10 / 29
10話 レビュワーの仕事っぷり②
しおりを挟む
米倉真智に返事をしながら、俺は返信のコメントを打ち込んだ。
『筆者様。お疲れ様です。執筆でお忙しいところ私のような者にわざわざ連絡頂き恐縮です。さて、筆者様は私のコメントによって読者が一気に離れたとおっしゃいますが、果たして本当でしょうか? 本当に作品が面白ければ、私のような部外者がどんなコメントを送ろうが読者の方は読み続けるのではないでしょうか? 私は純粋に読み手の視点から疑問点を述べさせて頂いたまでです。私は全ての作者の皆さまのことを深く尊敬しております。私のような者が同じ土俵に立つことなど恐れ多いことであります。作者様も私のような者に連絡を送っている暇があるのならば少しでも執筆を進めるなり、違う作品の構想を練るなり、はたまたインプットに時間を費やすなど、有益な時間を送られてはいかがでしょうか?これからも作品楽しみにしております』
「……何か、すっごいイヤミな内容ね」
「どこがだよ? 俺の正直な気持ちだぞ。というかかなり気遣ったコメントだ。昔の俺ならもっとボロクソ言ってる。俺も大人になったもんだよ」
以前にも同様に筆者から好戦的なコメントが来た時のことを思い出した。あの時はもっと激しい言葉を使って罵倒したし、それがきっかけだったかは定かないが……その筆者は執筆を辞めてしまった。少なくともそのアカウントでの更新は二度とされなかった。
そうした反省もあって、最近の俺はかなり抑えたコメントを送るようにしているのだ。
「どこがよ!? この作品はそんなにヒドイ内容だったの? 」
「……バカか。論ずるに足りない作品なんてのはネット小説界には海の砂粒の数ほど転がっている。本当に見どころのない作品に俺が触れることは一切無い。この作品はかなり人気の作品だったんだがな……人気が出るに従って読者の惰性を見越したような雑な展開が続いていたからな、それを指摘したまでだ。俺のコメントを受けた後だってランキング入りしている。人気作には違いないさ」
「そうなの?」
「ああ。まあ、そもそも俺にこんなコメントを送ってくる時点で傲慢な性格を表していると思うけどな。本当に面白い作品を作ることではなく、人気作になりさえすれば何でも良いと思っているタイプの作者だろ。『そんならお前が書いてみろや!』なんてのは作家なら絶対に言ってはいけない敗北宣言みたいなもんだ。そもそも読者のコメントなんかでそんなにメンタル崩されるくらいの弱い人間は創作に向いてないから、早々に辞めた方が自分の為だと思うぞ」
「ずいぶんとアレな言い方だけど……たしかに一利なくはないのかな? でもさそんなキツい言葉、言われた方も傷付くだろうけど、言う方も結構なストレスなんじゃない? 何でこんなことしてるの? 何かキミにメリットはあるの?」
「メリットか……。お前もずいぶんと俗なことを言うんだな。もちろん俺には何の実益もないさ。時間と労力をアホみたいに費やして一銭も入らない。それでもこんなことを繰り返しているのは愛でしかない。このネット小説界が好きだから。より良くなっていって欲しいから。他にはないな」
「……ふうん」
分かったような分からないような返事を米倉はした。
「それに今日はたまたまこういう内容だったけどな。感謝される時もあるんだぜ? 俺のアドバイスを受けてその通りに作品を修正していったら出版社の人の目に留まって書籍化された、って話も何件かあるんだ。そういう話を聞いた時の喜びは何物にも替え難い」
「え、スゴイじゃない! そんなこと出来るんなら出版社に入って編集者を目指せば? っていうかそれだけの実績がすでにあるんなら出版社の方でも歓迎すると思うけれど?」
米倉は驚きの声を上げたが、俺は軽く首を振った。
「……そんなつもりはない。出版社になんか入っちまったら会社の利益を考えざるを得なくなって公平性が崩れるだろ。公平性が崩れたら俺のレビュワーとしての力は何の意味もなくなる」
「……ふ~ん。不思議な人だね、キミは」
そう言うと米倉はもう俺との会話に満足したのか席を立った。
……まったく、いつもいつも自分勝手なタイミングで去って行きやがる。
「じゃあ、明日までに可南子ちゃんの小説読んでおいてね。私も読んでおくから」
「……は? それとこれとは話が違うだろ? 俺だってそんなヒマじゃねえんだぞ!」
俺の反論に米倉は今までで一番の満面の笑みで応えた。
「いやぁ、キミがどう感じるのか? 私の感想とどれくらい差異があるのか? 少し本気で興味が出てきたのよ。よろしくね!」
「あ、おい……」
去りかけた米倉を呼び止めようとしたが、その声は聞き入れられるはずもなく……と思っていたら、予想に反して彼女は振り返った。
「ねえ、文野君。……キミ自身は今何か書いていないの?」
「は? 毎日こうしてレビューを書いてるだろ。何を見てたんだ……」
「そうじゃなくってさ! キミ自身のオリジナルの何かは書いていないの? 私は高校に入ってから小説を書き始めて賞も取ったよ? 小学校の時も中学校の時も私はキミのことをライバルだと思っていたんだけどな……」
今までとは違った歯切れの悪い米倉の言葉が俺にはイマイチ理解出来なかった。
「……お前が何を言いたいのか分からんが、俺にはコレしかないからな。……まあお前もお前の道を頑張れよ」
「そっか。……ま、良いや。また明日ね」
そう言うと米倉は早足で歩き始めた。
ヒールの高いサンダルの音がカツカツと大学構内の高い天井によく響いた。
『筆者様。お疲れ様です。執筆でお忙しいところ私のような者にわざわざ連絡頂き恐縮です。さて、筆者様は私のコメントによって読者が一気に離れたとおっしゃいますが、果たして本当でしょうか? 本当に作品が面白ければ、私のような部外者がどんなコメントを送ろうが読者の方は読み続けるのではないでしょうか? 私は純粋に読み手の視点から疑問点を述べさせて頂いたまでです。私は全ての作者の皆さまのことを深く尊敬しております。私のような者が同じ土俵に立つことなど恐れ多いことであります。作者様も私のような者に連絡を送っている暇があるのならば少しでも執筆を進めるなり、違う作品の構想を練るなり、はたまたインプットに時間を費やすなど、有益な時間を送られてはいかがでしょうか?これからも作品楽しみにしております』
「……何か、すっごいイヤミな内容ね」
「どこがだよ? 俺の正直な気持ちだぞ。というかかなり気遣ったコメントだ。昔の俺ならもっとボロクソ言ってる。俺も大人になったもんだよ」
以前にも同様に筆者から好戦的なコメントが来た時のことを思い出した。あの時はもっと激しい言葉を使って罵倒したし、それがきっかけだったかは定かないが……その筆者は執筆を辞めてしまった。少なくともそのアカウントでの更新は二度とされなかった。
そうした反省もあって、最近の俺はかなり抑えたコメントを送るようにしているのだ。
「どこがよ!? この作品はそんなにヒドイ内容だったの? 」
「……バカか。論ずるに足りない作品なんてのはネット小説界には海の砂粒の数ほど転がっている。本当に見どころのない作品に俺が触れることは一切無い。この作品はかなり人気の作品だったんだがな……人気が出るに従って読者の惰性を見越したような雑な展開が続いていたからな、それを指摘したまでだ。俺のコメントを受けた後だってランキング入りしている。人気作には違いないさ」
「そうなの?」
「ああ。まあ、そもそも俺にこんなコメントを送ってくる時点で傲慢な性格を表していると思うけどな。本当に面白い作品を作ることではなく、人気作になりさえすれば何でも良いと思っているタイプの作者だろ。『そんならお前が書いてみろや!』なんてのは作家なら絶対に言ってはいけない敗北宣言みたいなもんだ。そもそも読者のコメントなんかでそんなにメンタル崩されるくらいの弱い人間は創作に向いてないから、早々に辞めた方が自分の為だと思うぞ」
「ずいぶんとアレな言い方だけど……たしかに一利なくはないのかな? でもさそんなキツい言葉、言われた方も傷付くだろうけど、言う方も結構なストレスなんじゃない? 何でこんなことしてるの? 何かキミにメリットはあるの?」
「メリットか……。お前もずいぶんと俗なことを言うんだな。もちろん俺には何の実益もないさ。時間と労力をアホみたいに費やして一銭も入らない。それでもこんなことを繰り返しているのは愛でしかない。このネット小説界が好きだから。より良くなっていって欲しいから。他にはないな」
「……ふうん」
分かったような分からないような返事を米倉はした。
「それに今日はたまたまこういう内容だったけどな。感謝される時もあるんだぜ? 俺のアドバイスを受けてその通りに作品を修正していったら出版社の人の目に留まって書籍化された、って話も何件かあるんだ。そういう話を聞いた時の喜びは何物にも替え難い」
「え、スゴイじゃない! そんなこと出来るんなら出版社に入って編集者を目指せば? っていうかそれだけの実績がすでにあるんなら出版社の方でも歓迎すると思うけれど?」
米倉は驚きの声を上げたが、俺は軽く首を振った。
「……そんなつもりはない。出版社になんか入っちまったら会社の利益を考えざるを得なくなって公平性が崩れるだろ。公平性が崩れたら俺のレビュワーとしての力は何の意味もなくなる」
「……ふ~ん。不思議な人だね、キミは」
そう言うと米倉はもう俺との会話に満足したのか席を立った。
……まったく、いつもいつも自分勝手なタイミングで去って行きやがる。
「じゃあ、明日までに可南子ちゃんの小説読んでおいてね。私も読んでおくから」
「……は? それとこれとは話が違うだろ? 俺だってそんなヒマじゃねえんだぞ!」
俺の反論に米倉は今までで一番の満面の笑みで応えた。
「いやぁ、キミがどう感じるのか? 私の感想とどれくらい差異があるのか? 少し本気で興味が出てきたのよ。よろしくね!」
「あ、おい……」
去りかけた米倉を呼び止めようとしたが、その声は聞き入れられるはずもなく……と思っていたら、予想に反して彼女は振り返った。
「ねえ、文野君。……キミ自身は今何か書いていないの?」
「は? 毎日こうしてレビューを書いてるだろ。何を見てたんだ……」
「そうじゃなくってさ! キミ自身のオリジナルの何かは書いていないの? 私は高校に入ってから小説を書き始めて賞も取ったよ? 小学校の時も中学校の時も私はキミのことをライバルだと思っていたんだけどな……」
今までとは違った歯切れの悪い米倉の言葉が俺にはイマイチ理解出来なかった。
「……お前が何を言いたいのか分からんが、俺にはコレしかないからな。……まあお前もお前の道を頑張れよ」
「そっか。……ま、良いや。また明日ね」
そう言うと米倉は早足で歩き始めた。
ヒールの高いサンダルの音がカツカツと大学構内の高い天井によく響いた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!
佐々木雄太
青春
四月——
新たに高校生になった有村敦也。
二つ隣町の高校に通う事になったのだが、
そこでは、予想外の出来事が起こった。
本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。
長女・唯【ゆい】
次女・里菜【りな】
三女・咲弥【さや】
この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、
高校デビューするはずだった、初日。
敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。
カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
何故か超絶美少女に嫌われる日常
やまたけ
青春
K市内一と言われる超絶美少女の高校三年生柊美久。そして同じ高校三年生の武智悠斗は、何故か彼女に絡まれ疎まれる。何をしたのか覚えがないが、とにかく何かと文句を言われる毎日。だが、それでも彼女に歯向かえない事情があるようで……。疋田美里という、主人公がバイト先で知り合った可愛い女子高生。彼女の存在がより一層、この物語を複雑化させていくようで。
しょっぱなヒロインから嫌われるという、ちょっとひねくれた恋愛小説。
ひょっとしてHEAVEN !?
シェリンカ
青春
【第13回ドリーム小説大賞奨励賞受賞】
三年つきあった彼氏に、ある日突然ふられた
おかげで唯一の取り柄(?)だった成績がガタ落ち……
たいして面白味もない中途半端なこの進学校で、私の居場所っていったいどこだろう
手をさし伸べてくれたのは――学園一のイケメン王子だった!
「今すぐ俺と一緒に来て」って……どういうこと!?
恋と友情と青春の学園生徒会物語――開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる