33 / 58
第8章 ダメージ床整備領主、カイナー地方をカチカチにする
第8-5話 ダメージ床整備領主と師匠
しおりを挟む絶体絶命のピンチを救ってくれたアイナ。
彼女のために更なる”ダメージ床伍式・アイナカスタム極”の改良を誓う私……。
だが、その前に立ちはだかったのは謎の大男だった。
「とうっ!!」
その男はジャンプ一番、真っ赤な夕陽を全身に浴びて……無意味に三回転半捻りを加えながら、砂浜に着地する。
身長は2メートルを超え、肩の筋肉は大きく盛り上がっており、圧倒的な迫力を醸し出す。
若々しい肉体とは対照的に、頭髪は真っ白であり、しわが深く刻まれた顔からは、かなりの高齢であることがうかがわれる。
「効果を優先するあまり、安全性の確保が甘くなる……だからお前はアホなのだあああああぁっ!!」
その筋骨隆々な拳をこちらに向け、私にとって耳の痛い指摘をしてくる大男。
確かに、アイナの豊富な魔力を生かし、攻撃力を高める方向に舵を切ったのは私の判断だ……だが、大きすぎる魔力に対応する為、セーフティロック機能はもちろん搭載されている……頭ごなしに馬鹿にされるいわれは……!
「わふわふわふっ!? なんか無敵っぽい人が出てきましたよっ!!」
「アイナには分かりますっ! この人の拳は並行世界を狙えますっ!!」
一瞬でこの男の力量を見抜き、ハイレベルな驚き方をするアイナ。
さすがだなアイナ……だがしかしっ!
「確かにあなたの指摘は的確だ……的確ですが、もう私はあの時の未熟な坊ちゃんではない!」
「彼女の膨大な魔力に合わせ、適切な力場変換と魔力ゲインコントロール……芸術作品にも似た私の”ダメージ床伍式・アイナカスタム極”……そうやすやすと馬鹿にはさせませんよ、師匠ッッッッ!!」
「し、ししょううっっ!?」
ありったけの誇りと矜持を込め、”師匠”へと指を突き付ける私。
その様子を見て、ズガーンと驚きを隠せないアイナ。
「ええええっ!? ギャラクシーなアイナのご主人であるカールさんのお師匠ってことは……」
「ゴッド!! ゴッドオブゴッド!!!」
ぴん! と立てられた両耳と尻尾が彼女の驚き具合を表している。
やはりアイナくらいの使い手になるとわかってしまうか……師匠の恐ろしさが!!
「……誰かツッコんでくれませんか?」
「あ、お久しぶりですバウマン卿。 お元気そうで何よりです」
突如辺りを支配した知能指数低いフィールドにあきれたのか、師匠に対して普通に挨拶するフリード。
「わふっ!? ”ばうまん”って、カールさんの苗字ですよね……ということは?」
「ああ……この男が私の師匠にしてバウマン家の先代当主……遺憾ながら私の祖父、グスタフ・バウマンだっ!」
「カールさんの……おじいさんっ!?」
もう何度目かも分からない、アイナの驚愕の叫び声が、夕日に赤く染まる砂浜に響いた。
*** ***
「はふはふ……ええのうこの魚の焼き加減。 高火力で一気に焼かれて、皮もぱりぱりじゃ」
「料理上手なアイナお嬢ちゃんにお小遣いをあげよう」
「やたっ! ありがとうございますグスタフさん!」
突然現れた私の祖父であり師匠のグスタフ……数年前にダメージ床整備卿を引退し、フラフラどこかへ姿を消していたかと思えばこれである。
すっかり日も落ち、私たちはのんびりと砂浜で焚火を囲み、キャンプ飯を楽しんでいた。
すっかりとおなじみとなった”ダメージ床伍式・アイナカスタム極”の高火力で調理された焼き魚を気に入ったらしい師匠……ジジイは、さっそくアイナを手懐けている。
このジジイ、孫は女の子が欲しかったそうだからな……アイナにメロメロである。
「それにしても、ウチの偏屈な孫がお嬢ちゃんに迷惑かけてないかの? あんなののメイドでいいのか?」
「はいっ! アイナ、カールさんが大好きですっ!」
失礼なことを言うジジイに対し、満面の笑顔で好意を示してくれるアイナ。
おお、なんていい娘なんだ……思わず目頭が熱くなる。
「して、不肖の弟子にしてバカ孫よ……先ほど”ダメージ床伍式”を改良すると言っていたが、腹案はあるのか?」
アイナかわいがりモードから復帰したグスタフ爺が、真剣な表情になり問いかけてくる。
「相変わらず口の悪い……なんと、このカイナー地方でミスリル銀を安定供給するめどが立ちましてね」
「ミスリル銀は魔力伝導効率が高い……ダメージ床の構造材をミスリル銀との合金に変えることで、より使用者に負担のかからない、魔力消費の少ない新型を開発するつもりです」
「基礎理論は……」
私の金属加工技術と、伍式までの開発で培ってきたノウハウを投入すれば、革新的な新型を作れると確信している。
私は堂々と胸を張り、グスタフ爺に構想を説明する。
「ふん、悪くないがまだ詰めが甘いな……しかたない、退屈していたことだし、アイナお嬢ちゃんのためにも手伝ってやらん事もない」
まったく、本当はアイナを可愛がりたいだけのくせに……素直じゃないジジイである。
悔しいが、ダメージ床の基礎理論を実用レベルに昇華させたその技術力は本物だ……カイナー地方にまた一人、強力な援軍が加わったといえるだろう。
「……にはは。 ”魔の者”の血を引いたアイナと……そのまりょくとあいしょうのいいししょーか……ししょーのシショーも面白いニンゲンのようだな!」
「どう思う? アルラウネ?」
「はい……世界のバランスを崩そうとしている”魔軍王”……彼に対するカウンターフォースになりうるかと」
いつになく真剣な表情で語りあう聖獣と精霊……夏の夜は静かに更けて行った。
0
お気に入りに追加
91
あなたにおすすめの小説
目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し
gari
ファンタジー
突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。
知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。
正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。
過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。
一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。
父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!
地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……
ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!
どうする? どうなる? 召喚勇者。
※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。
召喚アラサー女~ 自由に生きています!
マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。
牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子
信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。
初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった
***
異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います
かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~
平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。
三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。
そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。
アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。
襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。
果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜
櫛田こころ
ファンタジー
料理人の人生を絶たれた。
和食料理人である女性の秋吉宏香(あきよしひろか)は、ひき逃げ事故に遭ったのだ。
命には関わらなかったが、生き甲斐となっていた料理人にとって大事な利き腕の神経が切れてしまい、不随までの重傷を負う。
さすがに勤め先を続けるわけにもいかず、辞めて公園で途方に暮れていると……女神に請われ、異世界転移をすることに。
腕の障害をリセットされたため、新たな料理人としての人生をスタートさせようとした時に、尾が二又に別れた猫が……ジビエに似た魔物を狩っていたところに遭遇。
料理人としての再スタートの機会を得た女性と、猟りの腕前はプロ級の猫又ぽい魔物との飯テロスローライフが始まる!!
おっかなびっくり料理の小料理屋さんの料理を召し上がれ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる