カリスマレビュワーの俺に逆らうネット小説家は潰しますけど?

きんちゃん

文字の大きさ
上 下
18 / 29

18話 草田可南子はキレる

しおりを挟む
「ごめん、瞳。じつは米倉さんに私の小説の紹介文を書いてもらったんだ……。それがこんな事態になって瞳にも迷惑を掛けることになるなんて思ってもみなかった。ホントごめん」

 登場してきた草田可南子くさだかなこはまず親友に謝った。

「いやいやいや、私のことはどうでも良いのよ! 可南子が大丈夫なら私は全然大丈夫だから」

 それに対し赤城瞳あかぎひとみはブンブンと音速で首を振って応えた。

「えっと……で、今彼が言ってたことは本当なのかな、米倉さん?」

 可南子は米倉に対して若干トーンを落として尋ねた。俺への嫌悪感丸出しの表情とは打って変わった優しいものだった。

「あ、いや、えっと」
「だからな、俺が米倉に言わせてアドバイスを送ったって言っただろ? 米倉は最初俺の方からお前らに干渉することに反対してたんだけどな……俺がお前らのSNSを調べ上げてネット上からでもアドバイスを送ろう、っていう案を出したら『それなら私が中間役になる』って言い出したんだよ。俺が米倉を利用したんだよ」

「え、ホントに? ……でも小説のこととかもすごく詳しかったし、紹介文だけじゃなくてその他にも色々とアドバイスもくれてたし……本当に彼に言われて私に近付いてきただけなの?」

 俺の言葉に返事をしているはずだが可南子は顔を米倉の方に向け、俺には一瞥もくれなかった。

「いや、あのね……」
「当たり前だ。コイツはちゃんとした文芸誌に掲載されたこともある、ある意味プロの作家だ。俺よりも小説に詳しい部分はある。ただネット小説界に関しては素人だがな」

 俺の言葉に可南子と瞳は目を見開いた。

「え、本当に!?」「マジのマジで!?」

 2人注目された米倉は一瞬返事に迷っていた。

「う、うん。まあそれはウソではないんだけど……でもそれよりも」
「わ、本当なんだ!……ごめん、だからっていうわけじゃないんだけど……米倉さんにはこれからもアドバイスとか送って欲しいし……米倉さんさえ良かったら仲良くして欲しいんだけど……ダメかな?」

「あ、いや全然ダメではないけど……」

 可南子の一言に米倉はやや紅く頬を染めた。
 まあ別に米倉に本気で百合の気質があるというわけではないだろうが、可南子のことは可愛い可愛い言ってたし、普通の女子同士でもこうも面と向かって好意を告げられると照れてしまうものなのかもしれない。
 瞳がその様子を複雑な表情で見ていた。

「で……あなたはどういうつもりなのかしら? えっと……彼の名前は何て言うんだっけ?」

 可南子がようやく俺に正面から視線を向けた。

「なんだ、聞いてなかったのか? 俺の名前は文野良明。SNS上での呼び名は『slt―1000』。カリスマレビュワーだ。俺のレビューによってネット小説界では1万人のフォロワーが動くと言われている。……さっきも言った通りお前らがネット小説に安易に足を踏み入れ、あまつさえ大学内でベラベラベラベラとそれを大声でやり取りするもんだからな。俺が出ないわけにはいかないだろ?」

「……いや、あなたがカリスマレビュワーっていう存在だってことは聞いたわよ。どういうつもりで私たちに絡んで来たの? って聞いているのだけど?」

 可南子は正面から俺の顔をキッと見つめた。
 ギャルっぽい見た目の瞳よりも可南子はさらに鋭い視線だった。体育会系出身らしく彼女はメンタルも強いのかもしれない。

「話を盗み聞いてたんなら俺の意図も理解してるだろ? 単に面白半分、興味本位の野次馬根性だよ。ま、あわよくば俺みたいな陰キャでもお前らみたいな一軍女子ともお近付きになれるかもとも思ってな。それが残り半分ってとこか」

「そう。わかったわ」

 俺の言葉にもっと怒りや軽蔑の色を見せるかと思っていたが、可南子はほとんど表情を変えなかった。
 だが一瞬の安堵もつかの間、すぐに可南子の追撃が来た。

「あのね。カリスマレビュワーだかなんだか知らないけど、瞳に対して変な色目を向けてくるような人間と私は金輪際関わり合いになりたくないから、もう二度と私たちに話しかけて来ないでくれるかな?」

 ……ここまで強い言葉を面と向かって言われるとは思ってもみなかった。
 これはある意味で俺の煽りの才能を物語っているのではないだろうか?

