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12話 相変わらず感じの悪い2人
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「あのな……ネット小説ってのはそんなに簡単な世界じゃないんだよ」
俺は何度繰り返したか分からない言葉をまた言った。
「キミヒトは今たしかに大人気のドラマだ。だけどこの界隈とははっきり言って何の関係もない。ネット小説の潮流は外界とはあまり互換性がないんだよ。……もちろん、人気の作品がコミカライズやアニメ化されることはある。だけどその逆はほとんどない。独創的な天才漫画家の作品を小説で表現しようと試みる作品は多い。他にも人気の映画や海外ドラマなんかを元ネタにしたような作品を書く作者もそれなりにいる。……でもそうした作品がネット小説界隈で大ヒットすることはほとんどない」
「あら、単に質の問題なんじゃないの?」
まあ普通はそう考えるだろうな。でもそれこそがこの界隈を知らないことの証拠だ。
「そんなことはない。質の良し悪しとは何か?ということ自体が問題ではあるが、まあそれはとりあえず置いておこう」
「置いておくの? でもそれなら、それなりに興味を持つ人はいるでしょ? 同じ時代の作品なんだし流行というものは当然色々なところに影響を与えるから流行なんでしょ? それにターゲットというか読者層も年代的には近いんじゃないの?」
「違うんだよ。ネット小説の読者……特に読み専と呼ばれる人たち(自分では書かず読む専門の利用者。自分も書き手である登録者との区別としてこう呼ばれる)は保守的なんだよ。すでに面白さがある程度保証されている作品にしか手を出さない。だから言い方は悪いがヒット作の二番煎じでも構わない。似たような読み味の作品を求めている人が多いんだよ」
俺の分析に米倉は目を剝いた。
「は、何それ? じゃあ新しい作品を読む意味なんてないじゃない? 何の発見も感動も無いなら何のためにそういう人たちはネット小説を読むの?」
ムキになってきた米倉に俺は仕方なくため息を一つ吐いた。こういう意見がコイツから出て来ることはほとんど予想出来たことだったからだ。だからお前はこっちの界隈に関わるな、と言ったろうに……。
「あのな、ネット小説ってのはあくまで暇つぶしだ。高尚な読み味や人生の教訓を求めて読んでいる読者なんざ1人もいない。……しかも現代の若者たちはとにかく時間が無いんだよ。見なきゃいけないものはネット小説だけじゃない。YouTubeもtik-tokもあるし、各種SNSもある。サブスクの映画もアニメも無数にあるんだぞ? 当然学生なら勉強にも少しは時間を割かなきゃいけないだろう」
「まあ……それはもちろん私自身思い当たる節もあるけど」
「そんな中で挑戦的なネット小説に手を出して失敗したらどうだ? 貴重な時間を無駄にするだけだろ? だからとにかくハズレない作品を選ぶんだよ。自分の好きな作品と似た内容で似た読み味でサクサク気持ち良く進んで不快な気分を味わうリスクの無い作品を選んでゆくんだよ」
「なるほどね……納得は出来ないけど傾向は何となく理解出来たわ」
ようやく米倉は幾分かはネット小説界隈というものが理解出来たようだ。
「未だに長文のタイトルが人気なのもそれだ。読者はとにかく余計なものを開いて時間を損したくないんだよ。長文タイトルの作品はタイトルだけでその作品の内容や読み味が分かるだろ? アイツの書いた『君との永遠の時間』じゃ内容が伝わって来ないだろ? だからほとんどの読者は敬遠する」
「なるほどね……」
俺の言葉に米倉は何度も頷いていた。
……ったく、この程度で感心するなら簡単に自分もネット小説で連載してみようかな、とか言うんじゃねえよ。今の話なんてカリスマレビュワーとしての秘密でも何でもないからな。単なる常識的傾向。こんなことは自覚的に連載している筆者なら全員間違いなく理解している。
「じゃあさ、それを可南子ちゃんにアドバイスしてあげれば良いんじゃないの?」
「……バカか? 何で俺がそんなことしなきゃならない? アイツだって俺みたいな気持ち悪い人間に突然そんな話されたらドン引きだろ? ドン引き通り越して通報されるんじゃないのか?」
「あら? ずいぶんと卑屈なのね? まあそこまで言うならやめておいた方が良さそうね? じゃあむしろ私と組まない?」
「お前と組む?……お前な、こんだけ話を聞いててまだこっちの界隈に乗り込んで来ようと思ってんのかよ? 悪いことは言わないからお前はちゃんとした文芸誌の方で頑張れよ。損するだけだぞ?」
「あら、話を聞いてより興味が出てきたのは本当よ? 少なくとも私の方が可南子ちゃんよりも基本的な文章力はあるんだから有利じゃない? キミの言う注意点さえ押さえてアドバイスを受けながらどこまでアクセス数を増やせるか……ちょっと面白そうじゃない?」
「あのな……言ったかもしれないが俺はこのネット小説という世界が本気で好きなんだよ。今回お前に依頼された草田可南子の原稿を読んだのは、ただお前と昔からの知り合いだったという義理を汲んだだけだ。……俺はお前のようなやつにこっちの世界に来て欲しくないんだよ。それはお前が損をするから忠告しているという意味だけじゃない。お前みたいな部外者が興味本位と上から目線でネット小説という場所を見下してるのがマジで気に食わないんだよ。……だからお前はこっちの世界には入って来ないでくれ」
言い過ぎたかもしれないという気まずさは後になってから覚えたが……それでもウソは言っていない。
俺の言葉を聞くと米倉真智は流石に興醒めしたような表情を浮かべた。
「そっか。そんなつもりはなかったんだけど、キミにそう思わせてしまったのなら私が悪かったわね。……ごめんなさい」
そういうと米倉は殊勝に頭を下げた。
また、ああだこうだと憎まれ口を叩くとばかり思っていた俺は拍子抜けしてしまった。
「ね、また時々話すくらいなら良いでしょ?」
「 ……まあ、別に構わんが。知らない仲じゃないしな……」
俺とコイツとに何か他の共通の話題があるのかは見えてこないが……圧倒的ルックスの女子にニコリと微笑まれてそれを拒める男などこの世に存在するのだろうか? 俺は頷かざるを得なかった。
「良かった。じゃあまたね」
そう告げると彼女はショートパンツから伸びた白い脚を見せつけるような軽やかな足取りで食堂を後にした。
俺は何度繰り返したか分からない言葉をまた言った。
「キミヒトは今たしかに大人気のドラマだ。だけどこの界隈とははっきり言って何の関係もない。ネット小説の潮流は外界とはあまり互換性がないんだよ。……もちろん、人気の作品がコミカライズやアニメ化されることはある。だけどその逆はほとんどない。独創的な天才漫画家の作品を小説で表現しようと試みる作品は多い。他にも人気の映画や海外ドラマなんかを元ネタにしたような作品を書く作者もそれなりにいる。……でもそうした作品がネット小説界隈で大ヒットすることはほとんどない」
「あら、単に質の問題なんじゃないの?」
まあ普通はそう考えるだろうな。でもそれこそがこの界隈を知らないことの証拠だ。
「そんなことはない。質の良し悪しとは何か?ということ自体が問題ではあるが、まあそれはとりあえず置いておこう」
「置いておくの? でもそれなら、それなりに興味を持つ人はいるでしょ? 同じ時代の作品なんだし流行というものは当然色々なところに影響を与えるから流行なんでしょ? それにターゲットというか読者層も年代的には近いんじゃないの?」
「違うんだよ。ネット小説の読者……特に読み専と呼ばれる人たち(自分では書かず読む専門の利用者。自分も書き手である登録者との区別としてこう呼ばれる)は保守的なんだよ。すでに面白さがある程度保証されている作品にしか手を出さない。だから言い方は悪いがヒット作の二番煎じでも構わない。似たような読み味の作品を求めている人が多いんだよ」
俺の分析に米倉は目を剝いた。
「は、何それ? じゃあ新しい作品を読む意味なんてないじゃない? 何の発見も感動も無いなら何のためにそういう人たちはネット小説を読むの?」
ムキになってきた米倉に俺は仕方なくため息を一つ吐いた。こういう意見がコイツから出て来ることはほとんど予想出来たことだったからだ。だからお前はこっちの界隈に関わるな、と言ったろうに……。
「あのな、ネット小説ってのはあくまで暇つぶしだ。高尚な読み味や人生の教訓を求めて読んでいる読者なんざ1人もいない。……しかも現代の若者たちはとにかく時間が無いんだよ。見なきゃいけないものはネット小説だけじゃない。YouTubeもtik-tokもあるし、各種SNSもある。サブスクの映画もアニメも無数にあるんだぞ? 当然学生なら勉強にも少しは時間を割かなきゃいけないだろう」
「まあ……それはもちろん私自身思い当たる節もあるけど」
「そんな中で挑戦的なネット小説に手を出して失敗したらどうだ? 貴重な時間を無駄にするだけだろ? だからとにかくハズレない作品を選ぶんだよ。自分の好きな作品と似た内容で似た読み味でサクサク気持ち良く進んで不快な気分を味わうリスクの無い作品を選んでゆくんだよ」
「なるほどね……納得は出来ないけど傾向は何となく理解出来たわ」
ようやく米倉は幾分かはネット小説界隈というものが理解出来たようだ。
「未だに長文のタイトルが人気なのもそれだ。読者はとにかく余計なものを開いて時間を損したくないんだよ。長文タイトルの作品はタイトルだけでその作品の内容や読み味が分かるだろ? アイツの書いた『君との永遠の時間』じゃ内容が伝わって来ないだろ? だからほとんどの読者は敬遠する」
「なるほどね……」
俺の言葉に米倉は何度も頷いていた。
……ったく、この程度で感心するなら簡単に自分もネット小説で連載してみようかな、とか言うんじゃねえよ。今の話なんてカリスマレビュワーとしての秘密でも何でもないからな。単なる常識的傾向。こんなことは自覚的に連載している筆者なら全員間違いなく理解している。
「じゃあさ、それを可南子ちゃんにアドバイスしてあげれば良いんじゃないの?」
「……バカか? 何で俺がそんなことしなきゃならない? アイツだって俺みたいな気持ち悪い人間に突然そんな話されたらドン引きだろ? ドン引き通り越して通報されるんじゃないのか?」
「あら? ずいぶんと卑屈なのね? まあそこまで言うならやめておいた方が良さそうね? じゃあむしろ私と組まない?」
「お前と組む?……お前な、こんだけ話を聞いててまだこっちの界隈に乗り込んで来ようと思ってんのかよ? 悪いことは言わないからお前はちゃんとした文芸誌の方で頑張れよ。損するだけだぞ?」
「あら、話を聞いてより興味が出てきたのは本当よ? 少なくとも私の方が可南子ちゃんよりも基本的な文章力はあるんだから有利じゃない? キミの言う注意点さえ押さえてアドバイスを受けながらどこまでアクセス数を増やせるか……ちょっと面白そうじゃない?」
「あのな……言ったかもしれないが俺はこのネット小説という世界が本気で好きなんだよ。今回お前に依頼された草田可南子の原稿を読んだのは、ただお前と昔からの知り合いだったという義理を汲んだだけだ。……俺はお前のようなやつにこっちの世界に来て欲しくないんだよ。それはお前が損をするから忠告しているという意味だけじゃない。お前みたいな部外者が興味本位と上から目線でネット小説という場所を見下してるのがマジで気に食わないんだよ。……だからお前はこっちの世界には入って来ないでくれ」
言い過ぎたかもしれないという気まずさは後になってから覚えたが……それでもウソは言っていない。
俺の言葉を聞くと米倉真智は流石に興醒めしたような表情を浮かべた。
「そっか。そんなつもりはなかったんだけど、キミにそう思わせてしまったのなら私が悪かったわね。……ごめんなさい」
そういうと米倉は殊勝に頭を下げた。
また、ああだこうだと憎まれ口を叩くとばかり思っていた俺は拍子抜けしてしまった。
「ね、また時々話すくらいなら良いでしょ?」
「 ……まあ、別に構わんが。知らない仲じゃないしな……」
俺とコイツとに何か他の共通の話題があるのかは見えてこないが……圧倒的ルックスの女子にニコリと微笑まれてそれを拒める男などこの世に存在するのだろうか? 俺は頷かざるを得なかった。
「良かった。じゃあまたね」
そう告げると彼女はショートパンツから伸びた白い脚を見せつけるような軽やかな足取りで食堂を後にした。
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