地獄の王子サマ

３章 王子サマの帰省

ジンセイならぬチュウセイ？

「で、キミはナンなの？カブトムシくん？」
コテン、と首をかしげながら、紀伊助が剛磨の胸についているカブトムシを見下ろす。

「ええっと、何と言われやしても、ヘラクレスオオカブトとしか…」
カブトムシが前足２本をアワアワ動かしながら答える。

「んじゃぁ、キミの虫生を簡潔に語るの！」
紀伊助がビシィっとカブトムシを指差して尋ねた。




「へい、あっしは所謂ブリーダーの所で生まれやした。周りに沢山同じ種類が居たんで、多分、間違いねぇかと思いやす。

生まれた時から、自分には何か足りねぇような気がしてたんでさぁ。

まだ幼虫だから、角も、羽もねぇせいかと思ってやして、だから、早く大きくなりたくって、他の虫より、虫一倍食いやした。

で、地面から出てきても、成虫になっても、どぉにも何が足りねぇかわからねぇんで。

んでも、虫一倍食ったんで、周りより、ちぃっとばかりデカかったんで、繁殖のためでしょうねぇ、メスがいっぱいいる所に放り込むために、籠から出されたら、今までなかったダンナの気配が突然したんでやすよ。

歓喜に震えやしたね。

気がついたら、人間の手を、思いっきり前足で刺して、ひっかいちまいまして、拘束を解いて、逃げ出して、ココまで飛んで来たってわけでやす。

あっしは基本夜行性なんで、飛ぶの自体は夜に飛んだんですがね、日が昇ってから、見つからないようにするのが、まぁ、大変でやした。人間に見つかれば捕まりやすし、鳥に見つかれば、喰われやすし。
いやぁ、必死だったんでやんす。」

心なしか、胸を張ったように見えるカブトムシだった。