10 / 71
10話
しおりを挟む
これからどうなるんだろうな……と不安な気持ちを抱えたまま部活に行ったところ、実にあっさりと事態は好転する。
翔先輩と中野先輩をはじめとした6人の2年生が全員部活に来ていたのだ!
「おはざいますっ!」
「おう」
翔先輩も普通に挨拶を返してくれた。
中野先輩も、岸本先輩も、川藤先輩、高野先輩、今野先輩……6人全員が揃っていた。皆笑顔でアップを始めていた。
1年生たちも全員が揃って明らかに気合いが入っているのが表情から伝わって来る。
「おーし、じゃあ練習始めるぞ~」
今井キャプテンが号令をかけ、タラタラと皆がそのもとに集まってゆく。
(よっしゃ、ここから新チームの出発だ!)
小っ恥ずかしくて他人はおろか、同じ部員の誰にも言えないが、俺はちょっと感動しながらキャプテンのもとにダッシュした。
(……くっそ、先輩たち全然やる気ないな)
練習が始まってもう30分近く経っていたが、流石に俺は少しイライラしてきていた。
皆キャプテンのもと指示されたメニューはこなしている。そこに異議を申し立てる者は誰もいない。
だが2年の先輩たちは明らかに真剣さを欠いていた。
夏の大会中までの先輩たちの動きとはまるで違う。1~2週間練習を休んだところで身体のキレはそんなに落ちたりはしない。
……いや、もちろんトップレベルでやっている連中にとっては大きな違いなのかもしれない。
だがなんと言っても我が向陽高校サッカー部は万年予選一回戦負け常連校なのだ!そんな連中と一緒にされては困る!
……まあ、あれだ、つまり、先輩たちの動きがタラタラしているのは明らかに本人たちの意図的なものだってことだ。
サッカーにミスは付き物だし、ましてや俺たちのレベルではミスのないプレイが連続で起きることの方が珍しいのだが、それでも自分がミスしてボールを失った時は真剣に取り返しにいくくらいの気持ちはあった。
今はそれすらなく、ミスをしてもお互いにへらへらしているような状況だった。
当然それは1年生部員の方にも影響を与える。
誰も言葉には出さなかったが、先輩たちがそういう感じでやっていると「こっちは本気でいって良いのか?」という疑問が生じてくる。その影響を受けて1年生側がプレッシャーに行けず、2年生側もますます緩慢なプレーに……と悪循環してゆくのだった。
「おーし、一回休憩にしよう!」
今井キャプテンが声を張り上げた。
当然キャプテンもそうした空気を感じており、良くない状況であることは充分に分かっているはずだ。
だが今それを、翔先輩たち2年生6人に大っぴらに口にして注意をするのが難しいのも痛いほどわかった。
機嫌を損ねられてまた明日から部活に来ないなんてことになれば、サッカー部の存続そのものが危うくなる可能性が高いのだ。
「いや、久しぶりだけど翔のドリブルのキレはさすがだな!」
休憩中みんなで水を飲みながらダベっていると、今井キャプテンがわざとらしい声で俺に話しかけてきた。
ちなみに我がサッカー部にクラブハウスのような立派なものはない。校舎の陰にいつ誰が設置したのか分からない、ビニールシートのスペースがあり、そこにカバンを置き着替えるのだった。
「いやホントですよ!それに中野先輩のキープ力も相変わらずヤバいですね」
俺もすぐに意図を察して普段よりも大きな声を出す。
「だよな~」
意図が伝わったのだろう。キャプテンの返事もワントーンさらに上がる。
だが当の翔先輩たちはまるでその声に気付いていないように、6人だけで何か話して爆笑していた。
キャプテンと俺は顔を見合わせ、小さく首を振った。
翔先輩と中野先輩をはじめとした6人の2年生が全員部活に来ていたのだ!
「おはざいますっ!」
「おう」
翔先輩も普通に挨拶を返してくれた。
中野先輩も、岸本先輩も、川藤先輩、高野先輩、今野先輩……6人全員が揃っていた。皆笑顔でアップを始めていた。
1年生たちも全員が揃って明らかに気合いが入っているのが表情から伝わって来る。
「おーし、じゃあ練習始めるぞ~」
今井キャプテンが号令をかけ、タラタラと皆がそのもとに集まってゆく。
(よっしゃ、ここから新チームの出発だ!)
