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28話 再会
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翌日、俺はいつも通り学校に向かった。
顔には幾つもの青あざがあり足も腹も痛くて普通に歩くのに難儀するほどではあったが、それでも意地で登校した。
「……!……おはようございます。大丈夫でしたか、九条君? 」
驚きと心配の混じった顔を早速蜂屋さんにさせてしまった。
「ああ、一晩寝たらもう完全復活だよ!若さというのはやはり偉大だね! 」
俺は用意してきた渾身の一ネタを蜂屋さんにぶつけたが、彼女の表情は余計に曇るばかりであった。
「……私の前でそんな強がる必要、別にないと思うんですけどね……」
「え?どういう意味? 」
「な、な、何でもないです! 」
言っている意味が俺にはイマイチ理解出来なかったので問い直すと、蜂屋さんはやや赤くなった顔をブンブンと振ってそれ以上の追求を避けた。やはり彼女も昨日の緊張感とショックでかなり疲れていたのだろう。
キーンコーンカーンコーン。始業のチャイムが鳴った。
昨日がどれだけ絶望の一日だったとしても日常は変わらずやって来る。それが不思議なようにも思えたし、変わらない日常があることが救いにも思えた。
意外なもので授業が始まってしまえば授業に集中することが出来た。授業に集中している間は昨日のことを忘れられるのが良かったのかもしれない。
(……みんな俺の顔など見ていないのだろうか? )
1限目の授業が終わると、ふとそんなことを思った。
他の生徒たちも教師たちも俺の顔のアザに気付かないようだった。特に誰もそれについて言ってくることもないし、変わった接し方をしてくることない。あまりにいつも通りの日常だった。
(……いや、そうじゃない!俺のモブキャラ戦略は成功していたんだ! )
そうだ。そう考える方があまりに自然だ!
久世アキラはケンカになった際、俺がモブキャラでないようなことを言って惑わしてきたが、それがウソであることがこうして証明されたわけだ!俺が優等生として先生方の覚えが目出たいので俺をイジメのターゲットから外した……というのがヤツの言い分だった。だがそれものび太をイジメのターゲットにするための完全なる詭弁だったということだ!
そういえば今日はヤンキー3人衆のうち誰も登校してきていなかった。
これはとても珍しい。ヤツらはヤンキーではあるが学校にきちんと登校してくるタイプのヤンキーたちだったのだ。
あるいは実際のところ、ヤンキーたちの方が学校に来るのは楽しいのかもしれない。学校に行けばヤンキー仲間たちとも会えるし、イジメられることもない。かったるい授業に関してはサボればいい……割と自由の利く立場なのかもしれない。
「あの、九条君。私考えていたんですけれど……今回の件、やっぱり大人の手を借りるべきなんじゃないでしょうか?……この前話した先生たちは、海堂さんへのイジメがあるということを認めたくないという姿勢は、私にもはっきりと見て取れましたけど……全部話せば分かってくれる先生はきっといますよ。もう一度、きちんと誰かに話してみませんか? 」
昼休み。西校舎屋上。昨日俺はここで允生にノックアウトされた。だけど今日はまたいつも通り蜂屋さんと2人で昼ご飯を食べていた。昨日のことなんか、何もかも夢だったんじゃないだろうか?そんな気がした。
「……う~ん、そうだねぇ……」
「あの!やっぱり私、イジメに対して暴力で復讐するのが正しいとは思えないんですよね!きちんとした正しい方法で罰を受けるべきなんじゃないでしょうか? 」
珍しく蜂屋さんの言葉は強いものだった。
俺は少し迷った。彼女の言うことがとても正論に思えたのだ。
だけどそれはついこの前、否定したことなのだ。大人たちに幾ら話しても理解してもらえない、という結論が出たからヤツらとのケンカの道に走ったのだ。
