カリスマレビュワーの俺に逆らうネット小説家は潰しますけど?

きんちゃん

文字の大きさ
上 下
20 / 29

20話 良明の過去①

しおりを挟む
「瞳~、練習終わったらラーメン食べに行こうよ!」

「……わかったわよ。じゃあもう終わりで良いのね?」

「え? まだまだ。あと一本だけ!」

「ちょっとアンタ、さっきから何回『あと一本だけ』って言ってんのよ!」

 それは高3の時だった。
 季節は今と同じくらいの春から夏になる頃。放課後の体育館を俺がなぜわざわざ覗いていたのか、今となっては理由もはっきりとは思い出せない。
 部活はとっくに終わっていたのだが、草田可南子と赤城瞳は居残ってずっと1on1(?)というのだろうか? 1対1の練習をずっとやっていた。
 俺だってもちろん体育でバスケをしたこともあるし、他の人間がやっているのを見たこともあるが、経験者が本気でやっているのをこれだけ間近で見るのは初めてだった。その物珍しさが俺の足を止めさせたのかもしれない。
 2人の迫力とキレ、そして洗練された身のこなしに俺は目を奪われた。バッシュが床をこするキュッキュッという音が不自然なほど大きく聞こえた。

 ウチの高校の女バスはまあまあの強くて、県大会でも良いところまで行くレベルだと聞いた。夏休みには大会があってそれが終われば3年生は部活を引退する筈だ(小中高と部活というものに一切の縁がなかった俺には遠い世界の話のように思えたが)。
 まあとにかく2人がこれだけ熱を帯びた居残り練習をしているのは、高校の部活の集大成という意味があるのだろう。そう理解すると俺は2人の練習をコソコソ陰から見ていることにどこか罪悪感を覚え、その場を離れた。

 もちろん俺は2人のことは以前から知っていた。
 1年生からバスケ部のレギュラーになったということで2人はよく話題になっていたからだ。おまけに容姿端麗で屈託ない性格……まあ俺だけでなくほとんどの人間が彼女たちのことは知っていたと思う。
 つまり俺が2人のことを偏執的に注目していたというよりも、俺のようなド陰キャにまで知れ渡るほど彼女たちの存在は我が高校において輝いていた、と捉えてもらうのが正確だろう。

 でもその日に何か特別なことがあったわけじゃない。
 ああいう存在の女子たちがいるんだ……俺にとってはその程度の感想しか抱きようがなかった。



 でもそれから2人のこと……特に草田可南子のことを見かけると俺は目で追うようになっていた。
 部活以外の時も彼女の周りにはいつも人が沢山いた。周囲の女子は常に「可南子、可南子~」って彼女のことを求めていたし、彼女もいつもそれに応えてキャハキャハ笑っていた。
 一体何が面白くてああいう人間たちはあんなにも頻繁に笑うのだろうか? 時々彼女たちの話に耳を傾けてみたこともあるが、俺にはまるで理解出来なかった。

 彼女の周囲に集まるのは女子だけではなかった。
 同じクラスの男子だけでなく、他のクラス、他の学年の男子たちも彼女に何とか話しかけ、自分を知ってもらおうとしているように見えた。
 そういう時の男子というものはどこかカッコ付けているというか、腹に一物含んで自分を大きく見せようとしているというか……とにかくそうした姿勢が俺にはありありと見えた。
 高校デビューだとか大学デビューだとか、とにかく自分をカッコ良く大きく見せようとする態度に対して俺が嫌悪感を抱くのは、こうした連中を散々目にしてきたからかもしれない。

 思春期の男子たちの中にはそうやってそれとなくアピールする連中だけでなく、もっと積極的に彼女にアプローチを掛ける男子も存在したようだ。
 やれ『サッカー部のキャプテンが草田可南子に告白した!』『野球部のエースがデートに誘った!』だのという噂は底辺ド陰キャの俺にまで流れてきた。そして誘った男がフラれたという噂までがセットで流れてくるその度に、俺はどこか胸を撫で下ろしたものだった。
 別に俺が彼女をどうこう出来るなんていうつもりは微塵もなかった。胸を撫で下ろしたのは思い上がっていたそいつらがフラれる様を想像して溜飲を下げたというだけに過ぎない。

 まあとにかく彼女の周りにはいつも人が沢山いた。
 でも彼女自身はいつもフラットだった。いつも明るく元気でエネルギーに満ち溢れていた(興味のない授業の際はよく寝ているというのも噂で聞いたが)。



 だけど常に元気で明るい人間という存在は恐らくフィクションでしかないのだろう。
「あの子はいつも元気で明るくて優しくて本当に良い子だよ!」という評価は、そう評した者の主観的なものでしかないってことだ。本当の姿なんてものがあるとすれば、周りの人間よりも本人の方が幾分その姿について多くを知っているだろう。

 俺が彼女の明るく元気でない姿を見たのは、夏休みが終わり、長い残暑も過ぎ、陽が陰るのも早まってきた秋の頃だった。
 それは高校から最寄り駅までの道のり。ちょっとだけ脇道に入った小さな公園だった。

 その日俺がその公園に足を踏み入れたのも偶然だった。
 にゃおん~。
 その直前、俺は一匹の黒猫にその公園に誘われたのだった。帰り道の商店街で目が合うとソイツは俺に、付いてくるように、と声をかけてきた。
 猫というのは言うまでもなく人間よりも上位の存在だ。他の人間どもに言われたとしても俺は自分の帰路を優先させただろうが、猫……それもツヤツヤの毛並みをした黒猫に命ぜられては従うしかない。
 俺は黒猫様の仰せのままに後を付いていき、その小さな公園に足を踏み入れた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!

佐々木雄太
青春
四月—— 新たに高校生になった有村敦也。 二つ隣町の高校に通う事になったのだが、 そこでは、予想外の出来事が起こった。 本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。 長女・唯【ゆい】 次女・里菜【りな】 三女・咲弥【さや】 この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、 高校デビューするはずだった、初日。 敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。 カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

Color4

dupi94
青春
高校一年生の岡本行雄は、自分のすべてから目を背けるほどの事故から始まった悲惨な中学時代を経て、新たなスタートを心待ちにしていた。すべてが順調に始まったと思ったそのとき、彼は教室に懐かしい顔ぶれを見つけました。全員が異なる挨拶をしており、何が起こったのかについての記憶がまだ残っています。ユキオは、前に進みたいなら、まず自分の過去と向き合わなければならないことを知っていました。新しい友達の助けを借りて、彼は幼なじみとの間の壊れた絆を修復するプロセスを開始しました。

僕とやっちゃん

山中聡士
青春
高校2年生の浅野タケシは、クラスで浮いた存在。彼がひそかに思いを寄せるのは、クラスの誰もが憧れるキョウちゃんこと、坂本京香だ。 ある日、タケシは同じくクラスで浮いた存在の内田靖子、通称やっちゃんに「キョウちゃんのこと、好きなんでしょ?」と声をかけられる。 読書好きのタケシとやっちゃんは、たちまち意気投合。 やっちゃんとの出会いをきっかけに、タケシの日常は変わり始める。 これは、ちょっと変わった高校生たちの、ちょっと変わった青春物語。

百合を食(は)む

転生新語
ライト文芸
 とある南の地方の女子校である、中学校が舞台。ヒロインの家はお金持ち。今年(二〇二二年)、中学三年生。ヒロインが小学生だった頃から、今年の六月までの出来事を語っていきます。  好きなものは食べてみたい。ちょっとだけ倫理から外(はず)れたお話です。なおアルファポリス掲載に際し、感染病に関する記載を一部、変更しています。  この作品はカクヨム、小説家になろうにも投稿しています。二〇二二年六月に完結済みです。

腹筋少女 仁王立ち

椎名 富比路
青春
pixivお題「仁王立ち」より

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...