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二人交差点
2.朝と夜の兄弟の話
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夜也との待ち合わせ時間まではまだ余裕があるだろうと思っていたため、寝起き直後に悠々と伸びをする。
まだ完全に目が覚めていない体を起こし、すこしぼけーっとしたのち、スマホに目を見やると、体に纏っていた睡魔が一気に吹き飛んだ。
スマホの画面には、いまから急いで準備しても、どうあがいても集合時刻に間に合わない時間が映されていた。
一呼吸おき、夜也にメッセージを送る。
「すまん、今起きたから三十分くらい遅れると思う」
歯を磨きつつ、外出の準備を進める。しゃこしゃこと歯を磨く音に紛れ、メッセージ通知の音が鳴りメッセージを確認する。
「兄貴、大丈夫。俺も今起きたわ」
なるほど、お互いが先を見越して予定していたはずの集合時間に間に合わないということだ。
やはり私と夜也は似た者兄弟なだけはあるなと感心した。
予定の時刻より三十分遅れて私は集合場所に到着した。
南月見駅前の北口ロータリー。そこが私たちの集合場所だった。
私と夜也は、お互いの職場が近いわけではないが、住んでいる場所は近かった。
その中間地点くらいにあるのがここ南月見駅であるため、よくこの駅付近で酒を酌み交わす。
私が待ち合わせ場所の南月見駅北口付近に着き、周囲を見渡す。
夜也らしき人がいないためメッセージを送ると、あと一駅くらいのところまできているとのことだった。
若干の猶予を得たため、一服しようとし喫煙所方向へと向かう。
夜也と飲む場合、だいたいどちらかが遅れて到着するため、北口の喫煙所に寄ればだいたい合流することができる。
「いつもの喫煙所いるの?」
ちょうど私が喫煙所に着くことを見計らったように、案の定というべきか、夜也からメッセージが届いた。
毎回の習慣のようなものであり、お互い同じ行動を取るため、相手の行動は容易に推測できる。
「いるよ。たばこ吸って待ってるわ」
ちょうど一服し終わる頃、南月見駅の改札を出たというメッセージが夜也から届いた。
喫煙所の出入口付近で待つこと数分で夜也が到着した。
「すまん兄貴、待たせた」
「大丈夫だよ、お互いいつものことじゃん」
「だね」
すまんという、どちらかといえば自分の非を謝罪するはずの言葉を発しているにも関わらず、夜也の顔は満面の笑みだった。
「どこ入る?どっか行きたいとこある?」
「いやあ、兄貴と飲むだけだし、別にどこでも良いかな」
「いつも通りだな」
このやりとりも慣れたもので、南月見駅で飲む場合はだいたいこの会話で始まる。
お互いに行きたい居酒屋があるわけでもなく、とりあえず飲めれば良いやの精神、というわけだ。
「じゃあいつも通りUGOで行くか」
「だね」
足並み揃えてUGOへと向かい始める。
UGOは個人経営の少し洒落た居酒屋だ。大きく店舗を構えているわけでもなく、こじんまりとした店である。
店主の伊藤さんは朴訥とした雰囲気を醸し出しているのだが、笑った時の笑顔と普段の雰囲気が真逆というかわいらしい一面を持っている。
夜也と飲む時は、色々どこの店行くかと話をしても結局ここに行くことがほとんどであった。
いうなれば、二人の行きつけと言っても過言ではないだろう。
暖簾をくぐり、ガラガラという音を立てながら店の引き戸を開くと、無愛想な顔をした伊藤さんが目に入る。
「いらっしゃい」
入店してきた客に一瞥もくれずに、伊藤さんが声を発した。手元で何かの魚を捌いている途中のようだった。
「二人で!」
V字にした二本の指を前方に突き出した夜也に対して、ようやく伊藤さんはこちらに目を向ける。
私と夜也を視界に捉えると、細目のキリッとした目が若干大きくなった。
「あぁ、鈴木さんたちでしたか。お久しぶりですね、お好きなとこ座ってください」
カウンターが五席、二人がけのテーブル席が二席、四人がけの座敷が二席ある店内で私と夜也は、他の客がいなければ端っこのカウンターに座っている。
幸い、今日はカウンターに誰もついていなかったため、私と夜也はカウンターの端に腰を下ろした。
腰を下ろすとほぼ同じタイミングで、伊藤さんがおしぼりとお通しを出してくれた。
「お二人とも最初は生で良かったですか?」
「それでお願いします」