「あ、勘違いしないでね。別にあなたの見た目が陰キャでダサいから、とかそういう話をしているわけじゃないのよ? 見ず知らずの赤の他人に対して弄ぶようなアドバイスを送って来れる人間がムリだって話ね? ……私はたしかに小説も今までほとんど読んでこなかったし、ネット小説については全然知識がなかった。そんな人間が書いたものが大したものじゃない、ってことは私自身が理解しているわ。でもそれなら無視か酷評してしてもらった方がまだマシだったわ!……あなたがカリスマレビュワーだかなんだか知らないけれど、顔も見えない人間に上から目線で一方的に色々言われるのは本当にキモチ悪いの。出来ればもう私たちには近付いて来ないでください」

 そう言うと可南子はペコリと軽く頭を下げた。
 
「行こ、瞳」

 可南子は瞳の手を取り歩き始めた。
 その様子を俺はぼんやりと眺めていた。
 俺の隣には米倉真智が未だに立っていた。コイツもコイツでぼんやりとしているように見えた。

「……あ、米倉さん、また連絡するね!……って言うかごめんなさい。彼、米倉さんの昔からの知り合いだったね。私ヒドイこと言っちゃった……でもごめん、瞳に変な色目使ってるの見て私ホントに腹が立っちゃって……」

 米倉の顔を見て思い出したように、去り際に可南子が声を張った。

「あ……全然大丈夫よ! コイツはこういうの慣れてるから全然大丈夫だし! 私からもフォローしておくし。その上で二度と2人には近付かないように固く言っておくから!」

「うん。ごめんね、ありがとう。また連絡するからアドバイスちょうだいね」

 そう言うと瞳と可南子は今度こそ本当に立ち去って行った。

「え、大丈夫、可南子? ごめんね、何か私のせいで」
「うんう全然大丈夫よ!……って言うか何か私逆に燃えてきたわ! とりあえず今書いてる『君との永遠の時間』は絶対完結させるし、次回作はもっと良いもの書いてアイツにぎゃふんと言わせてやりたいわ! ね、次回作どんなのが良いかな?」
「え? 私に聞くの…………」

 立ち去りながらもすぐに2人は会話を始めた。
 向こうも向こうでそれなりに精神を消耗しているはずだが……元気なヤツらだ。
 ……っつーか相変わらず声デカいんだっての。学習しろ……。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!

佐々木雄太
青春
四月—— 新たに高校生になった有村敦也。 二つ隣町の高校に通う事になったのだが、 そこでは、予想外の出来事が起こった。 本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。 長女・唯【ゆい】 次女・里菜【りな】 三女・咲弥【さや】 この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、 高校デビューするはずだった、初日。 敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。 カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

僕とやっちゃん

山中聡士
青春
高校2年生の浅野タケシは、クラスで浮いた存在。彼がひそかに思いを寄せるのは、クラスの誰もが憧れるキョウちゃんこと、坂本京香だ。 ある日、タケシは同じくクラスで浮いた存在の内田靖子、通称やっちゃんに「キョウちゃんのこと、好きなんでしょ?」と声をかけられる。 読書好きのタケシとやっちゃんは、たちまち意気投合。 やっちゃんとの出会いをきっかけに、タケシの日常は変わり始める。 これは、ちょっと変わった高校生たちの、ちょっと変わった青春物語。

百合を食(は)む

転生新語
ライト文芸
 とある南の地方の女子校である、中学校が舞台。ヒロインの家はお金持ち。今年(二〇二二年)、中学三年生。ヒロインが小学生だった頃から、今年の六月までの出来事を語っていきます。  好きなものは食べてみたい。ちょっとだけ倫理から外(はず)れたお話です。なおアルファポリス掲載に際し、感染病に関する記載を一部、変更しています。  この作品はカクヨム、小説家になろうにも投稿しています。二〇二二年六月に完結済みです。

乙男女じぇねれーしょん

ムラハチ
青春
 見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。 小説家になろうは現在休止中。

腹筋少女 仁王立ち

椎名 富比路
青春
pixivお題「仁王立ち」より

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...