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11話
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「おし、じゃあ練習再開するか」
通常よりもかなり長く、10分近く休憩をとったあたりでキャプテンは声をかけた。
「うい~」「はい」「……」
1年生たちは皆思い思いの反応を示しながらグランドへと向かう。
だがキャプテン以外の2年生たちはその場から動こうとしなかった。
「どうした?やろうぜ?」
キャプテンが再び声をかけると、今ようやく気付いたという感じで全員が顔を上げた。
「わりい、今井。俺たちこれで上がるわ」
中野先輩がスマホを見ながら、なんら悪びれる様子もなく衝撃の一言を放った。
「……え?上がるって、お前ら全員ってこと?」
「そうなんだよ、これから立仙のコたちとカラオケ行く流れになっちゃってさ~」
立仙《りっせん》とは同じ市内にある『立仙女子学園』という偏差値やや低めの女子高のことだ。
「いや、カラオケ行くのは翔と中野だけだよ!」
岸本先輩が慌てて訂正した。
「なんだ、じゃあ4人は残るってことだな?」
ひとまずほっとしてグランドに駆け出そうとするキャプテンだったが、それは早とちりだった。
「いや、俺らも上がるわ」
と告げ、岸本先輩は着替え始めたのだ。
「え、ちょっと待て!何でだよ?」
さすがにキャプテンが驚いて振り向く。
「いや、17時から『ゼロサム』のSSR激レアイベントが始まるんだよ。だから俺ん家でみんな集まって感動のひとときを共有しようということでな……」
『ゼロサム』というのは今流行っているスマホゲームのことだ。斬新さの欠片もないゲームシステムと、それを補って余りある流麗なグラフィックと人気声優のフルボイスが人気のゲームだ。
岸本先輩は少し申し訳なさそうに苦笑いしつつも、着替えの手を止めることはなかった。
「おいおい、待てってお前ら。ゼロサムのイベントくらい今度でいいじゃねえかよ。どうせすぐ飽きるって!……なあサッカーやろうぜ」
翔先輩と中野先輩の合コンカラオケチームを引き止めるのは早々に諦めたキャプテンだったが、こっちの『ゼロサム』チームは説得の余地があると踏んだのだろう。何とか必死に表情を作って引き止めにかかるキャプテンだった。
(……もう、しょうがねえな)
こういうのはキャプテンに任せるつもりだったが、相手が熱中しているものを否定してかかるのは神経を逆撫でするだけで良くないだろう。少し間に入ってなだめた方が良いのではないかと思い、俺はグラウンドに向かう足を引き返した。
通常よりもかなり長く、10分近く休憩をとったあたりでキャプテンは声をかけた。
「うい~」「はい」「……」
1年生たちは皆思い思いの反応を示しながらグランドへと向かう。
だがキャプテン以外の2年生たちはその場から動こうとしなかった。
「どうした?やろうぜ?」
キャプテンが再び声をかけると、今ようやく気付いたという感じで全員が顔を上げた。
「わりい、今井。俺たちこれで上がるわ」
中野先輩がスマホを見ながら、なんら悪びれる様子もなく衝撃の一言を放った。
「……え?上がるって、お前ら全員ってこと?」
「そうなんだよ、これから立仙のコたちとカラオケ行く流れになっちゃってさ~」
立仙《りっせん》とは同じ市内にある『立仙女子学園』という偏差値やや低めの女子高のことだ。
「いや、カラオケ行くのは翔と中野だけだよ!」
岸本先輩が慌てて訂正した。
「なんだ、じゃあ4人は残るってことだな?」
ひとまずほっとしてグランドに駆け出そうとするキャプテンだったが、それは早とちりだった。
「いや、俺らも上がるわ」
と告げ、岸本先輩は着替え始めたのだ。
「え、ちょっと待て!何でだよ?」
さすがにキャプテンが驚いて振り向く。
「いや、17時から『ゼロサム』のSSR激レアイベントが始まるんだよ。だから俺ん家でみんな集まって感動のひとときを共有しようということでな……」
『ゼロサム』というのは今流行っているスマホゲームのことだ。斬新さの欠片もないゲームシステムと、それを補って余りある流麗なグラフィックと人気声優のフルボイスが人気のゲームだ。
岸本先輩は少し申し訳なさそうに苦笑いしつつも、着替えの手を止めることはなかった。
「おいおい、待てってお前ら。ゼロサムのイベントくらい今度でいいじゃねえかよ。どうせすぐ飽きるって!……なあサッカーやろうぜ」
翔先輩と中野先輩の合コンカラオケチームを引き止めるのは早々に諦めたキャプテンだったが、こっちの『ゼロサム』チームは説得の余地があると踏んだのだろう。何とか必死に表情を作って引き止めにかかるキャプテンだった。
(……もう、しょうがねえな)
こういうのはキャプテンに任せるつもりだったが、相手が熱中しているものを否定してかかるのは神経を逆撫でするだけで良くないだろう。少し間に入ってなだめた方が良いのではないかと思い、俺はグラウンドに向かう足を引き返した。
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