初めて来店するときは、ローマ字で表記されたUGOという店名からしてもっと派手な雰囲気の、言うならば女性がたくさんいるような店なのかと思っていた。
しかし、いざ店内に入ると回らない寿司屋のようなやや厳格な様式の普通の居酒屋だったことには驚いた。
店主である伊藤さんも、厳格を体現しているかのような人物だったが、話してみると物腰柔らかな優しい人物だったため、驚きに拍車をかけた。
いつかのタイミングで来店したとき、今日と同じカウンターの席に着き、夜也と色々話をしていた。
そんな折、夜也が伊藤さんに店名のことを尋ねた。
店名と店の雰囲気のギャップについて尋ねられることが珍しくないのか、伊藤さんは淡々と語ってくれた。
「あぁ、このUGOって店名はそのままユウゴと読むんです。昔、一緒に店を出そうと言っていた友人の名前がユウゴと言う名前で」
伊藤さんは一息の間を置いた。
「いまはもう会うことはできないですが、かけがえのない友人だったのでそいつの名前から拝借しました」
あぁ、この人は友人想いの優しい人なんだなと話を聞きながら感じた。
その後も来店回数が増えていくと、伊藤さんも私と夜也のことを覚えてくれたようだった。
「お待たせしました」
注文してから時間をあけず、二杯のジョッキが運ばれてきた。
「ありがとうございます。兄貴、かんぱ~い」
ジョッキが接触するかちんという音が鳴り、キンキンに冷えたビールが喉を通過する。
「ぷはぁ~」
と言いながら、夜也はジョッキをカウンターに置く。
すでにおおよそ半分程度飲まれていたそのジョッキを置いた夜也の口元は、白い泡が付いていた。
「夜也、口んとこ泡ついてる」
「うわ、ほんとだ。恥ずかしい」
いそいそと口元を拭く夜也だが、恥ずかしげな雰囲気は感じられない。
すでにメニュー表を手に取り、何を注文しようか思案していた。
「兄貴なに食う?」
「なんでも良いよ、好きなの頼みなよ」
「じゃあ適当に頼むよ、文句言わないでね」
「言ったことないだろ」
適当に頼むと言いつつも、だいたい決まったメニューが注文されるため、おおよその予想はできる。
いつもの流れというやつだ。
「伊藤さん、注文お願いします!」
夜也がピシッと手を真っ直ぐ伸ばし、伊藤さんに注文する。
色々注文しているが、最後に頼むものはどうせどんぐりだろうなと思いながら、私も半分程度までビールを飲む。
「とりあえずそんくらいでいいかな。あ、あとどんりもお願いします!」
「かしこまりました。お持ちします」
やはり、私の予想は的中した。
まだ完全に目が覚めていない体を起こし、すこしぼけーっとしたのち、スマホに目を見やると、体に纏っていた睡魔が一気に吹き飛んだ。
スマホの画面には、いまから急いで準備しても、どうあがいても集合時刻に間に合わない時間が映されていた。
一呼吸おき、夜也にメッセージを送る。
「すまん、今起きたから三十分くらい遅れると思う」
歯を磨きつつ、外出の準備を進める。しゃこしゃこと歯を磨く音に紛れ、メッセージ通知の音が鳴りメッセージを確認する。
「兄貴、大丈夫。俺も今起きたわ」
なるほど、お互いが先を見越して予定していたはずの集合時間に間に合わないということだ。
やはり私と夜也は似た者兄弟なだけはあるなと感心した。
予定の時刻より三十分遅れて私は集合場所に到着した。
南月見駅前の北口ロータリー。そこが私たちの集合場所だった。
私と夜也は、お互いの職場が近いわけではないが、住んでいる場所は近かった。
その中間地点くらいにあるのがここ南月見駅であるため、よくこの駅付近で酒を酌み交わす。
私が待ち合わせ場所の南月見駅北口付近に着き、周囲を見渡す。
夜也らしき人がいないためメッセージを送ると、あと一駅くらいのところまできているとのことだった。
若干の猶予を得たため、一服しようとし喫煙所方向へと向かう。
夜也と飲む場合、だいたいどちらかが遅れて到着するため、北口の喫煙所に寄ればだいたい合流することができる。
「いつもの喫煙所いるの?」
ちょうど私が喫煙所に着くことを見計らったように、案の定というべきか、夜也からメッセージが届いた。
毎回の習慣のようなものであり、お互い同じ行動を取るため、相手の行動は容易に推測できる。
「いるよ。たばこ吸って待ってるわ」
ちょうど一服し終わる頃、南月見駅の改札を出たというメッセージが夜也から届いた。
喫煙所の出入口付近で待つこと数分で夜也が到着した。
「すまん兄貴、待たせた」
「大丈夫だよ、お互いいつものことじゃん」
「だね」
すまんという、どちらかといえば自分の非を謝罪するはずの言葉を発しているにも関わらず、夜也の顔は満面の笑みだった。
「どこ入る?どっか行きたいとこある?」
「いやあ、兄貴と飲むだけだし、別にどこでも良いかな」
「いつも通りだな」
このやりとりも慣れたもので、南月見駅で飲む場合はだいたいこの会話で始まる。
お互いに行きたい居酒屋があるわけでもなく、とりあえず飲めれば良いやの精神、というわけだ。
「じゃあいつも通りUGOで行くか」
「だね」
足並み揃えてUGOへと向かい始める。
UGOは個人経営の少し洒落た居酒屋だ。大きく店舗を構えているわけでもなく、こじんまりとした店である。
店主の伊藤さんは朴訥とした雰囲気を醸し出しているのだが、笑った時の笑顔と普段の雰囲気が真逆というかわいらしい一面を持っている。
夜也と飲む時は、色々どこの店行くかと話をしても結局ここに行くことがほとんどであった。
いうなれば、二人の行きつけと言っても過言ではないだろう。
暖簾をくぐり、ガラガラという音を立てながら店の引き戸を開くと、無愛想な顔をした伊藤さんが目に入る。
「いらっしゃい」
入店してきた客に一瞥もくれずに、伊藤さんが声を発した。手元で何かの魚を捌いている途中のようだった。
「二人で!」
V字にした二本の指を前方に突き出した夜也に対して、ようやく伊藤さんはこちらに目を向ける。
私と夜也を視界に捉えると、細目のキリッとした目が若干大きくなった。
「あぁ、鈴木さんたちでしたか。お久しぶりですね、お好きなとこ座ってください」
カウンターが五席、二人がけのテーブル席が二席、四人がけの座敷が二席ある店内で私と夜也は、他の客がいなければ端っこのカウンターに座っている。
幸い、今日はカウンターに誰もついていなかったため、私と夜也はカウンターの端に腰を下ろした。
腰を下ろすとほぼ同じタイミングで、伊藤さんがおしぼりとお通しを出してくれた。
「お二人とも最初は生で良かったですか?」
「それでお願いします」
初めて来店するときは、ローマ字で表記されたUGOという店名からしてもっと派手な雰囲気の、言うならば女性がたくさんいるような店なのかと思っていた。
しかし、いざ店内に入ると回らない寿司屋のようなやや厳格な様式の普通の居酒屋だったことには驚いた。
店主である伊藤さんも、厳格を体現しているかのような人物だったが、話してみると物腰柔らかな優しい人物だったため、驚きに拍車をかけた。
いつかのタイミングで来店したとき、今日と同じカウンターの席に着き、夜也と色々話をしていた。
そんな折、夜也が伊藤さんに店名のことを尋ねた。
店名と店の雰囲気のギャップについて尋ねられることが珍しくないのか、伊藤さんは淡々と語ってくれた。
「あぁ、このUGOって店名はそのままユウゴと読むんです。昔、一緒に店を出そうと言っていた友人の名前がユウゴと言う名前で」
伊藤さんは一息の間を置いた。
「いまはもう会うことはできないですが、かけがえのない友人だったのでそいつの名前から拝借しました」
あぁ、この人は友人想いの優しい人なんだなと話を聞きながら感じた。
その後も来店回数が増えていくと、伊藤さんも私と夜也のことを覚えてくれたようだった。
「お待たせしました」
注文してから時間をあけず、二杯のジョッキが運ばれてきた。
「ありがとうございます。兄貴、かんぱ~い」
ジョッキが接触するかちんという音が鳴り、キンキンに冷えたビールが喉を通過する。
「ぷはぁ~」
と言いながら、夜也はジョッキをカウンターに置く。
すでにおおよそ半分程度飲まれていたそのジョッキを置いた夜也の口元は、白い泡が付いていた。
「夜也、口んとこ泡ついてる」
「うわ、ほんとだ。恥ずかしい」
いそいそと口元を拭く夜也だが、恥ずかしげな雰囲気は感じられない。
すでにメニュー表を手に取り、何を注文しようか思案していた。
「兄貴なに食う?」
「なんでも良いよ、好きなの頼みなよ」
「じゃあ適当に頼むよ、文句言わないでね」
「言ったことないだろ」
適当に頼むと言いつつも、だいたい決まったメニューが注文されるため、おおよその予想はできる。
いつもの流れというやつだ。
「伊藤さん、注文お願いします!」
夜也がピシッと手を真っ直ぐ伸ばし、伊藤さんに注文する。
色々注文しているが、最後に頼むものはどうせどんぐりだろうなと思いながら、私も半分程度までビールを飲む。
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