきます。 白玖は、その美しさで常に注目の的でありながら、内面では自己価値を見出せずに苦しんでいます。彼女の摂食障害は徐々に悪化し、輝との関係だけでなく、彼女自身の生活にも深刻な影響を与えます。一方で、宇都美は輝を支え続けることで自己を見失い、彼女の無償の愛が自己犠牲へと変わっていきます。彼女は輝の事故に巻き込まれる形で、その後の心の崩壊を招くことになります。 『幻影の彼方~青春の狭間に枯れゆく決断~』で、それぞれのキャラクターが自己と向き合い、内面の葛藤を乗り越えていく過程を通じて、人間の多面性と複雑性を表現できたらいいなと思っています。 成長しながら作成するので温かい目で見てもらえればいいなと思います。よろしくお願いします。

処理中です...