地獄の王子サマ

１章 王子サマの日常

その頃の執務室 ②

「どれ、若造達に、少し昔話をしてやろうか」

菅公は穏やかに語り始めた。




鬼は生まれた時から鬼じゃろう？
ああ、ココには生粋の鬼はおらなんだか。
皆、鬼と妖とのハーフか？
じゃから、属性をもってるんじゃの。
それが広まったのは、柊路が生まれたからかもしれんの。
柊路が生まれるより前もハーフは居たんじゃろうが、育たんかったんじゃろ。

最初に言ったじゃろ。

鬼は生まれた時から鬼なんじゃよ。

鬼として自我をもち、活動できるんじゃ。

でも、妖は、むぅ、猫又がわかりやすいかの。
猫として２２年じゃったか？
そんぐらい生き長らえて初めて猫又としての自我もち、猫又としての能力が使える。
ハーフで生まれた子は、妖のその性質が出ての、
〝何になるか〞決まるまで時間がかかる、ということに、柊路をみて初めて気がついた。

というか、まぁ、柊路は最初、無能扱いだったんじゃよ。

柊路が生まれそうだ、となった時、
絶大な力を持った閻魔大王の息子！ということで、
生まれてすぐ、自分達を引っ張ってくれる、強力な鬼を期待してたんじゃ。

ところが

期待した子が赤ちゃんとして生まれた事に皆びっくりしたんじゃ。

なんだ、この力のない小さな生き物は？
これがあの閻魔大王の息子だと？！
だから、マガイモノはダメなんだ！どちらの力も全く引き継がないじゃないか！！

鬼は生まれてすぐ、鬼としての力を使えるからの。
全てを母親にしてもらわねば、何もできない赤子に落胆したんじゃ。


人間なら、当然の事なんじゃがの。
赤ちゃんなんじゃから。

でも、鬼には、わからなかった。

閻魔大王は、その内なる可能性に気づいておっての、

「この子の名は、柊路！これからその赤子を育てよ。ワシの命令が聞けんと申すか！」

閻魔大王は育てよといったんだがの。
育てる、の意味を鬼は理解しておらんでの、
なんたって、
子供がいないんじゃもの。
小鬼はおるが、それは小さい鬼という種類じゃ。
小鬼で完成形なんじゃもの。

子供の鬼じゃないんじゃよ。

鬼は食べ物さえあれば、生きていけるんじゃ。
はなから大人であるから。

だから、柊路にも同じことをした。

食べ物だけ与えて、放置しとった。

最初の約２年は母親がおったからの、よかったんじゃ。

しかし地獄はちょっと時間の感覚もおかしくなるじゃろ。
なんせ、閻魔大王が平気で３ヶ月とか缶詰じゃからの。
そしてこれだけの獄卒達がいて、閻魔大王直々の命令があって、誰かが面倒を見てると思ってたんじゃ。

確かに誰彼と、食べ物の差し入れはあったんじゃ。

だが、それだけじゃ。

なにせ、能力の発現しない閻魔大王の息子。
声をかけるようなこともなく、ましてや、抱っこしてやることもない、外に出すこともしない。
掃除は、閻魔庁舎の掃除係がおるから、その者が部屋の掃除はしておった。
汚い柊路をみて、風呂もその者が入れてくれてはいたが、仕事だと割りきってしておった。

そんな事になってるとは、わしらも気づかんかった。
鬼は子育て出来ない事に気づいてやれんかった。
まぁ、醜い大人の言い訳じゃな。

１０年じゃ。長すぎるよの。

子供が生まれたはずなのに、しかも、閻魔大王の子供だというのに、なぜ全く子供の話題が上がらない？

おかしい事に、やっと気がついての。

ワシと篁で柊路を探した。

見つけた時には、
部屋の中で、全く感情のない、座ったまま、動く事もない、まるで人形のような柊路が出来上がっていたんじゃよ。