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18話 草田可南子はキレる
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「ごめん、瞳。じつは米倉さんに私の小説の紹介文を書いてもらったんだ……。それがこんな事態になって瞳にも迷惑を掛けることになるなんて思ってもみなかった。ホントごめん」
登場してきた草田可南子はまず親友に謝った。
「いやいやいや、私のことはどうでも良いのよ! 可南子が大丈夫なら私は全然大丈夫だから」
それに対し赤城瞳はブンブンと音速で首を振って応えた。
「えっと……で、今彼が言ってたことは本当なのかな、米倉さん?」
可南子は米倉に対して若干トーンを落として尋ねた。俺への嫌悪感丸出しの表情とは打って変わった優しいものだった。
「あ、いや、えっと」
「だからな、俺が米倉に言わせてアドバイスを送ったって言っただろ? 米倉は最初俺の方からお前らに干渉することに反対してたんだけどな……俺がお前らのSNSを調べ上げてネット上からでもアドバイスを送ろう、っていう案を出したら『それなら私が中間役になる』って言い出したんだよ。俺が米倉を利用したんだよ」
「え、ホントに? ……でも小説のこととかもすごく詳しかったし、紹介文だけじゃなくてその他にも色々とアドバイスもくれてたし……本当に彼に言われて私に近付いてきただけなの?」
俺の言葉に返事をしているはずだが可南子は顔を米倉の方に向け、俺には一瞥もくれなかった。
「いや、あのね……」
「当たり前だ。コイツはちゃんとした文芸誌に掲載されたこともある、ある意味プロの作家だ。俺よりも小説に詳しい部分はある。ただネット小説界に関しては素人だがな」
俺の言葉に可南子と瞳は目を見開いた。
「え、本当に!?」「マジのマジで!?」
2人注目された米倉は一瞬返事に迷っていた。
「う、うん。まあそれはウソではないんだけど……でもそれよりも」
「わ、本当なんだ!……ごめん、だからっていうわけじゃないんだけど……米倉さんにはこれからもアドバイスとか送って欲しいし……米倉さんさえ良かったら仲良くして欲しいんだけど……ダメかな?」
「あ、いや全然ダメではないけど……」
可南子の一言に米倉はやや紅く頬を染めた。
まあ別に米倉に本気で百合の気質があるというわけではないだろうが、可南子のことは可愛い可愛い言ってたし、普通の女子同士でもこうも面と向かって好意を告げられると照れてしまうものなのかもしれない。
瞳がその様子を複雑な表情で見ていた。
「で……あなたはどういうつもりなのかしら? えっと……彼の名前は何て言うんだっけ?」
可南子がようやく俺に正面から視線を向けた。
「なんだ、聞いてなかったのか? 俺の名前は文野良明。SNS上での呼び名は『slt―1000』。カリスマレビュワーだ。俺のレビューによってネット小説界では1万人のフォロワーが動くと言われている。……さっきも言った通りお前らがネット小説に安易に足を踏み入れ、あまつさえ大学内でベラベラベラベラとそれを大声でやり取りするもんだからな。俺が出ないわけにはいかないだろ?」
「……いや、あなたがカリスマレビュワーっていう存在だってことは聞いたわよ。どういうつもりで私たちに絡んで来たの? って聞いているのだけど?」
可南子は正面から俺の顔をキッと見つめた。
ギャルっぽい見た目の瞳よりも可南子はさらに鋭い視線だった。体育会系出身らしく彼女はメンタルも強いのかもしれない。
「話を盗み聞いてたんなら俺の意図も理解してるだろ? 単に面白半分、興味本位の野次馬根性だよ。ま、あわよくば俺みたいな陰キャでもお前らみたいな一軍女子ともお近付きになれるかもとも思ってな。それが残り半分ってとこか」
「そう。わかったわ」
俺の言葉にもっと怒りや軽蔑の色を見せるかと思っていたが、可南子はほとんど表情を変えなかった。
だが一瞬の安堵もつかの間、すぐに可南子の追撃が来た。
「あのね。カリスマレビュワーだかなんだか知らないけど、瞳に対して変な色目を向けてくるような人間と私は金輪際関わり合いになりたくないから、もう二度と私たちに話しかけて来ないでくれるかな?」
……ここまで強い言葉を面と向かって言われるとは思ってもみなかった。
これはある意味で俺の煽りの才能を物語っているのではないだろうか?
