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33話 允生の事情
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「……なあ、ヤンキーって何なんだろうな? 」
允生のその言葉に対して俺は返答の言葉を持たなかった。
ヤンキーの中のヤンキーだと思っていた允生からそんな言葉を聞くことになるとは、あまりにも予想外だった。
俺の返答がないと知ると
「……認めるよ。海堂のび太をイジメて学校を辞めさせたのは間違いなく俺たちだ」
「……おい。何でさっさと認めなかったんだよ! 」
俺は允生に対して詰め寄った。
そんなこととっくに予想していた事態だったのに、それなのに未だに自分の感情がそれだけ動くことに驚いた。
「九条君…… ! 」
驚いた蜂屋さんが間に入ろうかという構えを見せたが、允生はそれを軽く制した。もちろん俺の方にも決着の付いたケンカを再びやろうというつもりはなかった。
「もちろん、俺だってアイツをイジメたくてイジメたわけじゃない」
「は?何を言っている?またお得意の詭弁か? 」
真面目な話をしだしたのかと思っていたら、そうではなかったようだ。
「ちがう、そうじゃないんだ。俺たちには俺たちの事情というものがあるんだ。……ケンカで負けた今ならお前に話せる気がする。聞いてくれガリ勉」
「……マジかよ……」
コイツがこんな真剣な話し方をするとは思わなかった。その意外性に虚を突かれた俺はすでに話を聞く体勢を取ってしまっていた。ケンカも話し合いも大まかな意味ではほとんど同じなのかもしれない。
「あのな、ガリ勉。……ヤンキーってのは『今日から俺はヤンキーになるぜ!』って気合を入れてなるもんじゃないんだよ。そういうヤツも中にはいるかもしれないが、ほとんどのヤツらはいつの間にかヤンキーになっているものなんだよ。そこに自分の意志はない」
「……意志はない?何言ってんだ、お前? 」
「じゃあ逆に聞きたいんだがな。お前は自分の意志でガリ勉になったのか?小さい子供の内に『勉強することが今後の自分の人生において大事だ。だから勉強をボクは頑張るんだ! 』とでも決意したのか? 」
「いや……たしかにそんなことはないな……」
俺は子供の頃から勉強するのが楽しかった。そこに親の教育の良い影響があったことは確かに疑いようがないだろう。子供が最初に触れるのはどうしたって親なのだ。
「俺がヤンキーの集会に最初に出たのは小学生の頃だったんだよ」
「小学生?……その頃からヤンキーをやってたのか? 」
俺は驚いた。小学生のヤンキーが存在するとは知らなかった。思春期あたりで人はヤンキーになると思っていたのだ。ヤンキー社会に対して自分がいかに無知だったかを改めて痛感させられた。
「まあ当時はヤンキーをやっていた……なんていう自覚はない。子供の頃からずっと一緒につるんでたヤツらがみんなそういう連中だったわけだ。……まだ客観的に自分を見られるような歳じゃない。何年かして物心ついてから振り返ってみたら『ヤンキーばかりだったな』と思うだけだ」
俺は例の大家族もののテレビ番組のことを俺は思い出した。允生の場合は家族までがヤンキーたちであったというわけではなさそうだが……まあそういうことなのだろう。
「ウチは共働きで両親とも帰りが遅くてな……。遅くまで遊び歩いていても特に怒られることもなかった。……晩飯を1人寂しく食べるのが耐えられなくてな、小学生の頃から俺は夜中までヤンキー友達と遊び歩くようになっていったんだ」
「まあ確かにお前の家庭環境的に仕方ない部分もあったんだろう……でも遊び歩いているのと、誰かをイジメたり暴力行為を振るったりするのとは全然違うだろ?どこかでヤンキーを辞めれば良かったんじゃないのか? 」
俺の率直な疑問に允生はせせら笑った。
「そんなに物事を明確に分けられるわけないだろ?イジメも遊びの延長でしかないんだよ。……そして仲間内で盛り上がっている間にイジメもエスカレートしてゆく。そこで『やめようぜ』と言い出すことはイジメを始めないことよりも難しいんだ。……俺は梵具会では中心的な立場にある。他のメンバーからは慕われていると言っていいだろう。だけど俺の意志で全てを決められるわけじゃない。『梵具会の三井允生』として相応しい行動が求められているんだよ」
