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23話 どん底ってそんなもんじゃないですよ?
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そんなわけで俺はしばらく無為の日々を送っていた。
生きているのか死んでいるのか分からない日々。……いや、そう思えるということはもちろん俺が生きていることの証ではあるのだが、何の生産性も無い日々。
ただ惰性で飯を食い、大学に行って講義を受け、ほとんど何の感情も動かぬままネット小説に目をやり、帰ってきてベッドに入るだけの日々。
人間が生きることに何の意味もない。究極的にはそれが真実であろうが、自分が送る日々に何の意味も見出せないということを実感するのは俺にとって初めてのことだった。
「slt―1000様、最近はあまりレビュワー活動をされていないようですが、何かアクシデントでもあったのでしょうか? 運営から警告を受けアカウント停止にでもあったのでしょうか? 私はslt―1000様のレビュワーとしての活動に大変刺激を受け、そして実際に自分の作品にもアドバイスを受けネット小説家として成長させていただきました。もしよろしければslt―1000様の事情だけでもお聞かせ願えないでしょうか?」
ある日例によってSNSを通じて一通のDMが来た。
その相手はたしかに以前レビュワーとしてレビューも書き、アドバイスを送ったこともある作家だった。
絡んだのは大分前のことだったから彼? 彼女? のことは忘れていたのだが、今もこの界隈で作家活動を続けてくれていることが知れて少し嬉しかった。
「どうもこんにちは。今も作家活動を続けておられるようで私も一ファンとして嬉しい限りです……」
それに続く返信の文章をどう書くか俺は悩んだ。
というか俺のレビュワーとしての活動が停止していることなど、指摘されるまで意識したことがなかったのだ。
俺にとってネット小説を読み、レビューを書くということは習慣として染み付いたものだった。辛いとか、大変だとか、楽しいだとかそんなものじゃない。何らかの作品を読んだらその評価・感想や分析を書く。それは俺にとって息をするようなものだ。
評価・感想などをまとめたメモ書きのような文章は、今までもレビューとして公表する何倍もの分量を書いてきた。世に出ているのは俺の分析や評価のほんの一部に過ぎないということだ。
そうした下書き作業は(半ば自動的に)依然として続いていた。
しかしそれをレビューという形で世に出すことを俺はいつの間にか止めていた。
原因ははっきりしている。草田可南子や赤城瞳や米倉真智と絡んだことだ。
(……たまには誰かにグチってみるのも発見があるかもしれないよな?)
健全な精神状態の時だったら絶対こんな判断はしなかったと思う。
誰かにレビュワーとしての自分の弱みをさらけ出すなんて、死んでもプライドが許さない行為だっただろう。世の中にカリスマレビュワーなんて俺しか存在しないのだ。俺の悩みの本質を余人が理解し得るわけがないのだ。
だからたまたま来たDMの相手にこんな愚痴を言ってしまったのは、それだけ俺の精神状態が弱っていたということの証だ。
「実はかくかくしかじかのことがありまして……カリスマレビュワーとしての自分の活動は、もう引退しようかとも考えているのです」
この文章を打った時の俺は実に軽い気持ちだったと思う。
相手は俺がカリスマレビュワーとして活動していることを知っている、いや知っているどころか実際に彼? 彼女? の作家活動をも助けたことがあるのだ。
『活動を続けていれば難しい時期もありますよ、一緒に頑張っていきましょうよ。あなたが何の見返りもないのにこうしてレビュワーとしての活動を続けているだけでネット小説界隈の発展には貢献していらっしゃいますよ~』
そんな安易な慰めの言葉を期待していたのだと思う。
しかししばらくしてから届いた返信は、言葉こそ丁寧ではあったが俺の期待した生易しさからは大きく外れたものだった。
「そうでしたか、slt―1000様も色々と事情がおありなのですね。しかし少し離れた者として感じる純粋な疑問なのですが、レビュワーとしてのあなた様の活動が作家に与える影響がポジティブなものばかりではないかもしれない……という点については今までご想像されなかったのでしょうか? 今回はたまたま大学のご学友がその対象となり、その感情の変化や反応をダイレクトに見ることが可能だったわけですが、それと同じことをあなた様は何人ものネット小説家に対して行われてきたわけですよね? あなた様の見えない所で何人ものネット小説家が泣きながら筆を折ってきたかもしれない……というご想像をされたことは今までなかったのでしょうか?」