「あ、勘違いしないでね。別にあなたの見た目が陰キャでダサいから、とかそういう話をしているわけじゃないのよ? 見ず知らずの赤の他人に対して弄ぶようなアドバイスを送って来れる人間がムリだって話ね? ……私はたしかに小説も今までほとんど読んでこなかったし、ネット小説については全然知識がなかった。そんな人間が書いたものが大したものじゃない、ってことは私自身が理解しているわ。でもそれなら無視か酷評してしてもらった方がまだマシだったわ!……あなたがカリスマレビュワーだかなんだか知らないけれど、顔も見えない人間に上から目線で一方的に色々言われるのは本当にキモチ悪いの。出来ればもう私たちには近付いて来ないでください」
そう言うと可南子はペコリと軽く頭を下げた。
「行こ、瞳」
可南子は瞳の手を取り歩き始めた。
その様子を俺はぼんやりと眺めていた。
俺の隣には米倉真智が未だに立っていた。コイツもコイツでぼんやりとしているように見えた。
「……あ、米倉さん、また連絡するね!……って言うかごめんなさい。彼、米倉さんの昔からの知り合いだったね。私ヒドイこと言っちゃった……でもごめん、瞳に変な色目使ってるの見て私ホントに腹が立っちゃって……」
米倉の顔を見て思い出したように、去り際に可南子が声を張った。
「あ……全然大丈夫よ! コイツはこういうの慣れてるから全然大丈夫だし! 私からもフォローしておくし。その上で二度と2人には近付かないように固く言っておくから!」
「うん。ごめんね、ありがとう。また連絡するからアドバイスちょうだいね」
そう言うと瞳と可南子は今度こそ本当に立ち去って行った。
「え、大丈夫、可南子? ごめんね、何か私のせいで」
「うんう全然大丈夫よ!……って言うか何か私逆に燃えてきたわ! とりあえず今書いてる『君との永遠の時間』は絶対完結させるし、次回作はもっと良いもの書いてアイツにぎゃふんと言わせてやりたいわ! ね、次回作どんなのが良いかな?」
「え? 私に聞くの…………」
立ち去りながらもすぐに2人は会話を始めた。
向こうも向こうでそれなりに精神を消耗しているはずだが……元気なヤツらだ。
……っつーか相変わらず声デカいんだっての。学習しろ……。
登場してきた草田可南子はまず親友に謝った。
「いやいやいや、私のことはどうでも良いのよ! 可南子が大丈夫なら私は全然大丈夫だから」
それに対し赤城瞳はブンブンと音速で首を振って応えた。
「えっと……で、今彼が言ってたことは本当なのかな、米倉さん?」
可南子は米倉に対して若干トーンを落として尋ねた。俺への嫌悪感丸出しの表情とは打って変わった優しいものだった。
「あ、いや、えっと」
「だからな、俺が米倉に言わせてアドバイスを送ったって言っただろ? 米倉は最初俺の方からお前らに干渉することに反対してたんだけどな……俺がお前らのSNSを調べ上げてネット上からでもアドバイスを送ろう、っていう案を出したら『それなら私が中間役になる』って言い出したんだよ。俺が米倉を利用したんだよ」
「え、ホントに? ……でも小説のこととかもすごく詳しかったし、紹介文だけじゃなくてその他にも色々とアドバイスもくれてたし……本当に彼に言われて私に近付いてきただけなの?」
俺の言葉に返事をしているはずだが可南子は顔を米倉の方に向け、俺には一瞥もくれなかった。
「いや、あのね……」
「当たり前だ。コイツはちゃんとした文芸誌に掲載されたこともある、ある意味プロの作家だ。俺よりも小説に詳しい部分はある。ただネット小説界に関しては素人だがな」
俺の言葉に可南子と瞳は目を見開いた。
「え、本当に!?」「マジのマジで!?」
2人注目された米倉は一瞬返事に迷っていた。
「う、うん。まあそれはウソではないんだけど……でもそれよりも」
「わ、本当なんだ!……ごめん、だからっていうわけじゃないんだけど……米倉さんにはこれからもアドバイスとか送って欲しいし……米倉さんさえ良かったら仲良くして欲しいんだけど……ダメかな?」
「あ、いや全然ダメではないけど……」
可南子の一言に米倉はやや紅く頬を染めた。
まあ別に米倉に本気で百合の気質があるというわけではないだろうが、可南子のことは可愛い可愛い言ってたし、普通の女子同士でもこうも面と向かって好意を告げられると照れてしまうものなのかもしれない。
瞳がその様子を複雑な表情で見ていた。
「で……あなたはどういうつもりなのかしら? えっと……彼の名前は何て言うんだっけ?」
可南子がようやく俺に正面から視線を向けた。
「なんだ、聞いてなかったのか? 俺の名前は文野良明。SNS上での呼び名は『slt―1000』。カリスマレビュワーだ。俺のレビューによってネット小説界では1万人のフォロワーが動くと言われている。……さっきも言った通りお前らがネット小説に安易に足を踏み入れ、あまつさえ大学内でベラベラベラベラとそれを大声でやり取りするもんだからな。俺が出ないわけにはいかないだろ?」
「……いや、あなたがカリスマレビュワーっていう存在だってことは聞いたわよ。どういうつもりで私たちに絡んで来たの? って聞いているのだけど?」
可南子は正面から俺の顔をキッと見つめた。
ギャルっぽい見た目の瞳よりも可南子はさらに鋭い視線だった。体育会系出身らしく彼女はメンタルも強いのかもしれない。
「話を盗み聞いてたんなら俺の意図も理解してるだろ? 単に面白半分、興味本位の野次馬根性だよ。ま、あわよくば俺みたいな陰キャでもお前らみたいな一軍女子ともお近付きになれるかもとも思ってな。それが残り半分ってとこか」
「そう。わかったわ」
俺の言葉にもっと怒りや軽蔑の色を見せるかと思っていたが、可南子はほとんど表情を変えなかった。
だが一瞬の安堵もつかの間、すぐに可南子の追撃が来た。
「あのね。カリスマレビュワーだかなんだか知らないけど、瞳に対して変な色目を向けてくるような人間と私は金輪際関わり合いになりたくないから、もう二度と私たちに話しかけて来ないでくれるかな?」
……ここまで強い言葉を面と向かって言われるとは思ってもみなかった。
これはある意味で俺の煽りの才能を物語っているのではないだろうか?
「あ、勘違いしないでね。別にあなたの見た目が陰キャでダサいから、とかそういう話をしているわけじゃないのよ? 見ず知らずの赤の他人に対して弄ぶようなアドバイスを送って来れる人間がムリだって話ね? ……私はたしかに小説も今までほとんど読んでこなかったし、ネット小説については全然知識がなかった。そんな人間が書いたものが大したものじゃない、ってことは私自身が理解しているわ。でもそれなら無視か酷評してしてもらった方がまだマシだったわ!……あなたがカリスマレビュワーだかなんだか知らないけれど、顔も見えない人間に上から目線で一方的に色々言われるのは本当にキモチ悪いの。出来ればもう私たちには近付いて来ないでください」
そう言うと可南子はペコリと軽く頭を下げた。
「行こ、瞳」
可南子は瞳の手を取り歩き始めた。
その様子を俺はぼんやりと眺めていた。
俺の隣には米倉真智が未だに立っていた。コイツもコイツでぼんやりとしているように見えた。
「……あ、米倉さん、また連絡するね!……って言うかごめんなさい。彼、米倉さんの昔からの知り合いだったね。私ヒドイこと言っちゃった……でもごめん、瞳に変な色目使ってるの見て私ホントに腹が立っちゃって……」
米倉の顔を見て思い出したように、去り際に可南子が声を張った。
「あ……全然大丈夫よ! コイツはこういうの慣れてるから全然大丈夫だし! 私からもフォローしておくし。その上で二度と2人には近付かないように固く言っておくから!」
「うん。ごめんね、ありがとう。また連絡するからアドバイスちょうだいね」
そう言うと瞳と可南子は今度こそ本当に立ち去って行った。
「え、大丈夫、可南子? ごめんね、何か私のせいで」
「うんう全然大丈夫よ!……って言うか何か私逆に燃えてきたわ! とりあえず今書いてる『君との永遠の時間』は絶対完結させるし、次回作はもっと良いもの書いてアイツにぎゃふんと言わせてやりたいわ! ね、次回作どんなのが良いかな?」
「え? 私に聞くの…………」
立ち去りながらもすぐに2人は会話を始めた。
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