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幼少期

幕間 僕の死なない理由 3

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5歳になって、鑑定式を終えると、ディはとんでもなく優秀で天使だった。

…個人で鑑定が使えるって、どういうこと?

これは知られちゃダメだ。
下手したら、王家に囲われて飼殺しだ。
二度とディに会えなくなる。
ディにくれぐれもバレないように念を押した。

数日後、ディから相談がある、と連絡がある。
きっと魔法のことだろう。
魔法の家庭教師を探すよう指示していたんだけど、そもそも、そんな数日で見つかるようなもんじゃないし、しかも、侯爵やクズ親の評判の悪さが知れ渡ってて、感触は良くないと、ギャリクソンにも言われてたから、まだまだ当分先になると思っていた。
けど、ディが、自分の魔法スキルに〝鑑定師匠〞とか名前つけて楽しそうだし、何より、ディと一緒に何かをするのが嬉しくて、実際、何も魔法が出来なくても良いと思ったんだ。
そしたら、魔法の初歩を理解してて、いきなり、やり方まで語り出すんだもん。
びっくりする。天使で天才だなんて、益々隠しておかなくちゃ。
「ハハハハ、ディ、最高だよ。いやもう、本当、僕達だけで、いや、ディだけでいいね」
「何をおっしゃってるんですか。私だけじゃダメですわ。
私には、一番お兄様が必要ですのよ、まだ、わかって下さらないんですの?」
そう言って、ディはコテンっと、首をかしげるんだ。

そっか、ディは、僕を必要としてくれるんだ。
でもね、きっと、ディ以上に、僕にはディが必要なんだ。
ああ、これが依存ってヤツなのかな?

次の日、ディと魔法の訓練を開始することにした。
その為に、一応、お医者様にも待機をお願いしておいた。

…初めて、大人からの純粋な心配による叱責を受けた。

「なんってこと、なさろうとしてるんですか!?
魔法の訓練を子供だけで?!
しかも、初めてなんですよね?!まだ、誰からも、何も、教わって無いんですよね?!
なぜ、誰も止めないんですか!!
家令は?!家令は何をしてるんですか!!
良いですか、確かにエミリオ様はお年に似合わない程、聡明な方です、何でもお出来になってます!
で・す・が!!
魔法は別です!!
感情が魔力に飲まれたら、暴走することもあるんです!
エミリオ様やユーディリア様は魔力が多いんですよね?!
命に係わるんですよ?!
いや、ちょっとエミリオ様?何を呑気に笑ってるんですか!!」

「僕、初めて、大人に本気で怒られたよ」

そう言ったら、先生は、顔をくしゃくしゃにして、いきなり抱きしめてきたんだ。

「エミリオ様。ユーディリア様もその気配がありましたが、貴方の方が格段に早く大人になりすぎだ。よっぽど大人に頼れない状況なんでしょうなぁ。もしくは、貴方達二人が優秀すぎて、回りの大人が貴方達に甘えているのか。
こんな爺に抱っこされても嬉しく無いでしょうが、私がしたいんで、大人しくしてくださいよ。
…さて、提案なんですが、魔力は少なくても浄化師ならば知り合いにおります。
私が話をつけて参ります。どうでしょう、最初の最初、魔法の発動までは、その者に習ってはいかがでしょう。
すこぉし、私に、大人の格好つけさせては、頂けませんか?」

本当に、初めて、格好いい大人を見た気がする。

「先生、ありがとうございます。
僕、初めて格好いい大人を見ました。
でも、先生、ごめんなさい、その好意は受け取れない。
僕達、高位貴族なんだ。
家門じゃない下位貴族から教わったとなったら、何を言われるかわからないんだ。
それから守ってくれる大人も居ない。嬉々として僕達を貶めるような親なんだよ。
揚げ足を取られる材料を与えちゃダメなんだ」

「なんてこと…
こんなお年でそこまで考えなければいけないなんて…
エミリオ様。
こんな爺ですが、一つだけ大きな伝手を持っています。いざと言うとき、必ず言ってください。良いですね、必ずです。
(いや、エミリオ様は、絶対言わないだろう。ならば、勝手に引き合わせてしまうか。あの方なら、必ずエミリオ様を気に入るはずだ)」


そんな出来事がありつつ、ディと一緒に魔法の訓練を始めた。

ディは規格外だった。
いきなり魔力放出なんてやっちゃうんだもん。

そして、それを教えて貰うべく、魔力循環を行ったけど良くわからなくて、ディが手助けしてくれた。

そしたら、あまりにも優しくて温かいディの魔力が僕の中に流れてきた。

ああ、どうしよう、僕の根底にあった暗い冷たい感情が解れていく。

するとディが
「お兄様?!もしや、魔力を流すの痛かったですか?苦しかったですか?どうしよう、ごめんなさい」

そう言って手を離すから、慌てて、ぎゅっと抱きしめた。

「違うんだ、そうじゃない、ディ。
ディの魔力が、あまりにも、あんまりにも、優しくて、温かくて、それが体の中から僕を癒してくれるの。どうしようもないくらい愛しくなったの。
ディ、君が僕の全てだよ」

ああ、僕は泣いてたんだ。

「んまぁ!私もお兄様が大好きですわ!
でも、私が全てだなんておっしゃらないで。昨日も言いましたわよ?
私の一番はお兄様ですの。
私の好きなお兄様を、!!」

「僕が、僕自身を好きになる…」

「そうですわ、だって、お兄様、私の事大好きでしょう?私が自分で自分を傷つけたら、お兄様、イヤでしょう?
私だって同じですわ。お兄様には、私と同じくらい自分を大事にして欲しいですわ!!」


…ディ、君は、僕が命を捨てるのを禁じるんだね。



なんて優しくて温かくて、残酷な僕の天使。
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