「……のび太を標的にしたのもそのためか?」
「ああ……俺たちのメンツを保つためにはアイツを排除しないわけにはいかなかった。周囲の人間は直接口には出さなかったが、明らかに俺にそう指示を出すことを期待していたよ」
「……どうしようもないクソな存在だな。ヤンキーってのは……」
俺が吐き捨てると允生はまた苦笑した。
「俺も今はそう思うぜ。……ヤンキーなんてやっててもデメリットしかないことを俺は知っている。こうやってパンピー相手に威張ったり、最近ではカッコいいなんて祭り上げられたりすることもあるが……そんなものに何の意味もないことは少し考えれば分かるよな。お前らみたいに勉強したり部活でもやってた方が100倍有意義だ。……でもな、大人の社会は意外と寛容なんだよな、俺たちヤンキーに対して」
「……ああ、そういう感じは薄々俺も感づいていたよ」
允生はヤンキー社会についてずっと考えていたのだろう。現状をとても上手く言葉にしてゆく。
「ほとんどのヤンキーが10代のうちに仕事に就く。若くして結婚しているヤツも多いからそういうヤツらは家族のために一生懸命に働く。そこそこ根性のあるヤツも多いし上に立つ者のいうことには従順だ。ヤンキー社会でその辺は徹底的に叩き込まれているからな。最近では元ヤンの人間自らが社長になるようなケースも多い。俺も実は卒業したら先輩の会社に誘われてるんだ」
「なるほどな、そういうものか」
「しかも、意外と元ヤンキーたちってのは世間からの評判は悪くないみたいだな。一本気で筋が通っていて、上の人間の言うことには絶対服従……そんなイメージがまかり通っているみたいだ。たしかにそれが事実なら元ヤンってのは使いやすいコマかもな?……実際はそうでもねえけどな。裏でコソコソしてるヤンキーなんていくらでもいるし、基本的には損得勘定と自分の保身しか考えてねえヤンキーがほとんどだ。元ヤンが社会で重宝されるのは単純に押しが強くて、強引にでも仕事を成立させられるからだろうな」
まあヤンキー社会も現代日本の資本主義社会も、弱肉強食という意味では近いものがあるのだろうか?
「そんなのって不公平じゃありませんか!?真面目に生きている人たちが 損をしているだけじゃないですか? 」
今まで静かに聞いていた蜂屋さんが興奮したように口を挟んできた。
允生のその言葉に対して俺は返答の言葉を持たなかった。
ヤンキーの中のヤンキーだと思っていた允生からそんな言葉を聞くことになるとは、あまりにも予想外だった。
俺の返答がないと知ると
「……認めるよ。海堂のび太をイジメて学校を辞めさせたのは間違いなく俺たちだ」
「……おい。何でさっさと認めなかったんだよ! 」
俺は允生に対して詰め寄った。
そんなこととっくに予想していた事態だったのに、それなのに未だに自分の感情がそれだけ動くことに驚いた。
「九条君…… ! 」
驚いた蜂屋さんが間に入ろうかという構えを見せたが、允生はそれを軽く制した。もちろん俺の方にも決着の付いたケンカを再びやろうというつもりはなかった。
「もちろん、俺だってアイツをイジメたくてイジメたわけじゃない」
「は?何を言っている?またお得意の詭弁か? 」
真面目な話をしだしたのかと思っていたら、そうではなかったようだ。
「ちがう、そうじゃないんだ。俺たちには俺たちの事情というものがあるんだ。……ケンカで負けた今ならお前に話せる気がする。聞いてくれガリ勉」
「……マジかよ……」
コイツがこんな真剣な話し方をするとは思わなかった。その意外性に虚を突かれた俺はすでに話を聞く体勢を取ってしまっていた。ケンカも話し合いも大まかな意味ではほとんど同じなのかもしれない。
「あのな、ガリ勉。……ヤンキーってのは『今日から俺はヤンキーになるぜ!』って気合を入れてなるもんじゃないんだよ。そういうヤツも中にはいるかもしれないが、ほとんどのヤツらはいつの間にかヤンキーになっているものなんだよ。そこに自分の意志はない」
「……意志はない?何言ってんだ、お前? 」
「じゃあ逆に聞きたいんだがな。お前は自分の意志でガリ勉になったのか?小さい子供の内に『勉強することが今後の自分の人生において大事だ。だから勉強をボクは頑張るんだ! 』とでも決意したのか? 」
「いや……たしかにそんなことはないな……」
俺は子供の頃から勉強するのが楽しかった。そこに親の教育の良い影響があったことは確かに疑いようがないだろう。子供が最初に触れるのはどうしたって親なのだ。
