1 / 71
1話
しおりを挟む
世の中には変わった人間がいる。俺、#吉川正洋_よしかわまさひろ__#の中学からの友人である川田太一もその一人だ。
太一はとにかく省エネで生きている。
高校での授業もほとんど寝ている。ただ、最初から授業を全く受ける気がないという訳ではない。必死に授業を受けようと頑張っても頑張っても寝てしまうタイプなのだ。
「やれやれ、またか」という表情で先生が起こすと、飛び上がらんばかりに立ち上がり、大きく頭を下げ「……すみません」と小声ではあるが本当に申し訳なさそうに謝る。そしてわざとらしいくらいに気合いを入れて教科書を広げ直すのだが、5分後にはまた机に突っ伏してしまっている……というのがいつもの光景だ。
授業中以外も寝ている。
よくそんなに寝れるな!というくらい寝ている。
太一は栗色の髪がゆらめく美少年というビジュアルだから、窓際の席で春の陽光を浴びながら微睡んでいる姿はとても絵になる。
男の俺でも「その微睡を守りたい!」と思ってしまう。
そんな時は先生たちも起こすのをためらってしまうことが多い。
女子たちもクスクス笑いながらも好意的に見ているのが伝わってくる。ただ残念ながら太一本人にはそんな好意は全く伝わっていないようだ。
基本的に太一は喋らない。周りの人間が何か話し掛けても、ほとんどの場合は頷きと首振り、必要であれば指差しなどの最低限のジェスチャーでコミュニケーションを済ませるのが常だ。なんとか仲良くなりたいと思って話しかけた女子も100パーセント挫折する。
しかしこれだけなら、単なるコミュ障の儚げな色白の美少年ということになるだろう。それはそれで魅力的だとは思うが、太一をどうしても『変わった人間』と評価せざるを得ない点が別にある。
とにかく飯をよく食うのだ。めちゃくちゃな量を食べる。
野球部が使っているようなドカ弁(今どきよくそんな弁当箱があったな!)を毎日持ってくるのだが、昼飯時にはそれだけでは飽きたらず俺の席に来ては何か物欲しそうな目をする。仕方がないので俺もおにぎりを一個だとか菓子パンを半分あげたりする。あまりに頻繁に来るものだから腹を立てても良さそうなものだと我ながら思うのだが、食べ物をあげた時のパッと嬉しそうに咲く笑顔を見るとむしろこちらが嬉しくなってしまうのだ。
太一のお母さんが弁当を作れなかったという時にはコンビニで10個のおにぎりを買ってきていたし、学校帰りに一緒にラーメンを食いに行った時には4回替え玉をおかわりしていた。
明らかに太一の身体はエネルギー保存の法則に反している。一体、ヤツの身体に溜め込まれたエネルギーは何処に行くのだろうか?ロクにしゃべることもままならず、寝てばかりいる太一の身体に取り込まれたカロリーは、多少は脂肪に変換されていなければおかしいのだが、太一は華奢だ。165センチの身長に51キロの体重は、まだ成長期の高校1年生であることを差し引いても痩せすぎだと思う。
太一のおかしなところはまだまだある。
先に述べた通りほとんどの授業を寝て過ごしている太一だが、成績は良いのだ。
しかもそこそこ良いというレベルではなく、学年トップクラスである。先生方が強く注意しないのも実績が伴っている以上、まあしょうがないという気もする。
「いや……おかしくねえか!?こっちは必死に授業受けて、ノートも真面目に書いて、家でも勉強して……それでも平均点をちょっと越せば良い方だぜ!こんな理不尽なことが世の中に転がっていて良いのかよ!」……などと嘆いていたのは最初にクラスメイトになった中学1年の最初の頃だけだった。
すぐに俺は、世の中の理不尽については受け入れるしかないことを悟った。
要は根本のスペックがまるで違うのだ。どんなに最高のコンディションで最高の技術が発揮されたとしても、ゴーカートではF1カーには勝てないということだ。
太一はとにかく省エネで生きている。
高校での授業もほとんど寝ている。ただ、最初から授業を全く受ける気がないという訳ではない。必死に授業を受けようと頑張っても頑張っても寝てしまうタイプなのだ。
「やれやれ、またか」という表情で先生が起こすと、飛び上がらんばかりに立ち上がり、大きく頭を下げ「……すみません」と小声ではあるが本当に申し訳なさそうに謝る。そしてわざとらしいくらいに気合いを入れて教科書を広げ直すのだが、5分後にはまた机に突っ伏してしまっている……というのがいつもの光景だ。
授業中以外も寝ている。
よくそんなに寝れるな!というくらい寝ている。
太一は栗色の髪がゆらめく美少年というビジュアルだから、窓際の席で春の陽光を浴びながら微睡んでいる姿はとても絵になる。
男の俺でも「その微睡を守りたい!」と思ってしまう。
そんな時は先生たちも起こすのをためらってしまうことが多い。
女子たちもクスクス笑いながらも好意的に見ているのが伝わってくる。ただ残念ながら太一本人にはそんな好意は全く伝わっていないようだ。
基本的に太一は喋らない。周りの人間が何か話し掛けても、ほとんどの場合は頷きと首振り、必要であれば指差しなどの最低限のジェスチャーでコミュニケーションを済ませるのが常だ。なんとか仲良くなりたいと思って話しかけた女子も100パーセント挫折する。
しかしこれだけなら、単なるコミュ障の儚げな色白の美少年ということになるだろう。それはそれで魅力的だとは思うが、太一をどうしても『変わった人間』と評価せざるを得ない点が別にある。
とにかく飯をよく食うのだ。めちゃくちゃな量を食べる。
野球部が使っているようなドカ弁(今どきよくそんな弁当箱があったな!)を毎日持ってくるのだが、昼飯時にはそれだけでは飽きたらず俺の席に来ては何か物欲しそうな目をする。仕方がないので俺もおにぎりを一個だとか菓子パンを半分あげたりする。あまりに頻繁に来るものだから腹を立てても良さそうなものだと我ながら思うのだが、食べ物をあげた時のパッと嬉しそうに咲く笑顔を見るとむしろこちらが嬉しくなってしまうのだ。
太一のお母さんが弁当を作れなかったという時にはコンビニで10個のおにぎりを買ってきていたし、学校帰りに一緒にラーメンを食いに行った時には4回替え玉をおかわりしていた。
明らかに太一の身体はエネルギー保存の法則に反している。一体、ヤツの身体に溜め込まれたエネルギーは何処に行くのだろうか?ロクにしゃべることもままならず、寝てばかりいる太一の身体に取り込まれたカロリーは、多少は脂肪に変換されていなければおかしいのだが、太一は華奢だ。165センチの身長に51キロの体重は、まだ成長期の高校1年生であることを差し引いても痩せすぎだと思う。
太一のおかしなところはまだまだある。
先に述べた通りほとんどの授業を寝て過ごしている太一だが、成績は良いのだ。
しかもそこそこ良いというレベルではなく、学年トップクラスである。先生方が強く注意しないのも実績が伴っている以上、まあしょうがないという気もする。
「いや……おかしくねえか!?こっちは必死に授業受けて、ノートも真面目に書いて、家でも勉強して……それでも平均点をちょっと越せば良い方だぜ!こんな理不尽なことが世の中に転がっていて良いのかよ!」……などと嘆いていたのは最初にクラスメイトになった中学1年の最初の頃だけだった。
すぐに俺は、世の中の理不尽については受け入れるしかないことを悟った。
要は根本のスペックがまるで違うのだ。どんなに最高のコンディションで最高の技術が発揮されたとしても、ゴーカートではF1カーには勝てないということだ。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
リストカット伝染圧
クナリ
青春
高校一年生の真名月リツは、二学期から東京の高校に転校してきた。
そこで出会ったのは、「その生徒に触れた人は、必ず手首を切ってしまう」と噂される同級生、鈍村鉄子だった。
鉄子は左手首に何本もの傷を持つ自殺念慮の持ち主で、彼女に触れると、その衝動が伝染してリストカットをさせてしまうという。
リツの両親は春に離婚しており、妹は不登校となって、なにかと不安定な状態だったが、不愛想な鉄子と少しずつ打ち解けあい、鉄子に触れないように気をつけながらも関係を深めていく。
表面上は鉄面皮であっても、内面はリツ以上に不安定で苦しみ続けている鉄子のために、内向的過ぎる状態からだんだんと変わっていくリツだったが、ある日とうとう鉄子と接触してしまう。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
片翼のエール
乃南羽緒
青春
「おまえのテニスに足りないものがある」
高校総体テニス競技個人決勝。
大神謙吾は、一学年上の好敵手に敗北を喫した。
技術、スタミナ、メンタルどれをとっても申し分ないはずの大神のテニスに、ひとつ足りないものがある、と。
それを教えてくれるだろうと好敵手から名指しされたのは、『七浦』という人物。
そいつはまさかの女子で、あまつさえテニス部所属の経験がないヤツだった──。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる