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第8章 ダメージ床整備領主、カイナー地方をカチカチにする

第8-5話 ダメージ床整備領主と師匠

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 絶体絶命のピンチを救ってくれたアイナ。
 彼女のために更なる”ダメージ床伍式・アイナカスタム極”の改良を誓う私……。

 だが、その前に立ちはだかったのは謎の大男だった。

「とうっ!!」

 その男はジャンプ一番、真っ赤な夕陽を全身に浴びて……無意味に三回転半捻りを加えながら、砂浜に着地する。

 身長は2メートルを超え、肩の筋肉は大きく盛り上がっており、圧倒的な迫力を醸し出す。

 若々しい肉体とは対照的に、頭髪は真っ白であり、しわが深く刻まれた顔からは、かなりの高齢であることがうかがわれる。

「効果を優先するあまり、安全性の確保が甘くなる……だからお前はアホなのだあああああぁっ!!」

 その筋骨隆々な拳をこちらに向け、私にとって耳の痛い指摘をしてくる大男。

 確かに、アイナの豊富な魔力を生かし、攻撃力を高める方向に舵を切ったのは私の判断だ……だが、大きすぎる魔力に対応する為、セーフティロック機能はもちろん搭載されている……頭ごなしに馬鹿にされるいわれは……!

「わふわふわふっ!? なんか無敵っぽい人が出てきましたよっ!!」
「アイナには分かりますっ! この人の拳は並行世界を狙えますっ!!」

 一瞬でこの男の力量を見抜き、ハイレベルな驚き方をするアイナ。

 さすがだなアイナ……だがしかしっ!

「確かにあなたの指摘は的確だ……的確ですが、もう私はあの時の未熟な坊ちゃんではない!」

「彼女の膨大な魔力に合わせ、適切な力場変換と魔力ゲインコントロール……芸術作品にも似た私の”ダメージ床伍式・アイナカスタム極”……そうやすやすと馬鹿にはさせませんよ、師匠ッッッッ!!」

「し、ししょううっっ!?」

 ありったけの誇りと矜持を込め、”師匠”へと指を突き付ける私。

 その様子を見て、ズガーンと驚きを隠せないアイナ。

「ええええっ!? ギャラクシーなアイナのご主人であるカールさんのお師匠ってことは……」
「ゴッド!! ゴッドオブゴッド!!!」

 ぴん! と立てられた両耳と尻尾が彼女の驚き具合を表している。
 やはりアイナくらいの使い手になるとわかってしまうか……師匠の恐ろしさが!!


「……誰かツッコんでくれませんか?」
「あ、お久しぶりですバウマン卿。 お元気そうで何よりです」

 突如辺りを支配した知能指数低いフィールドにあきれたのか、師匠に対して普通に挨拶するフリード。

「わふっ!? ”ばうまん”って、カールさんの苗字ですよね……ということは?」

「ああ……この男が私の師匠にしてバウマン家の先代当主……遺憾ながら私の祖父、グスタフ・バウマンだっ!」

「カールさんの……おじいさんっ!?」

 もう何度目かも分からない、アイナの驚愕の叫び声が、夕日に赤く染まる砂浜に響いた。


 ***  ***

「はふはふ……ええのうこの魚の焼き加減。 高火力で一気に焼かれて、皮もぱりぱりじゃ」
「料理上手なアイナお嬢ちゃんにお小遣いをあげよう」

「やたっ! ありがとうございますグスタフさん!」

 突然現れた私の祖父であり師匠のグスタフ……数年前にダメージ床整備卿を引退し、フラフラどこかへ姿を消していたかと思えばこれである。

 すっかり日も落ち、私たちはのんびりと砂浜で焚火を囲み、キャンプ飯を楽しんでいた。

 すっかりとおなじみとなった”ダメージ床伍式・アイナカスタム極”の高火力で調理された焼き魚を気に入ったらしい師匠……ジジイは、さっそくアイナを手懐けている。

 このジジイ、孫は女の子が欲しかったそうだからな……アイナにメロメロである。

「それにしても、ウチの偏屈な孫がお嬢ちゃんに迷惑かけてないかの? あんなののメイドでいいのか?」

「はいっ! アイナ、カールさんが大好きですっ!」

 失礼なことを言うジジイに対し、満面の笑顔で好意を示してくれるアイナ。
 おお、なんていい娘なんだ……思わず目頭が熱くなる。

「して、不肖の弟子にしてバカ孫よ……先ほど”ダメージ床伍式”を改良すると言っていたが、腹案はあるのか?」

 アイナかわいがりモードから復帰したグスタフ爺が、真剣な表情になり問いかけてくる。

「相変わらず口の悪い……なんと、このカイナー地方でミスリル銀を安定供給するめどが立ちましてね」
「ミスリル銀は魔力伝導効率が高い……ダメージ床の構造材をミスリル銀との合金に変えることで、より使用者に負担のかからない、魔力消費の少ない新型を開発するつもりです」
「基礎理論は……」

 私の金属加工技術と、伍式までの開発で培ってきたノウハウを投入すれば、革新的な新型を作れると確信している。
 私は堂々と胸を張り、グスタフ爺に構想を説明する。

「ふん、悪くないがまだ詰めが甘いな……しかたない、退屈していたことだし、アイナお嬢ちゃんのためにも手伝ってやらん事もない」

 まったく、本当はアイナを可愛がりたいだけのくせに……素直じゃないジジイである。

 悔しいが、ダメージ床の基礎理論を実用レベルに昇華させたその技術力は本物だ……カイナー地方にまた一人、強力な援軍が加わったといえるだろう。

「……にはは。 ”魔の者”の血を引いたアイナと……そのまりょくとあいしょうのいいししょーか……ししょーのシショーも面白いニンゲンのようだな!」

「どう思う? アルラウネ?」

「はい……世界のバランスを崩そうとしている”魔軍王”……彼に対するカウンターフォースになりうるかと」

 いつになく真剣な表情で語りあう聖獣と精霊……夏の夜は静かに更けて行った。
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