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幼少期

幕間 僕の死なない理由

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僕の名前はエミリオ・エアトル。
僕は侯爵家の嫡男として生まれた。
生まれただけだ。
死ぬための理由は、見つかっていない。

僕には双子の妹がいる。
名前は、ユーディリア。

3歳以前の事はあまり覚えていないけれど、気がついたら僕の世界は灰色だった。
ずっと勉強。
覚えて当然、間違えれば、存在価値を否定される。
「貴方は、侯爵家の嫡男として生きる以外無いのです。これぐらい出来なくてどうするんですか?侯爵家のために生きているから許されてるのであって、そうで無ければ、だれも貴方の事を必要としないのですよ?」
母親からの抱擁も、父親からの褒め言葉もなく、ただただ覚えるものを伝えられるだけの日々。
近くにいたセバスが、「お辛くないですか?少し休憩を挟みましょう?」と、しゃがんで僕に目線を合わせるように気遣い、
乳母のアンが、「ぼっちゃまは、大変良くやっておられます」と、手を握ってくるのが、
ほぼ唯一と言っていい、人とのふれあいだった。

そんなアンに、僕が勉強している間、何をしてるの?と何となく聞いた時の答えが

「お嬢様のお着替えのお手伝いをしている」だった。

僕は、は?と思った。

だって、僕はほぼ日中一杯勉強をさせられている。
その間、ずっと着替えてる、そんなわけないと思ったから。

そしたら、朝昼晩3食、毎回着替えなければならないと言う。

それも、母親の言いつけで。

僕がひとりっきり、もしくは、家庭教師からの指示で勉強している間、母親と一緒に侍女に囲まれて、アンに褒めてもらいながら過ごしているのか、と思ったら、妹がたまらなく憎くなった。
それなら、アン一人くらい僕の側にずっといてくれたっていいじゃないか。
僕も若かったねぇ。
アンに、妹の所に行かないで、僕の側にだけいてくれ。妹には、母親もついてるんだろう、着替えの侍女も一杯いるんだろう、母親を独り占めできているんだ、ワガママな妹じゃなく、アンぐらい僕だけの者でいてくれ。
そしたら、アンに滅茶苦茶怒られた。

「なんて事をおっしゃるのです!
ぼっちゃまは、ある意味、お嬢様に守られているんです!
何もお調べにならず、自分の思い込みで相手を嫌ってはいけません。
まずは、お嬢様をお知りになることです!!!」

そう言って、連れて行かれた母親の昼食の席、少しだけドアを開けて気付かれないように見ていた。

すると、僕と同じ顔の女の子が、姿勢を伸ばして入ってきて、母親の前でほんの一瞬たじろいだけど、綺麗なカーテシーを披露した。

僕はびっくりした。
本当に鏡で見る僕と同じをしていたから。

君は母親に可愛いがられているんじゃないの?
アンや侍女達に囲まれて、目一杯おしゃれを楽しんでるんじゃないの?

さらに驚いた事に、カーテシーのまま、頭を上げないんだ。

だから、ちょっとふらついたら、母親が急に怒り出し、しかも、スープを頭からかけたんだ。
しかも、頭を上げる許可さえ出さない。
4歳児だよ?!何してるの?!

案の定、女の子は、べしゃっと、倒れた。
自分にかけられたスープの上に。

そしたら、あのクソババァ、立ち上がって癇癪起こしそうになったから、アンがかばって、抱えて出ていった。

あまりの現状に僕は暫く理解が追い付かなかった。

あの、醜悪な態度の癇癪持ちが、母親?!
直接的な暴力も受けていたのが、僕の妹?!

あの母親の前に僕も出されていたら、着せ替えに時間を取られた上で、まだ覚えられないのか、と、僕も殴られていたんだろう。
アンが、僕が妹に守られている、って言ったのは、そういう事かと思った。

そのあと、いてもたっても居られなくなった僕は、妹の部屋へ行き、妹に突撃した。
「ごめんよ、僕は君が大嫌いだったけど、君があんなにひどい目に合っていたなんて、知らなかった。お母様と一緒にいる君が羨ましくて、それで、それで!!」
「おにいさ…ま?」
「そう、そう!僕は君の兄だよ、エミリオだよ。僕達は双子だもんね、つらかったの僕だけじゃない、一緒だった!しかも君は、実際にいじめられてた!
うわーーーん!」
気づけば僕は、妹をぎゅうぎゅう抱き締めて泣いていた。
妹の暖かさを感じながら、気づけば、妹もワァワァ泣いていた。

その妹の顔を見て、ほっぺたが赤いのに気がついた。
必死だと、肌に色味って増すんだね。
ああ、抱きしめると、抱きしめられると、人って温かいんだね、と初めて思ったんだ。
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