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第12章 迫る魔軍王……ダメージ床整備領主、決戦する
最終話 春の訪れ……ダメージ床整備領主、幸せになる
しおりを挟む桜の季節も終わり、そろそろ野山に若葉の緑が目立つ頃……次々に襲ってくる事後処理の波をあらかた倒した私は、ようやく一息つけるようになっていた。
2週間ほど前に起きた魔軍の大規模攻勢に対抗した、カイナー地方に集いし勇士たちとダメージ床。
聖獣サラマンダーであるサーラ、伝説の精霊であるアルラウネの助力……なにより私の愛するスーパー犬耳アルティメットメイド・アイナの大活躍により、巨大化した魔軍王リンゲンを討伐、その後の掃討戦で魔軍の勢力を完全に駆逐することに成功する。
魔軍王であるリンゲンと、参謀役のアンジェラ……首脳陣を失った魔軍は各地で敗走していき……。
総参謀長の復帰で体勢を立て直した帝国軍の活躍もあり、つい先日帝国全土の奪回に成功したそうだ。
皇帝ゲルト・へスラー陛下は、真っ先に逃げだしたことを反省されたらしく、皇位を息子のランド殿下に譲位されるらしい……殿下は公正明大な人物として知られているので、帝国の復興も進むだろう。
我がカイナー自治領も帝国の復興を助けるため、農作物や土木工事用のダメージ床を輸出……と、相変わらず経済は潤いっぱなしである。
私の仕事は変わらず忙しく、満足なスローライフを送れるのはもう少し先になりそうだ。
まあそんなことより、大きく変わったことが一つだけ……。
バタン!
「わふわふ~っ! ようやく学院臨時講師のお仕事と、復興のお手伝いがひと段落しましたぁ!」
「やっとカールさんにいっぱい甘えられますっ!」
ノックもそこそこに、執務室の扉を勢い良く開けながら飛び込んできたのはメイド服姿のアイナだ。
彼女は最終決戦で各種ダメージ床シリーズを使いこなしまくったせいで、新生帝国軍で大規模採用予定のダメージ床シリーズの実践講師としてバウマン総合技術学院にこもりっきりだったのだ。
私も事後処理の出張などに追われ……最終決戦後、アイナとの時間をゆっくり取るのは今日が初めてだったりする。
たたたっ……だきっ!
入室した勢いそのままに、ぴょんっと抱きついてくるアイナ。
ぎゅっと抱きしめたもふもふの頭と犬耳……ほのかに香るおひさまの匂いはいつも通りで、ふふっと頬がほころんでしまう。
「ふふ……可愛いぞアイナ。 身体の調子は大丈夫か?」
「わふっ!? 不意打ちカワイイ頂きましたっ!」
「えへへ、アイナ絶好調です! 思いっきり甘えちゃいますよっ!」
一発先制攻撃を仕掛けた後、気遣うセリフを投げかける。
ぽぽん、と音がしそうなくらい顔を真っ赤にしたアイナは、にぱっと元気な笑顔を浮かべると、私の胸に顔をうずめ、すりすりと甘えてくる。
その愛らしい様子と、彼女の全身から溢れ出る優しい魔力に、異常はなさそうでほっとする。
短い時間だったとはいえ、魔軍王が変身した金属竜に取り込まれていたんだ……なにかしらの影響があってもおかしくはなかったが、アイナの強靭な体力と、治療を助けてくれたアルラウネの力もあったのだろう。
まあ、そんな理屈はともかく……可愛らしい仕草を続けるアイナをぎゅっと抱きしめる……ふう、至福のひと時である。
「わふぅ~……あ、そうだカールさん、お願いしたいことがあったんですっ!」
私の腕の中で幸せそうにしていたアイナが、なにかを思い出したように顔を上げる。
少しだけ口角を上げ、いたずらっぽい表情になる。
「カールさんがアイナを助けてくれた時、キスしたじゃないですか」
「アイナ、ファーストキスだったんですけど、あまり良く覚えてないんですよね……もう一度キスしてくれませんか?」
ぐっ……あの時は彼女を助けたい一心で無我夢中だった……いま再現してと言われても大変恥ずかしいのだが……。
私が目に見えて狼狽するのを見て、ニヤニヤしているアイナ。
まったく……すっかりこの子は遠慮しなくなって……だが、彼女を愛する一人の男として、期待に応える必要があろうっ!
