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二つの世界
4.違う日
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注文していた生ビールが運ばれてきた。結露した水分が付着しているジョッキ、よく冷やされていると分かる。
「待ってました、これよこれ!」
およそ半日前まで飲んでいた人とは思わせないセリフが先輩に口から放たれた。
「乾杯しましょうか。」
先輩にビールが入ったジョッキを渡した。
「全然疲れてないけど、お疲れ!」
「私はちゃんと疲れましたよ…」
カチャンと綺麗な音が響いたあと、先輩はビールを一気に飲み飲み干した。
「しっかり仕事をした後のこれがたまらねえなあ」
そうですね、と愛想よく応えた。
「ところで、今日は何かあったんですか?」
「何かって何よ?」
「いや、昨日、というか今日の朝まで飲んでたのに、今日も飲むなんて」
この先輩にとって連日飲むこと自体はいつも通りではあるが、と思いつつも尋ねた。
「そんなのいつも通りだろ」
予想通りの返答だった。
「まあ、強いて言うなら、幸太が元気無さそうだったからだな」
鈴木先輩のすごいところは、私以外の後輩にも多大な信頼を得ている点だ。
理由は単純明快で、人をよく見ており、その人が落ち込んでいれば励まし、良いことがあった人にはさらに嬉しくなるよう鼓舞してくれるからだ。
分け隔てなく誰とでも接してくれるからこそ、多大な支持を集めている。
もちろん、先輩より上の上司からも、である。
「まあ、たしかにそうですね。元気ないっちゃ無かったです。よくわかりましたね」
「そりゃあわかるさ。俺はなんでも気づく男だからな」
次の注文をするために、呼び出しボタンを押す。
「で、実際なんかあったのか?彼女と別れたとか?」
「いや、私、ずっと彼女いないの知ってるじゃないですか」
「そうだったな」
私の返事にてきとうな受け応えをしながら、先輩は飲み物と食べ物の注文を店員にし伝えていた。
「まあ、女性関係というか、今朝見た夢のことずっと考えてました」
「夢ぇ?お前そんなこと考えて落ち込んでたのか。」
先輩がオーバーなリアクションで驚きを見せた。
「で、どんな夢よ?」
「昔お付き合いしてて、結婚したいな、幸せにしたいな、と思ってた人が夢に出てきて」
自分で言っていて軽く恥ずかしくなってくる。
「いや、それはお前、女々しいというやつなのではないだろうか?」
これまたオーバーなリアクションで先輩は腕を組んで首を傾げてみせた。
「そうなんですよね、我ながらどんだけ女々しいんだと思いました」
まだ冷たさの残るビールを流し込み、私は呼び出しボタンを押した。
さっき店員がきてくれたタイミングで一緒に注文しておけばよかったと少し後悔した。
「しかもその見た夢の内容が、その人と結婚してて、子供も二人いて。その夢の中でピクニックしてて、夜はその人の誕生日を子供たちとサプライズで祝う、てな流れで」
「だいぶ鮮明ではあるが、、、幸太、なんか悩み事抱えてるなら俺に相談しろよ?」
昔付き合っていた人とありもしない夢を見てそれについて悩んでいる、と告白されれば、誰が聞いていても心配してくれるだろう。
事実、大袈裟の上を行くくらいオーバーなリアクションをしていた先輩も、今は本気で後輩を心配する様相で私に真剣な眼差しを向けてくれている。
「ご心配、ありがとうございます」
作り笑顔などではなく、本心でそう応えた。
「まあ、たしかにその人のことが忘れられないのは間違い無いんですけど、私が落ち込んでいる理由は他にあって。昔破局したのにそんな夢を見たから、という理由で落ち込んでるのではないんです」
「…?どういうことだ?」
頼んだ食べ物が私たちの卓へと早々に運ばれてきた。
その際に私は追加の飲み物を注文した。
