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5話
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「しかし、こうテストも終わって後は夏休みを待つだけってなると……なんだか気がゆるんじゃうよねぇ」
7月も半ばとなり一学期はあと数日となっていた。授業も午前中で終わりである。
今日も残すところ授業はあと一時限だけになっていた。
「……太一君?俺には君はいつも気がゆるんでいるように見えるんだけど、違うのかな?」
俺は控えめにツッコミを入れたが、予想通り太一には全く響いていないようだった。
「またまた~、そんなことないよ」
太一の平和そうな笑顔を見ていると、細かいことはどうでもいい気がしてくる。これはこれで人徳だよなぁ。
「ねえ、二人とも夏休みはどうしてるの?」
不意に後ろから声をかけられて、振り返るとポニーテールの少女が立っていた。
彼女の名前は朝川奈緒。
俺と太一と同じ中学出身で以前からちょくちょく話すような間柄だ。
朝川は生徒会で活動していることからも分かるように、成績も良く活発で誰にでも明るく接する女子なので、男子からも女子からも人気があった。
明らかに一軍の彼女と俺みたいな陰キャや太一のような変人とに接点があること自体が不自然に思われるかもしれないが、それには彼女の屈託のなさと共にもう一つの理由がある。彼女の一つ年上の兄朝川翔がサッカー部に居るのだ。
「俺は部活だよ。3年の先輩にとっては最後だし、夏の大会が終わるまでは頑張ろうと思ってるよ。……翔先輩も気合い入ってるんじゃないの?」
「え、兄貴?……さあ?少なくとも家では全然そんな感じは無いけど」
奈緒は苦笑しながら答えた。翔先輩はうちのチームのエースだが、青春の全てを捧げるサッカー少年、という感じではない。練習をサボることもよくあるし、最近では他校の女子と遊んでばかり、ともっぱらの噂だ。要はこれも才能の差というやつだ。
「正洋!部活がんばろうってそれだけ気合い入ってるってことは、レギュラーになったんだね!おめでとう」
話を聞いていた太一が俺のことを自分のことのように喜んでくれた。太一のキラキラした瞳に釣られて、奈緒も俺の方を驚いた顔で見た。
「え、そうなんだ!?吉川君がんばってたもんね!」
……ええい、二人ともそんな嬉しそうな顔をするんじゃない!
「……いや、誰もレギュラーになったなんて言ってないじゃん」
「え?でも今最後の大会になる3年の先輩たちのために頑張るって……」
「別にレギュラーにならなくたって、そういう気持ちで頑張ったって良いだろ!」
……まったく!たとえ自分がレギュラーでなかったとしても、日々の練習の中でチームを盛り上げてゆくことが雰囲気を良くし、チームの勝利と引退する先輩たちのためになる……ってことがどうして分からないのかね?君たちは!
奈緒はいち早く事情を察したのかフォローするように、気まずく微笑んだ。
「ま、まあ……それでもがんばれるのが吉川君のスゴいところだと思うよ!」
だが太一はいまだに納得がいっていないのか、不審な顔をこちらに向けたままだった。
「え、なんでレギュラーになれないの?だって正洋めちゃくちゃ頑張ってるじゃん。それにいっつもサッカーのことばかり話してて、本当にサッカー好きじゃん!そんなのおかしいよ!20人くらいのサッカー部で、正洋よりサッカー好きな人なんて想像付かないよ!」
……俺が責めるべきは純真無垢に人の心をえぐりにくる太一ではなく、才能に差を付けて人を造り出した神様だと思う。
まあ今さらそれを嘆いてもしょうがないことは、15年生きてきて良く分かっているのだ。我が向陽高校が地区大会で毎年一回戦敗退レベルの弱小校でありながら、それでもお情けではなくある程度実力主義でメンバーで決めていることは、サッカーが好きな自分としては嬉しい気持ちもある。
7月も半ばとなり一学期はあと数日となっていた。授業も午前中で終わりである。
今日も残すところ授業はあと一時限だけになっていた。
「……太一君?俺には君はいつも気がゆるんでいるように見えるんだけど、違うのかな?」
俺は控えめにツッコミを入れたが、予想通り太一には全く響いていないようだった。
「またまた~、そんなことないよ」
太一の平和そうな笑顔を見ていると、細かいことはどうでもいい気がしてくる。これはこれで人徳だよなぁ。
「ねえ、二人とも夏休みはどうしてるの?」
不意に後ろから声をかけられて、振り返るとポニーテールの少女が立っていた。
彼女の名前は朝川奈緒。
俺と太一と同じ中学出身で以前からちょくちょく話すような間柄だ。
朝川は生徒会で活動していることからも分かるように、成績も良く活発で誰にでも明るく接する女子なので、男子からも女子からも人気があった。
明らかに一軍の彼女と俺みたいな陰キャや太一のような変人とに接点があること自体が不自然に思われるかもしれないが、それには彼女の屈託のなさと共にもう一つの理由がある。彼女の一つ年上の兄朝川翔がサッカー部に居るのだ。
「俺は部活だよ。3年の先輩にとっては最後だし、夏の大会が終わるまでは頑張ろうと思ってるよ。……翔先輩も気合い入ってるんじゃないの?」
「え、兄貴?……さあ?少なくとも家では全然そんな感じは無いけど」
奈緒は苦笑しながら答えた。翔先輩はうちのチームのエースだが、青春の全てを捧げるサッカー少年、という感じではない。練習をサボることもよくあるし、最近では他校の女子と遊んでばかり、ともっぱらの噂だ。要はこれも才能の差というやつだ。
「正洋!部活がんばろうってそれだけ気合い入ってるってことは、レギュラーになったんだね!おめでとう」
話を聞いていた太一が俺のことを自分のことのように喜んでくれた。太一のキラキラした瞳に釣られて、奈緒も俺の方を驚いた顔で見た。
「え、そうなんだ!?吉川君がんばってたもんね!」
……ええい、二人ともそんな嬉しそうな顔をするんじゃない!
「……いや、誰もレギュラーになったなんて言ってないじゃん」
「え?でも今最後の大会になる3年の先輩たちのために頑張るって……」
「別にレギュラーにならなくたって、そういう気持ちで頑張ったって良いだろ!」
……まったく!たとえ自分がレギュラーでなかったとしても、日々の練習の中でチームを盛り上げてゆくことが雰囲気を良くし、チームの勝利と引退する先輩たちのためになる……ってことがどうして分からないのかね?君たちは!
奈緒はいち早く事情を察したのかフォローするように、気まずく微笑んだ。
「ま、まあ……それでもがんばれるのが吉川君のスゴいところだと思うよ!」
だが太一はいまだに納得がいっていないのか、不審な顔をこちらに向けたままだった。
「え、なんでレギュラーになれないの?だって正洋めちゃくちゃ頑張ってるじゃん。それにいっつもサッカーのことばかり話してて、本当にサッカー好きじゃん!そんなのおかしいよ!20人くらいのサッカー部で、正洋よりサッカー好きな人なんて想像付かないよ!」
……俺が責めるべきは純真無垢に人の心をえぐりにくる太一ではなく、才能に差を付けて人を造り出した神様だと思う。
まあ今さらそれを嘆いてもしょうがないことは、15年生きてきて良く分かっているのだ。我が向陽高校が地区大会で毎年一回戦敗退レベルの弱小校でありながら、それでもお情けではなくある程度実力主義でメンバーで決めていることは、サッカーが好きな自分としては嬉しい気持ちもある。
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