私は覚悟を決めると、真剣な表情を作り、アイナのエメラルドグリーンに輝く瞳をまっすぐにのぞき込む。
「……はうっ」
じっと見つめる私の視線に恥ずかしくなってきたのだろう……ぷしゅ~という音がしそうなほど、アイナの頬が真っ赤に染まる。
私はありったけの愛しさと感情を喉に込め、愛の言葉を紡ぎ出す。
「私とこの先も、共に歩もう」
「世界中の誰よりも愛している、アイナ……」
ちゅっ……
*** ***
ちょっとしたいたずら心から出たアイナのリクエスト。
恥ずかしがるカールさんはとってもかわいいので、その姿を見たかっただけなのだけれど……。
今まで聞いた中でいちばんやさしく、一番気持ちのこもったカールさんの言葉。
その言葉と共に触れ合った唇に、アイナの心は一瞬でオーバーヒートしちゃいました!
わふっ! これ反則ですチートですギャラクシーですっ!!
一生味わっていたいと思えるような甘美な感触に、アイナの唇はとろけちゃいそう……。
長い長いキスの後、そっと瞼を開け、優しい笑顔を浮かべるカールさんに向かってアイナは言うのです。
「アイナも愛しています、カールさん……アイナを、お嫁さんにしてくださいっ」
お誕生日パーティの日、言えなかったアイナの言葉に、大きく頷いてくれるカールさん。
「ふふっ……こちらからもお願いしたい」
「一生キミと一緒だ、アイナ」
はわ~っ……甘い言葉にアイナの顔がとろけてしまいます。
アイナがふにゃふにゃしていると、カールさんは少し悪戯っぽい笑顔を浮かべ、特大の爆弾を放り込んでくれます。
「……ふむ、それにしても……今日はもうキミと離れたくないな……」
「今日は部屋に帰さないぞ、アイナ?」
わふわふわふ~っ!?
お嫁さんになるという事は、夫婦のあれやこれやがあるわけで、これはもうアイナも覚悟を決めた方がいいですよねっ!?
わたわたするアイナの唇を、優しいカールさんの唇がふさぎます。
さっきより少しだけ大人のキス……アイナの生まれてから一番幸せな夜は、まだまだ始まったばかりです。
*** ***
少しだけ月日は流れて……カイナーの街の中央広場、正面にそびえる女神の教会の中で、私とアイナはたくさんの人たちの祝福を浴びていた。
「カール坊ちゃん、アイナ、本当におめでとう!」
「おめでとうございますじゃ! これでカイナー地方もますます安泰ですのう!」
フェリスおばさんに町長……祝福の言葉と共にフラワーシャワーが浴びせられる。
「兄さん、アイナちゃん、おめでとうございますっ! 兄さんもついに年貢の納め時ですねっ」
ヘタに着飾ったせいで金髪お嬢様のように見えるフリードが、フリードらしい祝いの言葉をくれる。
コイツも最近学院の教え子と良い雰囲気らしい……その時が来たら思いっきりからかってやろうと心に決める。
「にはは、ししょーとアイナ、めでたいなっ! こんいんの儀はいいものよ!」
「おめでとうございます。 カール、シェフ・アイナ」
「お二人の愛により、さらにゴールデン肥料は進化する事でしょう……じゅるり」
サーラとアルラウネはすっかりカイナー地方の守り神として街に溶け込んでいた。
ふたりとも小っちゃくてかわいいので、みんなに大人気だ。
聖獣と伝説の精霊が祝福してくれるなんて、私たちは何と果報者なのだろうか。
「えへへ、カールさんっ! みんな、ほんとにホントに優しいですよねっ!」
「アイナ、カールさんと一緒にこの街をもっと盛り上げたいですっ」
純白のウエディングドレスを着たアイナが、キラキラと光る最強の笑顔で私の周りを踊るように飛びはねる。
もふもふの犬耳も尻尾も、ピコピコぶんぶん絶好調だ。
「ああ! 私とキミがいれば世界最強だ、アイナ!」
私はそんな彼女を抱き上げる。
祝福の花びらが舞う中、アイナの笑顔が初夏の日差しに輝く。
ダメージ床整備領主の最強領地経営術は、アイナという最強の伴侶を得て、どこまでも続いていくだろう。
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