小っ恥ずかしくて他人はおろか、同じ部員の誰にも言えないが、俺はちょっと感動しながらキャプテンのもとにダッシュした。
(……くっそ、先輩たち全然やる気ないな)
練習が始まってもう30分近く経っていたが、流石に俺は少しイライラしてきていた。
皆キャプテンのもと指示されたメニューはこなしている。そこに異議を申し立てる者は誰もいない。
だが2年の先輩たちは明らかに真剣さを欠いていた。
夏の大会中までの先輩たちの動きとはまるで違う。1~2週間練習を休んだところで身体のキレはそんなに落ちたりはしない。
……いや、もちろんトップレベルでやっている連中にとっては大きな違いなのかもしれない。
だがなんと言っても我が向陽高校サッカー部は万年予選一回戦負け常連校なのだ!そんな連中と一緒にされては困る!
……まあ、あれだ、つまり、先輩たちの動きがタラタラしているのは明らかに本人たちの意図的なものだってことだ。
サッカーにミスは付き物だし、ましてや俺たちのレベルではミスのないプレイが連続で起きることの方が珍しいのだが、それでも自分がミスしてボールを失った時は真剣に取り返しにいくくらいの気持ちはあった。
今はそれすらなく、ミスをしてもお互いにへらへらしているような状況だった。
当然それは1年生部員の方にも影響を与える。
誰も言葉には出さなかったが、先輩たちがそういう感じでやっていると「こっちは本気でいって良いのか?」という疑問が生じてくる。その影響を受けて1年生側がプレッシャーに行けず、2年生側もますます緩慢なプレーに……と悪循環してゆくのだった。
「おーし、一回休憩にしよう!」
今井キャプテンが声を張り上げた。
当然キャプテンもそうした空気を感じており、良くない状況であることは充分に分かっているはずだ。
だが今それを、翔先輩たち2年生6人に大っぴらに口にして注意をするのが難しいのも痛いほどわかった。
機嫌を損ねられてまた明日から部活に来ないなんてことになれば、サッカー部の存続そのものが危うくなる可能性が高いのだ。
「いや、久しぶりだけど翔のドリブルのキレはさすがだな!」
休憩中みんなで水を飲みながらダベっていると、今井キャプテンがわざとらしい声で俺に話しかけてきた。
ちなみに我がサッカー部にクラブハウスのような立派なものはない。校舎の陰にいつ誰が設置したのか分からない、ビニールシートのスペースがあり、そこにカバンを置き着替えるのだった。
「いやホントですよ!それに中野先輩のキープ力も相変わらずヤバいですね」
俺もすぐに意図を察して普段よりも大きな声を出す。
「だよな~」
意図が伝わったのだろう。キャプテンの返事もワントーンさらに上がる。
だが当の翔先輩たちはまるでその声に気付いていないように、6人だけで何か話して爆笑していた。
キャプテンと俺は顔を見合わせ、小さく首を振った。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
リストカット伝染圧
クナリ
青春
高校一年生の真名月リツは、二学期から東京の高校に転校してきた。
そこで出会ったのは、「その生徒に触れた人は、必ず手首を切ってしまう」と噂される同級生、鈍村鉄子だった。
鉄子は左手首に何本もの傷を持つ自殺念慮の持ち主で、彼女に触れると、その衝動が伝染してリストカットをさせてしまうという。
リツの両親は春に離婚しており、妹は不登校となって、なにかと不安定な状態だったが、不愛想な鉄子と少しずつ打ち解けあい、鉄子に触れないように気をつけながらも関係を深めていく。
表面上は鉄面皮であっても、内面はリツ以上に不安定で苦しみ続けている鉄子のために、内向的過ぎる状態からだんだんと変わっていくリツだったが、ある日とうとう鉄子と接触してしまう。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
片翼のエール
乃南羽緒
青春
「おまえのテニスに足りないものがある」
高校総体テニス競技個人決勝。
大神謙吾は、一学年上の好敵手に敗北を喫した。
技術、スタミナ、メンタルどれをとっても申し分ないはずの大神のテニスに、ひとつ足りないものがある、と。
それを教えてくれるだろうと好敵手から名指しされたのは、『七浦』という人物。
そいつはまさかの女子で、あまつさえテニス部所属の経験がないヤツだった──。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる