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打倒、物語の強制力

幕間 出すつもりの無い、アンが書いた手紙

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エミリオぼっちゃま、ユーディリアお嬢様へ

本来なら報告書を上げるべきなのですが、どうしても止まらなくて筆を取りました。
普通なら、使用人ごときがでしゃばるなとお叱りを受ける事でしょう。
ですが、
お二人と離れた1ヶ月、アンの思いは膨れるばかりです。
申し訳ありません。
私の独り言をお許しください。


私アンは、ぼっちゃま達が生まれた際に乳母として侯爵家に上がりました。

元々私はアスビル商会で働いていた者です。

まぁ簡単に言うと、落ちぶれ子爵家の娘で、どうやら奥様的には、同じ子爵家の娘なのに働いている私に、いろいろな物を自慢するのが楽しいようでした。
ですので、最初、奥様は私にとって雇い主のお嬢様でした。
それが、お嬢様は侯爵家にお嫁に入り、ああ、完全に別世界の人になったのだな、と思い、私はアスビル商会で護衛の任に付いていた者と結婚しました。
ようやく子供を授かったのと同時期、お嬢様もご懐妊なさったと聞きました。

それで、お乳が出るだろうから、乳母として上がらないか、というお話を頂いたのです。

最初は断りましたが、他に子供の面倒を見る人間はつくということ、夜のみのお乳要因であること、お嬢様からの強い要望があったということもあり、大旦那様が契約書をしたためてくれまして、無理はしなくていいとのお言葉と共に、お側に上がることになったのです。

ここまで書くと、お優しいお二人の事です、私の家族を心配してくださることでしょう。

お二人の前に出る事はありませんでしたね。

夫は護衛の任務中、魔物の襲撃に合い、命を落としました。
ですが、商会の荷物は守ったと、貴女の夫は役目を全うしたと、誇れと、生き残って帰ってきた者に言われました。
ショックでしたが、お腹の子のためとなんとか立ち直ったと思っていましたが、
幼い命を私には守れませんでした。
私は、私の役目を全う出来ませんでした。

大旦那様のショック療法とでも申しましょうか。
大旦那様は、廃人のようになっていた私を無理矢理侯爵家に連れていき、先にお生まれになっていたお二人を私に抱かせました。
初めて見た時、世の中にこんなに可愛いお子達が居るのかと、驚愕したのを昨日の事のように覚えております。
9ヶ月は我が子と共に居たからでしょうか。
お乳が出たのです。

それからはもう、無我夢中でした。

私の他に2人、子守役が居ましたが、その二人は結局奥様付きとなりました。
胸が張る、プロポーションが崩れる、むくむ、と、奥様は、なかなかに手がかかりましたので。


私アンは、一番近くでお二人を見ていたと自負しております。
お二人は、神童だ、聡明だ、天才だと言われておりますが、
それは
お二人の努力の結果であるとアンは知っております。

どうか、どうか、お身体にさわるほどのご無理をなさいませんように。
お二人とも放っておくと、何処までも無理をなさいます。
お二人は、ご自分のお身体の痛みに鈍感すぎます。
どうか、どうか、
それに気づいて止めてくれる者がお側におりますように。

差し出がましい事を申し上げてしまいました。
申し訳ございません。
でもこれだけは言わせてください。

アンはこれから先もお二人のために生きていきとうございます。

これが、私のお役目だと、夫に、子供に、胸を張って生きていきとうございます。

どうか
これから先もお側に置いてください。


                     お二人の乳母 アンより











「ない、ナイ、無い、なぁぁぁい!!!」
数日後、アンが取り乱したように私物を引っ掻き回している。

「あああああああんな私情丸出しの手紙など、お二人の元に渡って、お心を乱したりしたら!!!
ただ、ただ書いて自分の心を静めたかっただけなのに!!!
報告書とは別にココにしまっておいたのだから、紛れ込むはずは無い、と思う。
何処にいったのぉぉぉ!!!!!」



出す予定の無かった手紙は、シチミに回収され、無事にエミリオ達の元に届いた。

後日
「大好きで大切なアンへ」
エミリオからストールが、ユーディリアからは刺繍入りのハンカチが届いたアンは、
休暇をもぎ取り
ストールを羽織り、ハンカチを持って墓参りに出かけたという。
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