ここまで読んで俺は少し眩暈がした。
何か文章を読んで身体に変調を感じるほどの衝撃を受けたのは生まれて初めての経験だった。
だけどどんなにショックを受けても次の文章は目に入ってきた。
「私自身も正直言って最初はあなた様からの評価を受け入れるのは覚悟がいりました。私の場合はアドバイスを受け入れて、大いにポジティブな変化が生じたのでこうしてあなた様に心酔してご連絡差し上げるまでの関係になっておりますが……。繰り返しになりますが、その陰には泣きながら筆を折ってきたネット小説家が何人もいたかもしれません。ですが誤解しないで欲しいのは、私はあなた様に『レビュワーとしての活動を辞めろ』などと言いたいのではありません。むしろ逆です。何があっても続けるべきだと私は考えます。あなた様に才能があるのは間違いないでしょう。ご自身では執筆の経験がほとんどないにも関わらずあらゆるジャンルの作品に対して的確な分析・批判、そして改善点までをも挙げることが出来る。これは生まれ持った才能という他ないでしょう。あなた様には才能を持ってしまった者としての義務があるということです。あなた様はすでにカリスマレビュワーになってしまっているのです。今後その過程の中で誰かを傷付けることになってしまったとしても、活動を続けることが才能を持った者としての義務ではないかと私は考えます」
読み終わってからの俺は自室でしばらく呆然としていた。
どんな感情ゆえに呆然としていたのかは定かではない。
俺は今まで何人ものネット小説家を、俺の言葉によって突き落としてきたかもしれない。
ほんの少し想像すればすぐに想像出来ることに俺は今まで思い至らなかったのだ。
やれ『カリスマレビュワーだ!』『書籍化出来た!』『人気作家の仲間入りが出来た!』
自分にとって都合の良いことにばかり目を向けることで、俺は自分を正当化していたのだろう。
言葉に溺れるものは言葉に突き落とされる。
そういうことなのだろう。
生きているのか死んでいるのか分からない日々。……いや、そう思えるということはもちろん俺が生きていることの証ではあるのだが、何の生産性も無い日々。
ただ惰性で飯を食い、大学に行って講義を受け、ほとんど何の感情も動かぬままネット小説に目をやり、帰ってきてベッドに入るだけの日々。
人間が生きることに何の意味もない。究極的にはそれが真実であろうが、自分が送る日々に何の意味も見出せないということを実感するのは俺にとって初めてのことだった。
「slt―1000様、最近はあまりレビュワー活動をされていないようですが、何かアクシデントでもあったのでしょうか? 運営から警告を受けアカウント停止にでもあったのでしょうか? 私はslt―1000様のレビュワーとしての活動に大変刺激を受け、そして実際に自分の作品にもアドバイスを受けネット小説家として成長させていただきました。もしよろしければslt―1000様の事情だけでもお聞かせ願えないでしょうか?」
ある日例によってSNSを通じて一通のDMが来た。
その相手はたしかに以前レビュワーとしてレビューも書き、アドバイスを送ったこともある作家だった。
絡んだのは大分前のことだったから彼? 彼女? のことは忘れていたのだが、今もこの界隈で作家活動を続けてくれていることが知れて少し嬉しかった。
「どうもこんにちは。今も作家活動を続けておられるようで私も一ファンとして嬉しい限りです……」
それに続く返信の文章をどう書くか俺は悩んだ。
というか俺のレビュワーとしての活動が停止していることなど、指摘されるまで意識したことがなかったのだ。
俺にとってネット小説を読み、レビューを書くということは習慣として染み付いたものだった。辛いとか、大変だとか、楽しいだとかそんなものじゃない。何らかの作品を読んだらその評価・感想や分析を書く。それは俺にとって息をするようなものだ。
評価・感想などをまとめたメモ書きのような文章は、今までもレビューとして公表する何倍もの分量を書いてきた。世に出ているのは俺の分析や評価のほんの一部に過ぎないということだ。
そうした下書き作業は(半ば自動的に)依然として続いていた。
しかしそれをレビューという形で世に出すことを俺はいつの間にか止めていた。
原因ははっきりしている。草田可南子や赤城瞳や米倉真智と絡んだことだ。
(……たまには誰かにグチってみるのも発見があるかもしれないよな?)