「俺がヤンキーの集会に最初に出たのは小学生の頃だったんだよ」
「小学生?……その頃からヤンキーをやってたのか? 」
俺は驚いた。小学生のヤンキーが存在するとは知らなかった。思春期あたりで人はヤンキーになると思っていたのだ。ヤンキー社会に対して自分がいかに無知だったかを改めて痛感させられた。
「まあ当時はヤンキーをやっていた……なんていう自覚はない。子供の頃からずっと一緒につるんでたヤツらがみんなそういう連中だったわけだ。……まだ客観的に自分を見られるような歳じゃない。何年かして物心ついてから振り返ってみたら『ヤンキーばかりだったな』と思うだけだ」
俺は例の大家族もののテレビ番組のことを俺は思い出した。允生の場合は家族までがヤンキーたちであったというわけではなさそうだが……まあそういうことなのだろう。
「ウチは共働きで両親とも帰りが遅くてな……。遅くまで遊び歩いていても特に怒られることもなかった。……晩飯を1人寂しく食べるのが耐えられなくてな、小学生の頃から俺は夜中までヤンキー友達と遊び歩くようになっていったんだ」
「まあ確かにお前の家庭環境的に仕方ない部分もあったんだろう……でも遊び歩いているのと、誰かをイジメたり暴力行為を振るったりするのとは全然違うだろ?どこかでヤンキーを辞めれば良かったんじゃないのか? 」
俺の率直な疑問に允生はせせら笑った。
「そんなに物事を明確に分けられるわけないだろ?イジメも遊びの延長でしかないんだよ。……そして仲間内で盛り上がっている間にイジメもエスカレートしてゆく。そこで『やめようぜ』と言い出すことはイジメを始めないことよりも難しいんだ。……俺は梵具会では中心的な立場にある。他のメンバーからは慕われていると言っていいだろう。だけど俺の意志で全てを決められるわけじゃない。『梵具会の三井允生』として相応しい行動が求められているんだよ」
「……のび太を標的にしたのもそのためか?」
「ああ……俺たちのメンツを保つためにはアイツを排除しないわけにはいかなかった。周囲の人間は直接口には出さなかったが、明らかに俺にそう指示を出すことを期待していたよ」
「……どうしようもないクソな存在だな。ヤンキーってのは……」
俺が吐き捨てると允生はまた苦笑した。
「俺も今はそう思うぜ。……ヤンキーなんてやっててもデメリットしかないことを俺は知っている。こうやってパンピー相手に威張ったり、最近ではカッコいいなんて祭り上げられたりすることもあるが……そんなものに何の意味もないことは少し考えれば分かるよな。お前らみたいに勉強したり部活でもやってた方が100倍有意義だ。……でもな、大人の社会は意外と寛容なんだよな、俺たちヤンキーに対して」
「……ああ、そういう感じは薄々俺も感づいていたよ」
允生はヤンキー社会についてずっと考えていたのだろう。現状をとても上手く言葉にしてゆく。
「ほとんどのヤンキーが10代のうちに仕事に就く。若くして結婚しているヤツも多いからそういうヤツらは家族のために一生懸命に働く。そこそこ根性のあるヤツも多いし上に立つ者のいうことには従順だ。ヤンキー社会でその辺は徹底的に叩き込まれているからな。最近では元ヤンの人間自らが社長になるようなケースも多い。俺も実は卒業したら先輩の会社に誘われてるんだ」
「なるほどな、そういうものか」
「しかも、意外と元ヤンキーたちってのは世間からの評判は悪くないみたいだな。一本気で筋が通っていて、上の人間の言うことには絶対服従……そんなイメージがまかり通っているみたいだ。たしかにそれが事実なら元ヤンってのは使いやすいコマかもな?……実際はそうでもねえけどな。裏でコソコソしてるヤンキーなんていくらでもいるし、基本的には損得勘定と自分の保身しか考えてねえヤンキーがほとんどだ。元ヤンが社会で重宝されるのは単純に押しが強くて、強引にでも仕事を成立させられるからだろうな」
まあヤンキー社会も現代日本の資本主義社会も、弱肉強食という意味では近いものがあるのだろうか?
「そんなのって不公平じゃありませんか!?真面目に生きている人たちが 損をしているだけじゃないですか? 」
今まで静かに聞いていた蜂屋さんが興奮したように口を挟んできた。
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