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9話 レビュワーの仕事っぷり①
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「やめとけ。お前はお前で痛い目見るぞ」
「……どういう意味なのかしら?」
「どういう意味も何もそのままの意味だよ。お前が文芸誌で多少の実績があろうが、簡単にネット小説という舞台で人気になることは絶対に無い。……ひょっとするとアイツ、草田可南子が人気になるよりも難しいだろうな」
「……へえ、それは何故なのかしら? もしそれが本当ならばとても興味があるわ」
米倉は改めて笑みを作ったが、内心イラついているのは語気から充分伝わってきた。
まさにそのプライドこそが足を引っ張ることになるだろう。
まあコイツが実際に実際にネットで連載を始めるなんてことは無いだろうし、それでもやりたいと言い出したら全力で止めるが。
「そもそもお前はネット小説ってものを知っているのか? 読んだことがあるのか?
今どんな作品・ジャンルが人気があるのか知っているのか? サイトごとの特色は? 読者層がどういった人間なのか? その中でどういった読者を自分のターゲットにするのか? 明確なイメージは出来ているのか?」
「それは……これから調べるところよ! まだはっきり書くって決めた訳ではないから……」
さっきまでとは打って変わって米倉が守勢に回る。だが別に俺はコイツを責めるつもりはない。そんなことをしたってお互い意味はない。
「なあ、多分ネット小説の世界を覗いたところでお前に得る物はないぞ?」
「……だから、なんでそんなことハッキリ言えるのよ?」
俺はイヤミではなく100%の親切心で言ったのだが、それは伝わらなかったようだ。米倉の好戦的な語気は変わらなかった。
「多分お前はこっちの世界を知れば知るほど見下すからだよ」
「……そんなことはないわよ。私は柔軟に色々な所から学ぼうと思っているわ。よく知りもしないのに見下したり拒否したりは絶対しないわ!」
言い切った米倉を前に俺は少しため息をついた。
小説なんか一文字も書いたことがないヤツがネット小説界隈をナメているのも問題だが、文学畑のヤツがネット小説界隈に乗り込んでくるのはそれ以上に厄介なのだ。
まあそれを直接コンコンと語ったところで恐らくコイツは納得しない。自分はそこに合わせることが出来るとの主張を繰り返すだけだろう。
……まあどうせなら俺の仕事を見せてやった方が早いかもしれない。
「じゃ、俺が何をしているか見てみるか?」
「あら、良いの? それは話が早いわ」
俺はカバンの中からノートパソコンを取り出した。この喫茶コーナーはWi-Fiも繋がっているからスマホではなくパソコンで見せた方が分かりやすいだろう。
もちろん米倉に一方的に自分の仕事を見せる、与えるだけ……というつもりはなかった。筆者、それもネット小説家ではなく文芸寄りの作者が俺のしていること、そしてネット小説界隈についてどう感じるか……というのは俺にとっても純粋に興味のあることだったからだ。
パソコンを立ち上げるとまた1通のDMが来ていた。
今度のものは好戦的な内容だった。
それは数日前に俺が作品の矛盾点を指摘し一気に人気が落ちた作品の筆者からのものだった。友好的な内容のものが届く訳が無いだろう。
『「sltー1000」さんよぉ。やっと見つけたぜこの野郎! お前、カリスマレビュワーだか何だか知らないけどよどういうつもりだよ! こっちは時間と労力を費やして、寝る間も惜しんで書き続けてやっと読者も増えてきたっていうところだったのによ! お前のせいで一気に読者が減っちまったじゃねえかよ! どう責任取ってくれるんだよ、この寄生虫野郎! カリスマレビュワーだか何だか知らねえけどよ偉そうなこと言うならお前も書いてみろよ! ネット小説に詳しいんだろ! 俺と勝負しろよ! 負けた方はアカウントを消すってのはどうだ? 逃げんじゃねえぞ、この野郎! お前のアカウントは開示請求させてもらったからな、正々堂々と勝負しろよ!』
「え、怖! 開示請求って……キミどんな内容のコメントを送ったのよ? ネット小説のコメント欄ってこんな風に荒れてるの? 怖すぎるんだけど?」
後ろからパソコンを覗いた米倉がドン引きの声を上げた。
背中に近付いてきたせいで、例の香水だかなんだか分からない匂いが鼻について落ち着かない。
「別に俺はルール違反の行為は一切していない。開示請求なんかが通る訳はないだろ。……まあ今では批判的なコメントがコメント欄に大量に並ぶことはあまりない。少し前だと人気作の場合それを妬んでか批判的なコメントが並ぶことも多かったが、今は時代的な流れなのかそれも減ったな」
「え、じゃあそんな流れに逆らってまでキミは作品批判を繰り返しているってこと? しかもコメント欄って他の人にも見える場所なんでしょ?」
「ああ、そうだな……まあ必要以上に挑発的なコメントを送ることは今では俺も避けているんだがな、この作者は自意識過剰なタイプだったようだ。作風からヤバそうな作者はあまり相手にしないようにしていたんだがな、俺の目にも多少の狂いがあったようだな……」
俺は米倉と話しながら返信コメントを打ち込んだ。
「……どういう意味なのかしら?」
「どういう意味も何もそのままの意味だよ。お前が文芸誌で多少の実績があろうが、簡単にネット小説という舞台で人気になることは絶対に無い。……ひょっとするとアイツ、草田可南子が人気になるよりも難しいだろうな」
「……へえ、それは何故なのかしら? もしそれが本当ならばとても興味があるわ」
米倉は改めて笑みを作ったが、内心イラついているのは語気から充分伝わってきた。
まさにそのプライドこそが足を引っ張ることになるだろう。
まあコイツが実際に実際にネットで連載を始めるなんてことは無いだろうし、それでもやりたいと言い出したら全力で止めるが。
「そもそもお前はネット小説ってものを知っているのか? 読んだことがあるのか?
今どんな作品・ジャンルが人気があるのか知っているのか? サイトごとの特色は? 読者層がどういった人間なのか? その中でどういった読者を自分のターゲットにするのか? 明確なイメージは出来ているのか?」
「それは……これから調べるところよ! まだはっきり書くって決めた訳ではないから……」
さっきまでとは打って変わって米倉が守勢に回る。だが別に俺はコイツを責めるつもりはない。そんなことをしたってお互い意味はない。
「なあ、多分ネット小説の世界を覗いたところでお前に得る物はないぞ?」
「……だから、なんでそんなことハッキリ言えるのよ?」
俺はイヤミではなく100%の親切心で言ったのだが、それは伝わらなかったようだ。米倉の好戦的な語気は変わらなかった。
「多分お前はこっちの世界を知れば知るほど見下すからだよ」
「……そんなことはないわよ。私は柔軟に色々な所から学ぼうと思っているわ。よく知りもしないのに見下したり拒否したりは絶対しないわ!」
言い切った米倉を前に俺は少しため息をついた。
小説なんか一文字も書いたことがないヤツがネット小説界隈をナメているのも問題だが、文学畑のヤツがネット小説界隈に乗り込んでくるのはそれ以上に厄介なのだ。
まあそれを直接コンコンと語ったところで恐らくコイツは納得しない。自分はそこに合わせることが出来るとの主張を繰り返すだけだろう。
……まあどうせなら俺の仕事を見せてやった方が早いかもしれない。
「じゃ、俺が何をしているか見てみるか?」
「あら、良いの? それは話が早いわ」
俺はカバンの中からノートパソコンを取り出した。この喫茶コーナーはWi-Fiも繋がっているからスマホではなくパソコンで見せた方が分かりやすいだろう。
もちろん米倉に一方的に自分の仕事を見せる、与えるだけ……というつもりはなかった。筆者、それもネット小説家ではなく文芸寄りの作者が俺のしていること、そしてネット小説界隈についてどう感じるか……というのは俺にとっても純粋に興味のあることだったからだ。
パソコンを立ち上げるとまた1通のDMが来ていた。
今度のものは好戦的な内容だった。
それは数日前に俺が作品の矛盾点を指摘し一気に人気が落ちた作品の筆者からのものだった。友好的な内容のものが届く訳が無いだろう。
『「sltー1000」さんよぉ。やっと見つけたぜこの野郎! お前、カリスマレビュワーだか何だか知らないけどよどういうつもりだよ! こっちは時間と労力を費やして、寝る間も惜しんで書き続けてやっと読者も増えてきたっていうところだったのによ! お前のせいで一気に読者が減っちまったじゃねえかよ! どう責任取ってくれるんだよ、この寄生虫野郎! カリスマレビュワーだか何だか知らねえけどよ偉そうなこと言うならお前も書いてみろよ! ネット小説に詳しいんだろ! 俺と勝負しろよ! 負けた方はアカウントを消すってのはどうだ? 逃げんじゃねえぞ、この野郎! お前のアカウントは開示請求させてもらったからな、正々堂々と勝負しろよ!』
「え、怖! 開示請求って……キミどんな内容のコメントを送ったのよ? ネット小説のコメント欄ってこんな風に荒れてるの? 怖すぎるんだけど?」
後ろからパソコンを覗いた米倉がドン引きの声を上げた。
背中に近付いてきたせいで、例の香水だかなんだか分からない匂いが鼻について落ち着かない。
「別に俺はルール違反の行為は一切していない。開示請求なんかが通る訳はないだろ。……まあ今では批判的なコメントがコメント欄に大量に並ぶことはあまりない。少し前だと人気作の場合それを妬んでか批判的なコメントが並ぶことも多かったが、今は時代的な流れなのかそれも減ったな」
「え、じゃあそんな流れに逆らってまでキミは作品批判を繰り返しているってこと? しかもコメント欄って他の人にも見える場所なんでしょ?」
「ああ、そうだな……まあ必要以上に挑発的なコメントを送ることは今では俺も避けているんだがな、この作者は自意識過剰なタイプだったようだ。作風からヤバそうな作者はあまり相手にしないようにしていたんだがな、俺の目にも多少の狂いがあったようだな……」
俺は米倉と話しながら返信コメントを打ち込んだ。
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