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16話 赤城瞳の告白
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「あのさ、可南子に小説のアドバイスを送ったってのはどっちなの?」
突然の赤城瞳の登場に俺はパニクって返事の言葉が一切出て来なかった。
彼女は面識のない人間に対する礼儀としてか、一応の微笑みは浮かべていたが、その笑顔は明らかに引きつっていた。
隣にいた米倉真智も彼女の突然の登場に戸惑ったようだ。
返事のない俺たちに対し、瞳はやや焦れた様子で言葉を続けた。
「米倉さんだっけ? あなた可南子の書いた小説に興味があるって言って話しかけてきたわよね? 興味ってのはどういう意味なわけ? ……それにそっちのカレ。米倉さんと最近よく話してるわよね? もしかして可南子の小説にアドバイスを送ったのってあなたなの?」
「……えっと、赤城さんだったわよね? もしかして何か誤解してないかしら? 私と彼は草田さんの小説の話をしていたわけじゃなくてね、違う小説の話をしていたんだけどね……」
「ウソよ! 『可南子ちゃん方には私からフォローしておくから』って言ってたじゃない!」
米倉が何とか誤魔化そうとしたが、ギャル閻魔様はかなりの地獄耳だったようだ。
すでに少し前からの俺たちの会話を聞かれていたということは疑いようがなかった。
はぁ……と一つため息を吐いて米倉が口を開いた。
「そうよ、私は小説に興味があって可南子ちゃんに話しかけたのよ……。私は元々小説が好きだったからアドバイスも送った。でも別にからかい半分でやったつもりはないし、私なりに真剣に考えたものだったの。悪意がなかったことだけは信じて欲しいの」
「……可南子はホントにピュアなのよ。それにホントに好きになったものには一途なのよ。周りにあわせて流行っているものに乗ったフリもするけど、ホントに好きなものとは全然熱の入り方が違うのよ。私には分かるの。……だからあの子のことをよく知りもしない人たちが余計なことを言って傷付けないで!」
瞳の草田可南子のことを語る言葉は少し熱が入り過ぎているようにも見えた。
「え? お前はアイツの何なの? 保護者か?」
古くからの親友というだけでは説明できない熱量に思えて、俺は思わず尋ねていた。
「……赤城さん? キモい彼の言うことだけど私もそう思うわ。もう大学生なんだから彼女のためにもあまり干渉し過ぎるのはあまり良くないんじゃないかしら? 彼女の小説を書きたいっていう気持ちが本当なら、なおさら色々な意見に耳を傾ける必要があるんじゃないかしら? もちろんだからと言って私たちのしたことが正しかったのかは分からないけど……」
俺の言葉に米倉も追従した。
……俺のことをキモいとか言っていたのは、まあとりあえずスルーしておいてやる。
2対1の構図になったことで、瞳は余計に感情的になったように顔を赤くした。
「……ダメなの! 私はあの子に傷付いて欲しくないの! あの子は誰にでも優しくて明るくて可愛いから色々な人間が寄ってくる。その中には彼女を悪く利用しようとする人間もいっぱいいる。そんな人間からあの子を守るのは私しかいないの!」
どんどんヒートアップしてゆく赤城瞳の熱量に、俺と米倉は圧倒されていた。
「……あの? 赤城さん? 何でそこまで草田さんのことを……。別に草田さんもそんなに弱い女の子じゃないでしょ?」
弱いどころではない。草田可南子は高校時代バスケ部のエースだったのだ。彼女の強さを俺は知っていた。
「何でって……私は可南子のことが好きだから。そうよ!……私はあの子のことが好きなの!」
絞り出すように言った瞳の『好き』の意味が単なる親友に対する『好き』でないことは明瞭だった。
俺も米倉も、百合などと簡単に茶化せる雰囲気ではなかった。
「えっと……可南子ちゃんはそのことを知ってるのかしら?」
恐る恐る聞いた米倉の言葉に純情ギャル乙女は激しく首を振った。
「知らない……。そんなこと言えるわけないでしょ! 私と可南子はずっと一緒だったんだもん……そんなこと言えるわけない……」
呻くように言った自分の言葉にハッとしたように瞳は言葉を続けた。
「ね! このこと可南子には絶対内緒にしてね? バレたら私とあの子の関係が全部終わっちゃう……。私は今のままで良いんだから……。とにかく申し訳ないんだけど2人とも可南子には今後近付かないで欲しいの。特に米倉さん! あなたのことを可南子も気になってるのが私には分かるの。多分今のあの子は小説のことで頭がいっぱいだから。でも可南子が小説にこれからもっとハマっていったらきっとあの子は悩むばかりだと思う。こんな短期間でも今まで見たこともないくらい憂鬱な表情が増えたんだもの! だから、ちょっとあなたの方から徐々に距離を取っていってフェイドアウトしていってくれないかしら?」
はぁ……。ったく一体俺らは何を見せられているのだろう。
死角から突然現れて俺と米倉をボコボコにしていくかに思えた純情可憐ギャルは、暴発の暴走の暴徒でまさかの親友に対する恋心を自供したのだった。
挙句の果てに米倉に草田可南子とは距離を置け、と言い出す始末だ。
……まあ元々俺は同じ高校だと言うのにまったく認識されていないから、関係性は変わりないが。
「あのな……草田可南子だけじゃなくてお前も見た目に反して純真すぎだろ。米倉の言ったことをなんでそんなに簡単に信じれるんだ?」
俺の言葉に今度は赤城瞳も米倉も驚く番だった。
……良いね。ゾクゾクするぜ。今まではずっと誰からも人間扱いされないモブとして生活してきたからな。向けられた視線が悪意に満ちたものでも俺にとっては嬉しいぜ。
突然の赤城瞳の登場に俺はパニクって返事の言葉が一切出て来なかった。
彼女は面識のない人間に対する礼儀としてか、一応の微笑みは浮かべていたが、その笑顔は明らかに引きつっていた。
隣にいた米倉真智も彼女の突然の登場に戸惑ったようだ。
返事のない俺たちに対し、瞳はやや焦れた様子で言葉を続けた。
「米倉さんだっけ? あなた可南子の書いた小説に興味があるって言って話しかけてきたわよね? 興味ってのはどういう意味なわけ? ……それにそっちのカレ。米倉さんと最近よく話してるわよね? もしかして可南子の小説にアドバイスを送ったのってあなたなの?」
「……えっと、赤城さんだったわよね? もしかして何か誤解してないかしら? 私と彼は草田さんの小説の話をしていたわけじゃなくてね、違う小説の話をしていたんだけどね……」
「ウソよ! 『可南子ちゃん方には私からフォローしておくから』って言ってたじゃない!」
米倉が何とか誤魔化そうとしたが、ギャル閻魔様はかなりの地獄耳だったようだ。
すでに少し前からの俺たちの会話を聞かれていたということは疑いようがなかった。
はぁ……と一つため息を吐いて米倉が口を開いた。
「そうよ、私は小説に興味があって可南子ちゃんに話しかけたのよ……。私は元々小説が好きだったからアドバイスも送った。でも別にからかい半分でやったつもりはないし、私なりに真剣に考えたものだったの。悪意がなかったことだけは信じて欲しいの」
「……可南子はホントにピュアなのよ。それにホントに好きになったものには一途なのよ。周りにあわせて流行っているものに乗ったフリもするけど、ホントに好きなものとは全然熱の入り方が違うのよ。私には分かるの。……だからあの子のことをよく知りもしない人たちが余計なことを言って傷付けないで!」
瞳の草田可南子のことを語る言葉は少し熱が入り過ぎているようにも見えた。
「え? お前はアイツの何なの? 保護者か?」
古くからの親友というだけでは説明できない熱量に思えて、俺は思わず尋ねていた。
「……赤城さん? キモい彼の言うことだけど私もそう思うわ。もう大学生なんだから彼女のためにもあまり干渉し過ぎるのはあまり良くないんじゃないかしら? 彼女の小説を書きたいっていう気持ちが本当なら、なおさら色々な意見に耳を傾ける必要があるんじゃないかしら? もちろんだからと言って私たちのしたことが正しかったのかは分からないけど……」
俺の言葉に米倉も追従した。
……俺のことをキモいとか言っていたのは、まあとりあえずスルーしておいてやる。
2対1の構図になったことで、瞳は余計に感情的になったように顔を赤くした。
「……ダメなの! 私はあの子に傷付いて欲しくないの! あの子は誰にでも優しくて明るくて可愛いから色々な人間が寄ってくる。その中には彼女を悪く利用しようとする人間もいっぱいいる。そんな人間からあの子を守るのは私しかいないの!」
どんどんヒートアップしてゆく赤城瞳の熱量に、俺と米倉は圧倒されていた。
「……あの? 赤城さん? 何でそこまで草田さんのことを……。別に草田さんもそんなに弱い女の子じゃないでしょ?」
弱いどころではない。草田可南子は高校時代バスケ部のエースだったのだ。彼女の強さを俺は知っていた。
「何でって……私は可南子のことが好きだから。そうよ!……私はあの子のことが好きなの!」
絞り出すように言った瞳の『好き』の意味が単なる親友に対する『好き』でないことは明瞭だった。
俺も米倉も、百合などと簡単に茶化せる雰囲気ではなかった。
「えっと……可南子ちゃんはそのことを知ってるのかしら?」
恐る恐る聞いた米倉の言葉に純情ギャル乙女は激しく首を振った。
「知らない……。そんなこと言えるわけないでしょ! 私と可南子はずっと一緒だったんだもん……そんなこと言えるわけない……」
呻くように言った自分の言葉にハッとしたように瞳は言葉を続けた。
「ね! このこと可南子には絶対内緒にしてね? バレたら私とあの子の関係が全部終わっちゃう……。私は今のままで良いんだから……。とにかく申し訳ないんだけど2人とも可南子には今後近付かないで欲しいの。特に米倉さん! あなたのことを可南子も気になってるのが私には分かるの。多分今のあの子は小説のことで頭がいっぱいだから。でも可南子が小説にこれからもっとハマっていったらきっとあの子は悩むばかりだと思う。こんな短期間でも今まで見たこともないくらい憂鬱な表情が増えたんだもの! だから、ちょっとあなたの方から徐々に距離を取っていってフェイドアウトしていってくれないかしら?」
はぁ……。ったく一体俺らは何を見せられているのだろう。
死角から突然現れて俺と米倉をボコボコにしていくかに思えた純情可憐ギャルは、暴発の暴走の暴徒でまさかの親友に対する恋心を自供したのだった。
挙句の果てに米倉に草田可南子とは距離を置け、と言い出す始末だ。
……まあ元々俺は同じ高校だと言うのにまったく認識されていないから、関係性は変わりないが。
「あのな……草田可南子だけじゃなくてお前も見た目に反して純真すぎだろ。米倉の言ったことをなんでそんなに簡単に信じれるんだ?」
俺の言葉に今度は赤城瞳も米倉も驚く番だった。
……良いね。ゾクゾクするぜ。今まではずっと誰からも人間扱いされないモブとして生活してきたからな。向けられた視線が悪意に満ちたものでも俺にとっては嬉しいぜ。
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