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第2章 ダメージ床整備領主、村の防御を固める
第2-1話 ダメージ床整備領主、カイナー村でまったり生活
しおりを挟む「よし……こんなもんかな!」
カイナー地方唯一の村、カイナー村に領主として赴任してから1か月がたった。
村の高台にある先代領主の屋敷を改築……だだっ広い広間は数々の魔法装置を置いて研究施設に。
別棟には帝都から追加で取り寄せた冷蔵庫、調理器、洗濯機などの魔導家具を配置、村人たちが自由に使えるようにし、様々な行事が行えるサロンとして改造した。
……村人たちからの評判も上々だ。
「いやぁ~兄さん……この土地、地脈が豊富でいいですね~……ぐふっ……研究が捗ります……!」
帝都から移送したすべての研究設備を設置し終えたフリードが、可憐な金髪を振り乱しながらぐふふと笑っている。
……コイツは普段は常識人だが、ことダメージ床の研究となると、途端にマッドになるのだ。
私を見習って、世の中の役に立つ”ほどほど”の成果を目指してほしいものだが……まあたまにとんでもない基礎研究を完成させるので、頼りにはしている。
そして……。
「はいっ! カールさんっ! お部屋のお掃除が終わりましたっ!」
「次は庭木のお手入れをしてきますねっ!」
しゅたっ! と元気よく挨拶をしてくるのは犬耳娘のアイナだ。
彼女は村の農業や狩りの手伝いをしていたそうだが、16歳となり成人したし、そろそろ定職に就いて欲しい……というフェリスおばさんの希望で、私の屋敷でメイドとして働くことになった。
アイナの仕事着は、黒をベースカラーにした、前掛けエプロンのオーソドックスなメイド服。
元気いっぱいな彼女の希望で、上着は半袖、スカートの丈は膝上、足元はスニーカー、と貴族屋敷のメイド……という風情は全くないが、コーギーもかくやという感じで屋敷じゅうを走り回り、仕事に励む彼女に似合っているから不思議だ。
「ははっ……頼むよアイナ、終わったらみんなでお茶しよう……私特製のチーズケーキもあるぞ?」
「!! カールさんのチーズケーキ……テンション上がりますっ……ってはわわっ!?」
実は私はスイーツ男子なので、お菓子作りが趣味なのだ……一度アイナにふるまったところ、彼女はすっかり魅了されてしまったらしく、仕事の後のスイーツティータイムが私たちの定番となっていた。
……そして、ケーキに興奮してほうきを折るアイナ。
これもこの1か月ですっかり見慣れた光景となったが、犬耳元気娘のアイナは、獣人族譲りの大食いとパワーを合わせ持つパワフルお嬢さんだ。
初対面の時のオーク12体も、彼女が捨て身で掛かれば半分は倒せたらしいが……身辺警護もできるメイドさんとして、私は彼女を気に入っていた。
なにより……。
「わふ~、すいませんカールさん……アイナ、またほうきを壊しちゃいました……」
ふさふさの栗毛で覆われた耳をしゅんと垂らすアイナ……むぅ、いたずらを咎められたコーギーみたいで超かわいい。
なでなで……
思わず萌えてしまった私は、彼女のもふもふ頭を優しくなでるのだった。
「ふふ……アイナ、キミは良くよく働いてくれている……ほうきなど作り直せばよい」
「ほら、気にせず庭木の手入れをしておいで……ケーキが待ってるぞ?」
「はうっ!! カールさん優しいですっ! アイナ、お仕事頑張ってきます!!」
ねぎらいの言葉を掛けると、嬉しそうにピンを両耳を立てた彼女は、しっぽをぶんぶんと振りながらぴゅーっと中庭にダッシュしていった。
ふぅ……なんというか癒されるな……最高だ。
彼女を撫でた手のひらには、柔らかな感触とおひさまの匂いが残っている。
「兄さん……はたから見たら微妙に健全じゃないですよ?」
なぜか苦笑しながらフリードが諭してくるが、元気癒され犬耳メイド……この属性てんこ盛りの彼女を私は当面手放すつもりはないのだった。
*** ***
「カールさんのチーズケーキ~、濃厚なチーズの後にガツンと来る甘味……わふ~最高です~」
ニコニコと美味しそうにチーズケーキを頬張るアイナに癒されながら、私は村長からの月間報告書をめくる。
領地の状況把握も領主の仕事である。
「……ん? やけに”モンスター討伐”の文字が多いが、そんなにここはモンスターが出るのか?」
”4の月10日、村郊外でコブリン11体、キャベツ農家のセリオさんがモーニングスターで殲滅”
”4の月13日、カイナー湖畔にてワイバーン2体、リンゴ農家のカルラさんがハンマーで撲殺”
などの報告が、数日ごとに上がっているのだ……しかも冒険者などに退治を依頼するのではなく、村人が自ら駆除している。
この1か月で薄々感じていたが、カイナー村の住人は強い……辺境過ぎて軍や冒険者ギルドの助力を得られないからか、「モンスターが出たぞ、うおおおおおお(ドカバキッ)」という感じで、豪快で脳筋な村人たちが一瞬で殲滅してしまう。
ぱくぱくとチーズケーキを頬張るかわいいアイナでさえ、片手でホブゴブリンをワンパンできるレベルらしい……怖い。
だが、これだけ能力の高い人間が揃っているのに、定期的にモンスター退治で人手が取られるのはもったいない……。
「兄さん……ここは僕たちの出番ですね?」
同じ考えに至ったのか、にやりと笑うフリード。
そう、こういう時はダメージ床の出番だ!
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