こんなに早く食べ物を運んできてくれるなら、さっき呼び出しボタンを押さなくてもよかったなとまた少し後悔した。
「その人、私が結婚したいなと思ってた人、その人も私と結婚したいと言ってくれてたんですよ」
ビールを飲もうとジョッキを持ったが、先程飲み干してしまったので中身は入っていなかった。
「でもその人、交通事故で亡くなったんです」
「え?」
いつも眠そうな半開きの目をしてる先輩が、こんなに大きく目を見開いているのを私は初めて見た。
「私が社会人になって2年くらい経ってプロポーズして。彼女もそれを泣きながら笑顔で了承してくれて、私も嬉しくて泣いちゃって」
頼んでいた飲み物が来たので、半分ほど一気に飲み干した。
「私の誕生日祝いをしてくれたんですけど、その際に、逆にサプライズでプロポーズしたんです。それで、次の彼女の誕生日の日に結婚しよう、って伝えました」
「…」
いつもは、良い意味で、うるさい鈴木先輩がいつになく真剣な顔をしていた。
恐らく、先ほどまでとは違う心持ちで、静かに私の話を聞いていてくれた。
「実家も行き来してたので、お互いの両親は喜んで祝ってくれましたし、何不自由なく話は進みました。でも…」
私は残っていた半分ほどの飲み物を飲み干し、呼び出しボタンを押した。
「彼女の誕生日当日、婚姻届を出しに行く大切な日、その日彼女は事故にあってこの世からいなくなってしまいました。役所に行く前に、ほんとにちょっと、コンビニに行った時に」
一切お酒に手をつけず、人の話を聞く先輩の姿は、恐らく、入社以来初めて見たかもしれない。
「そんなこと…あるのか」
ようやく口を開いた先輩は、そう言って飲み物を流し込んだ。
「そう思いますよね、普通。でもこれ、ほんとの話なんですよ」
作り笑顔を先輩に向けた。
「もしかしたら、この夢みたいな未来を私も歩めていたのかもしれない。そう思ってたら、ちょっと辛気くさくなっちゃっていました」
「そうだなあ…それは、ちょっと辛気くさくなるな…」
忙しいのか、注文ボタンを押したのになかなか店員が来なかったので、もう一度ボタンを押した。
注文していた生ビールが運ばれてきた。結露した水分が付着しているジョッキ、よく冷やされていると分かる。
「待ってました、これよこれ!」
およそ半日前まで飲んでいた人とは思わせないセリフが先輩に口から放たれた。
「乾杯しましょうか。」
先輩にビールが入ったジョッキを渡した。
「全然疲れてないけど、お疲れ!」
「私はちゃんと疲れましたよ…」
カチャンと綺麗な音が響いたあと、先輩はビールを一気に飲み飲み干した。
「しっかり仕事をした後のこれがたまらねえなあ」
そうですね、と愛想よく応えた。
「ところで、今日は何かあったんですか?」
「何かって何よ?」
「いや、昨日、というか今日の朝まで飲んでたのに、今日も飲むなんて」
この先輩にとって連日飲むこと自体はいつも通りではあるが、と思いつつも尋ねた。
「そんなのいつも通りだろ」
予想通りの返答だった。
「まあ、強いて言うなら、幸太が元気無さそうだったからだな」
鈴木先輩のすごいところは、私以外の後輩にも多大な信頼を得ている点だ。
理由は単純明快で、人をよく見ており、その人が落ち込んでいれば励まし、良いことがあった人にはさらに嬉しくなるよう鼓舞してくれるからだ。
分け隔てなく誰とでも接してくれるからこそ、多大な支持を集めている。
もちろん、先輩より上の上司からも、である。
「まあ、たしかにそうですね。元気ないっちゃ無かったです。よくわかりましたね」
「そりゃあわかるさ。俺はなんでも気づく男だからな」
次の注文をするために、呼び出しボタンを押す。
「で、実際なんかあったのか?彼女と別れたとか?」
「いや、私、ずっと彼女いないの知ってるじゃないですか」
「そうだったな」
私の返事にてきとうな受け応えをしながら、先輩は飲み物と食べ物の注文を店員にし伝えていた。
「まあ、女性関係というか、今朝見た夢のことずっと考えてました」
「夢ぇ?お前そんなこと考えて落ち込んでたのか。」
先輩がオーバーなリアクションで驚きを見せた。
「で、どんな夢よ?」
「昔お付き合いしてて、結婚したいな、幸せにしたいな、と思ってた人が夢に出てきて」
自分で言っていて軽く恥ずかしくなってくる。
「いや、それはお前、女々しいというやつなのではないだろうか?」
これまたオーバーなリアクションで先輩は腕を組んで首を傾げてみせた。
「そうなんですよね、我ながらどんだけ女々しいんだと思いました」
まだ冷たさの残るビールを流し込み、私は呼び出しボタンを押した。
さっき店員がきてくれたタイミングで一緒に注文しておけばよかったと少し後悔した。
「しかもその見た夢の内容が、その人と結婚してて、子供も二人いて。その夢の中でピクニックしてて、夜はその人の誕生日を子供たちとサプライズで祝う、てな流れで」
「だいぶ鮮明ではあるが、、、幸太、なんか悩み事抱えてるなら俺に相談しろよ?」
昔付き合っていた人とありもしない夢を見てそれについて悩んでいる、と告白されれば、誰が聞いていても心配してくれるだろう。
事実、大袈裟の上を行くくらいオーバーなリアクションをしていた先輩も、今は本気で後輩を心配する様相で私に真剣な眼差しを向けてくれている。
「ご心配、ありがとうございます」
作り笑顔などではなく、本心でそう応えた。
「まあ、たしかにその人のことが忘れられないのは間違い無いんですけど、私が落ち込んでいる理由は他にあって。昔破局したのにそんな夢を見たから、という理由で落ち込んでるのではないんです」
「…?どういうことだ?」
頼んだ食べ物が私たちの卓へと早々に運ばれてきた。
その際に私は追加の飲み物を注文した。
こんなに早く食べ物を運んできてくれるなら、さっき呼び出しボタンを押さなくてもよかったなとまた少し後悔した。
「その人、私が結婚したいなと思ってた人、その人も私と結婚したいと言ってくれてたんですよ」
ビールを飲もうとジョッキを持ったが、先程飲み干してしまったので中身は入っていなかった。
「でもその人、交通事故で亡くなったんです」
「え?」
いつも眠そうな半開きの目をしてる先輩が、こんなに大きく目を見開いているのを私は初めて見た。
「私が社会人になって2年くらい経ってプロポーズして。彼女もそれを泣きながら笑顔で了承してくれて、私も嬉しくて泣いちゃって」
頼んでいた飲み物が来たので、半分ほど一気に飲み干した。
「私の誕生日祝いをしてくれたんですけど、その際に、逆にサプライズでプロポーズしたんです。それで、次の彼女の誕生日の日に結婚しよう、って伝えました」
「…」
いつもは、良い意味で、うるさい鈴木先輩がいつになく真剣な顔をしていた。
恐らく、先ほどまでとは違う心持ちで、静かに私の話を聞いていてくれた。
「実家も行き来してたので、お互いの両親は喜んで祝ってくれましたし、何不自由なく話は進みました。でも…」
私は残っていた半分ほどの飲み物を飲み干し、呼び出しボタンを押した。
「彼女の誕生日当日、婚姻届を出しに行く大切な日、その日彼女は事故にあってこの世からいなくなってしまいました。役所に行く前に、ほんとにちょっと、コンビニに行った時に」
一切お酒に手をつけず、人の話を聞く先輩の姿は、恐らく、入社以来初めて見たかもしれない。
「そんなこと…あるのか」
ようやく口を開いた先輩は、そう言って飲み物を流し込んだ。
「そう思いますよね、普通。でもこれ、ほんとの話なんですよ」
作り笑顔を先輩に向けた。
「もしかしたら、この夢みたいな未来を私も歩めていたのかもしれない。そう思ってたら、ちょっと辛気くさくなっちゃっていました」
「そうだなあ…それは、ちょっと辛気くさくなるな…」
忙しいのか、注文ボタンを押したのになかなか店員が来なかったので、もう一度ボタンを押した。
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