なのに今さらその意見に心動かされて迷ったということ自体が、弱っている証拠なのかもしれない。昨日の敗戦によって俺の心は確かにダメージを受けていたということだ。允生に負けたことが夢なんかじゃなかったことは、俺の身体が一番よく分かっていたということだ。
「そうだね。それもアリかもしれないね……」
確かにもう一度きちんと状況を整理して話せば、誰か理解してくれる大人が現れそうな気がした。
それに何よりケンカになる中で、ヤツらはのび太に対するイジメを認めたのだった。これは大きな要因だろう。もちろん大人が事情を聞いた際に、ヤツらが素直に自分たちのしたイジメを認めるとは思えなかったが。
結局、そうだね少し考えてみるよ、と言ってその日は別れた。
蜂屋さんも俺に対して急かすようなことは言わなかった。
(……いや、でもなぁ……)
帰り道、駅までの道を歩きながら蜂屋さんに言われたことを思い返すと、色々と心配なことが浮かんできた。心配というかそれで良いのだろうか?という疑問だ。
ヤツらがイジメを認めたということを俺から先生方に話すとすれば、当然どういう状況でそれを認めたのか?と訊かれるだろう。そうなると俺がヤツらとケンカになったことを話さざるを得ないのではないだろうか?そうなると俺の「慶光に行きモブキャラを脱する」という目標に対してマイナスになりはしないだろうか?俺とのび太との約束だ。それだけは譲れなかった。
それとも、ヤツらが面子を保つためにケンカがあったことを先生方に隠し、のび太のイジメに関してだけ認める……そんな都合の良いことが起こり得るのだろうか?
考え事をしているといつの間にか駅のホームに到着していた。
目の前の男とすれ違いざま肩がぶつかった。
「チッ、気を付け……」
中途半端なところで言葉を切るのを止めたのが気になり、その瞬間に初めて男の顔を見ると、ぶつかってきたのは久世アキラだった。
「……チッ」
アキラは俺と眼が合うと、露骨な苛立ちを浮かべ足早に通り過ぎていこうとした。
「なあ……」
俺は思わずヤツを引き止めていた。
なぜそうしたのか俺にも真意は分からないままのことだった。
顔には幾つもの青あざがあり足も腹も痛くて普通に歩くのに難儀するほどではあったが、それでも意地で登校した。
「……!……おはようございます。大丈夫でしたか、九条君? 」
驚きと心配の混じった顔を早速蜂屋さんにさせてしまった。
「ああ、一晩寝たらもう完全復活だよ!若さというのはやはり偉大だね! 」
俺は用意してきた渾身の一ネタを蜂屋さんにぶつけたが、彼女の表情は余計に曇るばかりであった。
「……私の前でそんな強がる必要、別にないと思うんですけどね……」
「え?どういう意味? 」
「な、な、何でもないです! 」
言っている意味が俺にはイマイチ理解出来なかったので問い直すと、蜂屋さんはやや赤くなった顔をブンブンと振ってそれ以上の追求を避けた。やはり彼女も昨日の緊張感とショックでかなり疲れていたのだろう。
キーンコーンカーンコーン。始業のチャイムが鳴った。
昨日がどれだけ絶望の一日だったとしても日常は変わらずやって来る。それが不思議なようにも思えたし、変わらない日常があることが救いにも思えた。
意外なもので授業が始まってしまえば授業に集中することが出来た。授業に集中している間は昨日のことを忘れられるのが良かったのかもしれない。
(……みんな俺の顔など見ていないのだろうか? )
1限目の授業が終わると、ふとそんなことを思った。
他の生徒たちも教師たちも俺の顔のアザに気付かないようだった。特に誰もそれについて言ってくることもないし、変わった接し方をしてくることない。あまりにいつも通りの日常だった。
(……いや、そうじゃない!俺のモブキャラ戦略は成功していたんだ! )
そうだ。そう考える方があまりに自然だ!
久世アキラはケンカになった際、俺がモブキャラでないようなことを言って惑わしてきたが、それがウソであることがこうして証明されたわけだ!俺が優等生として先生方の覚えが目出たいので俺をイジメのターゲットから外した……というのがヤツの言い分だった。だがそれものび太をイジメのターゲットにするための完全なる詭弁だったということだ!
そういえば今日はヤンキー3人衆のうち誰も登校してきていなかった。
これはとても珍しい。ヤツらはヤンキーではあるが学校にきちんと登校してくるタイプのヤンキーたちだったのだ。
あるいは実際のところ、ヤンキーたちの方が学校に来るのは楽しいのかもしれない。学校に行けばヤンキー仲間たちとも会えるし、イジメられることもない。かったるい授業に関してはサボればいい……割と自由の利く立場なのかもしれない。
「あの、九条君。私考えていたんですけれど……今回の件、やっぱり大人の手を借りるべきなんじゃないでしょうか?……この前話した先生たちは、海堂さんへのイジメがあるということを認めたくないという姿勢は、私にもはっきりと見て取れましたけど……全部話せば分かってくれる先生はきっといますよ。もう一度、きちんと誰かに話してみませんか? 」
昼休み。西校舎屋上。昨日俺はここで允生にノックアウトされた。だけど今日はまたいつも通り蜂屋さんと2人で昼ご飯を食べていた。昨日のことなんか、何もかも夢だったんじゃないだろうか?そんな気がした。
「……う~ん、そうだねぇ……」
「あの!やっぱり私、イジメに対して暴力で復讐するのが正しいとは思えないんですよね!きちんとした正しい方法で罰を受けるべきなんじゃないでしょうか? 」
珍しく蜂屋さんの言葉は強いものだった。
俺は少し迷った。彼女の言うことがとても正論に思えたのだ。
だけどそれはついこの前、否定したことなのだ。大人たちに幾ら話しても理解してもらえない、という結論が出たからヤツらとのケンカの道に走ったのだ。
なのに今さらその意見に心動かされて迷ったということ自体が、弱っている証拠なのかもしれない。昨日の敗戦によって俺の心は確かにダメージを受けていたということだ。允生に負けたことが夢なんかじゃなかったことは、俺の身体が一番よく分かっていたということだ。
「そうだね。それもアリかもしれないね……」
確かにもう一度きちんと状況を整理して話せば、誰か理解してくれる大人が現れそうな気がした。
それに何よりケンカになる中で、ヤツらはのび太に対するイジメを認めたのだった。これは大きな要因だろう。もちろん大人が事情を聞いた際に、ヤツらが素直に自分たちのしたイジメを認めるとは思えなかったが。
結局、そうだね少し考えてみるよ、と言ってその日は別れた。
蜂屋さんも俺に対して急かすようなことは言わなかった。
(……いや、でもなぁ……)
帰り道、駅までの道を歩きながら蜂屋さんに言われたことを思い返すと、色々と心配なことが浮かんできた。心配というかそれで良いのだろうか?という疑問だ。
ヤツらがイジメを認めたということを俺から先生方に話すとすれば、当然どういう状況でそれを認めたのか?と訊かれるだろう。そうなると俺がヤツらとケンカになったことを話さざるを得ないのではないだろうか?そうなると俺の「慶光に行きモブキャラを脱する」という目標に対してマイナスになりはしないだろうか?俺とのび太との約束だ。それだけは譲れなかった。
それとも、ヤツらが面子を保つためにケンカがあったことを先生方に隠し、のび太のイジメに関してだけ認める……そんな都合の良いことが起こり得るのだろうか?
考え事をしているといつの間にか駅のホームに到着していた。
目の前の男とすれ違いざま肩がぶつかった。
「チッ、気を付け……」
中途半端なところで言葉を切るのを止めたのが気になり、その瞬間に初めて男の顔を見ると、ぶつかってきたのは久世アキラだった。
「……チッ」
アキラは俺と眼が合うと、露骨な苛立ちを浮かべ足早に通り過ぎていこうとした。
「なあ……」
俺は思わずヤツを引き止めていた。
なぜそうしたのか俺にも真意は分からないままのことだった。
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