健全な精神状態の時だったら絶対こんな判断はしなかったと思う。
誰かにレビュワーとしての自分の弱みをさらけ出すなんて、死んでもプライドが許さない行為だっただろう。世の中にカリスマレビュワーなんて俺しか存在しないのだ。俺の悩みの本質を余人が理解し得るわけがないのだ。
だからたまたま来たDMの相手にこんな愚痴を言ってしまったのは、それだけ俺の精神状態が弱っていたということの証だ。
「実はかくかくしかじかのことがありまして……カリスマレビュワーとしての自分の活動は、もう引退しようかとも考えているのです」
この文章を打った時の俺は実に軽い気持ちだったと思う。
相手は俺がカリスマレビュワーとして活動していることを知っている、いや知っているどころか実際に彼? 彼女? の作家活動をも助けたことがあるのだ。
『活動を続けていれば難しい時期もありますよ、一緒に頑張っていきましょうよ。あなたが何の見返りもないのにこうしてレビュワーとしての活動を続けているだけでネット小説界隈の発展には貢献していらっしゃいますよ~』
そんな安易な慰めの言葉を期待していたのだと思う。
しかししばらくしてから届いた返信は、言葉こそ丁寧ではあったが俺の期待した生易しさからは大きく外れたものだった。
「そうでしたか、slt―1000様も色々と事情がおありなのですね。しかし少し離れた者として感じる純粋な疑問なのですが、レビュワーとしてのあなた様の活動が作家に与える影響がポジティブなものばかりではないかもしれない……という点については今までご想像されなかったのでしょうか? 今回はたまたま大学のご学友がその対象となり、その感情の変化や反応をダイレクトに見ることが可能だったわけですが、それと同じことをあなた様は何人ものネット小説家に対して行われてきたわけですよね? あなた様の見えない所で何人ものネット小説家が泣きながら筆を折ってきたかもしれない……というご想像をされたことは今までなかったのでしょうか?」
ここまで読んで俺は少し眩暈がした。
何か文章を読んで身体に変調を感じるほどの衝撃を受けたのは生まれて初めての経験だった。
だけどどんなにショックを受けても次の文章は目に入ってきた。
「私自身も正直言って最初はあなた様からの評価を受け入れるのは覚悟がいりました。私の場合はアドバイスを受け入れて、大いにポジティブな変化が生じたのでこうしてあなた様に心酔してご連絡差し上げるまでの関係になっておりますが……。繰り返しになりますが、その陰には泣きながら筆を折ってきたネット小説家が何人もいたかもしれません。ですが誤解しないで欲しいのは、私はあなた様に『レビュワーとしての活動を辞めろ』などと言いたいのではありません。むしろ逆です。何があっても続けるべきだと私は考えます。あなた様に才能があるのは間違いないでしょう。ご自身では執筆の経験がほとんどないにも関わらずあらゆるジャンルの作品に対して的確な分析・批判、そして改善点までをも挙げることが出来る。これは生まれ持った才能という他ないでしょう。あなた様には才能を持ってしまった者としての義務があるということです。あなた様はすでにカリスマレビュワーになってしまっているのです。今後その過程の中で誰かを傷付けることになってしまったとしても、活動を続けることが才能を持った者としての義務ではないかと私は考えます」
読み終わってからの俺は自室でしばらく呆然としていた。
どんな感情ゆえに呆然としていたのかは定かではない。
俺は今まで何人ものネット小説家を、俺の言葉によって突き落としてきたかもしれない。
ほんの少し想像すればすぐに想像出来ることに俺は今まで思い至らなかったのだ。
やれ『カリスマレビュワーだ!』『書籍化出来た!』『人気作家の仲間入りが出来た!』
自分にとって都合の良いことにばかり目を向けることで、俺は自分を正当化していたのだろう。
言葉に溺れるものは言葉に突き落とされる。
そういうことなのだろう。
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