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20話 飯山との開戦
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「何だよ、姉ちゃん。俺に何か用か? 」
アキラとのケンカから2日後、飯山を同様に呼び出した。例によって放課後の西校舎屋上である。
向かい合った蜂屋さんに向かって飯山は、いつもの細い眼をニヤニヤとさらに細めていた。
「……悪いな、飯山。蜂屋さんはお前に何の用もないんだ。用があるのは俺の方なんだ」
死角から出てきた俺を前にしても飯山はそれほど驚いた表情を見せなかった。
「何だ、ガリ勉。お前も一緒だったのか。……で、何の用だよ。あ? 」
俺とのケンカが終わってからのこの2日間、アキラは学校を休んでいた。
もしかしたらケンカで俺に負けたこと、そしてのび太のイジメについて俺に話したことも洗いざらい三井允生と飯山に話してしまっているのではないか?と思っていたが、この反応から見るに飯山は何も知らないようだ。
「……海堂のび太のイジメの件だ。飯山、お前ものび太をイジメたうちの1人だな? 」
「海堂のび太?……ああ、あのチビのことか?まだそんなヤツのことをグダグダ言ってんのか、お前。ガリ勉も意外と暇なんだな。っつーか、お前もずいぶん一端の口の利き方をするようになったなぁ、おい! 」
「口の利き方に関してはだいたい対等だろ?同じクラス同士、お前がそれなりの口を利けるのなら、俺もお前にレベルを合わせてやるよ?ヤンキーってのはそれだけで偉いのか?俺もお前の口の利き方については不問にしといてやるから、とりあえず質問に答えてくれないか? 」
俺も少しはコイツらを相手にして上手く挑発するコツを掴んできたように思う。
もちろん初戦のアキラに勝利した余裕も大きいが、俺は引き続きヤンキー漫画を読みふけりその世界観を徐々に自分のものにしつつあったのだ。
「おい、ガリ勉。俺らはお前らと違って長い文章は頭に入んねえんだよ。質問があるんならもう一回言ってくんねえか?あ? 」
率直な飯山の物言いに俺は少し苦笑した。ヤンキーをしているが、コイツ実は根は良いヤツなんじゃないだろうか?
「飯山。お前ものび太をイジメたんだな? 」
「だったらどうしたよ?あ? 」
「……のび太に謝ってくれないか?俺と一緒にのび太の家まで行って、引き籠っているアイツの復帰にお前も助力してくれないか?原因を作ったのはお前らなんだからな」
「は、バカ言え。アイツがケンカ売ってきたようなもんだろ。しかもアイツは今学校辞めて引き籠ってるのかよ?クソ雑魚だな。そんな弱いヤツは引き籠ってて正解だと思うぜ? 」
飯山はケラケラと笑った。
「黙れ!アイツのことを何も知らないくせに弱いとか言うな! 」
アイツは弱くなんかない。
俺がこの地区に引っ越してきたのは中3の夏休み明けという微妙な時期だった。とっくにグループは出来上がっていて、俺がその中に入れるような余地はどこにも見当たらなかった。別に俺はそれでも良いと思っていた。
でものび太が俺の友達になってくれたのだ。小さくて年齢以上に幼く見えてふわふわしているのび太と、理屈っぽくて協調性のない俺となんか絶対相性が良いわけないと思って最初は敬遠していたのだが……不思議なことに俺たちはウマが合った。
アイツがいることで俺がどれだけ救われてきたのか……お前らには想像も付かないだろう。アイツのことを何も知らずに、そして何も知らないままにイジメたクセにアイツのことをお前ら如きが弱いとか言うんじゃねえよ!
「……るせぇな、ガリ勉!あんましつけぇとちょっびとばかし泣かしちまうぞ、あ? 」
飯山は俺の顔に顔を近付けてメンチきってきた!
……いや、いかん。俺も古のヤンキー漫画に随分と語彙力が侵食されているようだ。つまりヤツは細い眼をさらに細め俺を睨んで敵意をむき出しにしてきたということだ。……いや、これだと何かイマイチ臨戦態勢感が伝わらないな……まあいい。
「……やってみろよ、デブ。臭い息吹き掛けじゃねえよ」
俺は飯山の顔を押しのけ距離を取った。
「ほ~……面白れぇじゃねえか! 」
飯山は楽しくてたまらないというような顔をして笑った。
いつもは笑った顔も普段と同じくらい細い眼をしているので、ほとんど判別がつかないのだが、この時だけはなぜかはっきりと笑った顔だと認識出来た。
「は……おいおい、テメェ。それは格闘技か何かの真似事か?雑魚がそんなカッコつけたって何の意味もないぜ? 」
3メートルほどの距離を取り例によってファイティングポーズを取った俺を見て、飯山は憐れむような声を掛けてきた。よほど自分に自信があるのか、あるいは本当に俺のことを雑魚だと思っているのだろう。
「……御託は良いからとっとと掛かって来いよ。やっぱりヤンキーってのはどいつもこいつも、いざという時でさえ御託を並べちまうんだな。目前のことに集中できない人間はこれから何年経ってもロクな人間にはなれないぞ? 」
「何だお前……?ガリ勉のクセにケンカ初めてじゃねえのか? 」
飯山が心底意外そうな声を出した。
「ああ。一昨日初めての経験を済ませたばかりだよ。まあでも思っていたより楽勝だったぜ。……相手は久世アキラとかいう最弱の雑魚だったからな」
「……………お前!!!」
察しの良い方だとは思えない飯山だったが、俺の一言の意味を理解出来たようだ。
アキラがこの2日間学校に顔を出していないこと。その理由が俺にケンカで負けたということをだ。
一瞬にして激昂した飯山は、その巨体に似合わぬスピードで俺に向かって突進してきた。
アキラとのケンカから2日後、飯山を同様に呼び出した。例によって放課後の西校舎屋上である。
向かい合った蜂屋さんに向かって飯山は、いつもの細い眼をニヤニヤとさらに細めていた。
「……悪いな、飯山。蜂屋さんはお前に何の用もないんだ。用があるのは俺の方なんだ」
死角から出てきた俺を前にしても飯山はそれほど驚いた表情を見せなかった。
「何だ、ガリ勉。お前も一緒だったのか。……で、何の用だよ。あ? 」
俺とのケンカが終わってからのこの2日間、アキラは学校を休んでいた。
もしかしたらケンカで俺に負けたこと、そしてのび太のイジメについて俺に話したことも洗いざらい三井允生と飯山に話してしまっているのではないか?と思っていたが、この反応から見るに飯山は何も知らないようだ。
「……海堂のび太のイジメの件だ。飯山、お前ものび太をイジメたうちの1人だな? 」
「海堂のび太?……ああ、あのチビのことか?まだそんなヤツのことをグダグダ言ってんのか、お前。ガリ勉も意外と暇なんだな。っつーか、お前もずいぶん一端の口の利き方をするようになったなぁ、おい! 」
「口の利き方に関してはだいたい対等だろ?同じクラス同士、お前がそれなりの口を利けるのなら、俺もお前にレベルを合わせてやるよ?ヤンキーってのはそれだけで偉いのか?俺もお前の口の利き方については不問にしといてやるから、とりあえず質問に答えてくれないか? 」
俺も少しはコイツらを相手にして上手く挑発するコツを掴んできたように思う。
もちろん初戦のアキラに勝利した余裕も大きいが、俺は引き続きヤンキー漫画を読みふけりその世界観を徐々に自分のものにしつつあったのだ。
「おい、ガリ勉。俺らはお前らと違って長い文章は頭に入んねえんだよ。質問があるんならもう一回言ってくんねえか?あ? 」
率直な飯山の物言いに俺は少し苦笑した。ヤンキーをしているが、コイツ実は根は良いヤツなんじゃないだろうか?
「飯山。お前ものび太をイジメたんだな? 」
「だったらどうしたよ?あ? 」
「……のび太に謝ってくれないか?俺と一緒にのび太の家まで行って、引き籠っているアイツの復帰にお前も助力してくれないか?原因を作ったのはお前らなんだからな」
「は、バカ言え。アイツがケンカ売ってきたようなもんだろ。しかもアイツは今学校辞めて引き籠ってるのかよ?クソ雑魚だな。そんな弱いヤツは引き籠ってて正解だと思うぜ? 」
飯山はケラケラと笑った。
「黙れ!アイツのことを何も知らないくせに弱いとか言うな! 」
アイツは弱くなんかない。
俺がこの地区に引っ越してきたのは中3の夏休み明けという微妙な時期だった。とっくにグループは出来上がっていて、俺がその中に入れるような余地はどこにも見当たらなかった。別に俺はそれでも良いと思っていた。
でものび太が俺の友達になってくれたのだ。小さくて年齢以上に幼く見えてふわふわしているのび太と、理屈っぽくて協調性のない俺となんか絶対相性が良いわけないと思って最初は敬遠していたのだが……不思議なことに俺たちはウマが合った。
アイツがいることで俺がどれだけ救われてきたのか……お前らには想像も付かないだろう。アイツのことを何も知らずに、そして何も知らないままにイジメたクセにアイツのことをお前ら如きが弱いとか言うんじゃねえよ!
「……るせぇな、ガリ勉!あんましつけぇとちょっびとばかし泣かしちまうぞ、あ? 」
飯山は俺の顔に顔を近付けてメンチきってきた!
……いや、いかん。俺も古のヤンキー漫画に随分と語彙力が侵食されているようだ。つまりヤツは細い眼をさらに細め俺を睨んで敵意をむき出しにしてきたということだ。……いや、これだと何かイマイチ臨戦態勢感が伝わらないな……まあいい。
「……やってみろよ、デブ。臭い息吹き掛けじゃねえよ」
俺は飯山の顔を押しのけ距離を取った。
「ほ~……面白れぇじゃねえか! 」
飯山は楽しくてたまらないというような顔をして笑った。
いつもは笑った顔も普段と同じくらい細い眼をしているので、ほとんど判別がつかないのだが、この時だけはなぜかはっきりと笑った顔だと認識出来た。
「は……おいおい、テメェ。それは格闘技か何かの真似事か?雑魚がそんなカッコつけたって何の意味もないぜ? 」
3メートルほどの距離を取り例によってファイティングポーズを取った俺を見て、飯山は憐れむような声を掛けてきた。よほど自分に自信があるのか、あるいは本当に俺のことを雑魚だと思っているのだろう。
「……御託は良いからとっとと掛かって来いよ。やっぱりヤンキーってのはどいつもこいつも、いざという時でさえ御託を並べちまうんだな。目前のことに集中できない人間はこれから何年経ってもロクな人間にはなれないぞ? 」
「何だお前……?ガリ勉のクセにケンカ初めてじゃねえのか? 」
飯山が心底意外そうな声を出した。
「ああ。一昨日初めての経験を済ませたばかりだよ。まあでも思っていたより楽勝だったぜ。……相手は久世アキラとかいう最弱の雑魚だったからな」
「……………お前!!!」
察しの良い方だとは思えない飯山だったが、俺の一言の意味を理解出来たようだ。
アキラがこの2日間学校に顔を出していないこと。その理由が俺にケンカで負けたということをだ。
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