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第1章 ダメージ床整備卿、宮廷を追放され念願の辺境ライフへ

第1-1話 ダメージ床整備卿、経費削減の為解任される

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 第1078回帝国評議会……さっそく私を宮廷から追放しようと企む輩が弁舌を振るっている……やれやれだ。

「財務担当と致しましては、帝国の財政が厳しい昨今、維持に大金を投じるのは無駄と言わざるをえませんねぇ……」

 ニヤリ……と厭味ったらしい笑みを浮かべながら宮廷財務卿クリストフが私の方をちらりと見る。

 ここは帝国評議会議場……緊急の課題として帝国の財政改善が上がる中、冒頭から私の担当部署がやり玉に挙げられていた。

「100年前の”大戦”では帝国を救ったかもしれませんが……失礼ながら最近は特に……更にトップが30歳の若輩では……」

 ”無能集団”の言葉をことさら強調し、こちらを見下してくるクリストフ……コイツには以前から何かにつけて目の敵にされていたが……。

 一定の政治力を持っていた祖父が老齢により引退した今、いよいよ私の部署を潰す気になったらしい。


「そもそも……魔軍の本格侵攻がここ10年以上無い中で、年間数十億センドをダメージ床の維持管理に費やすなど……」

 クリストフの弁舌がとうとうと続く……奴は、皇帝陛下のお気に入りだ。
 この後に続く皇帝陛下の言葉を予期し、私はこっそりため息をついた。


「うむ……背に腹は代えられまい……残念だがダメージ床整備卿カール・バウマン、貴殿を解任し、ダメージ床の管理には外部業者をあてるものとする!」

 カツンッ!

 皇帝陛下のご裁可を示す槌の音が、議場に響いた……。


 ***  ***

「いるんだよなぁ……経費を削減するだけで自分が組織の全部を把握した気になり、有能になったと勘違いする輩が……」

「確かにダメージ床は”防衛”の技術……目立ちにくいし、削っても問題なさそうに見えるんだろう……物事を書類の数字でしか見ない奴らしい判断だな……!」

 今週中に宮廷からの退去を命じられた私は、愚痴をこぼしながら私室の整理に励んでいた。

「はは……兄さんの愚痴も絶好調ですね」
「新たな赴任先はもう分かったんですか?」

 そう言って私を手伝ってくれるのは、金髪碧眼、人当たりの良い笑みを浮かべた一見美少女に見える少年……私の従兄弟フリードだ。

 彼は我がバウマン家の分家出身であり、まだ17歳だが、優秀なダメージ床技術者でもあり、一族の中でも将来を嘱望されている。

「いや、本日この後辞令をもらう予定なんだが……どうせなら地方に飛ばしてくれないだろうか」
「もう宮廷政治に関わるのはうんざりなんだ」

 本来、私は自然と釣りを愛するアウトドア派なのだ……本音を隠した建前の応酬、裏工作と渦巻く醜聞……魑魅魍魎の伏魔殿である、宮廷での生活に飽き飽きしていた。

 10年以上帝国に貢献してきたんだ……年金付きの閑職とかがいいな……そしたら私、湖の脇に小屋を立て、毎日マス釣りに精を出すんだ……。

 私、カール・バウマンは30歳にして既に定年後の爺さんのような生活を夢想するのであった。


 ***  ***

「……はっ、このカール・バウマン、謹んで拝命いたします……」

 帝国人事院から辞令書を貰った私は、緩みそうになる表情を必死に抑えていた。

 がちゃり……。

「……いよっしゃああああ!! 辺境領主への辞令だああああ!!」

 私室に戻った私は、喜びを爆発させる。

「ど、どうしたんですか兄さん……びっくりするじゃないですか」

 入室するなりガッツポーズを繰り返す私に、フリードが目を丸くしている。

「これが喜ばずにいられるか……見ろよフリード!」

「……”カイナー地方領主を命ず、30日以内に赴任せよ。 支度金は帝国財務局より受領の事”」
「カイナー地方……帝国の南東の端の端のそのまた奥にある超辺境地帯ですね」

「それがまたいいんじゃないか! カイナー地方は海も山も湖もある……中央からの横やりも無く、スローなアウトドアライフを満喫できる」

「これこそ最高の人生と言えよう!!」

「フツーに見れば、左遷ですけどね」

 フリードは苦笑いしている……中央で出世をもくろむ輩ならそう思うだろうが、宮廷生活に疲れ切った私には最高の処遇なのだ……。


 バウマン家の誇るダメージ床技術……せっかく私の代で色々な新技術を開発したのに、”時代遅れ”などと言われ、帝都では活用が進んでいない。

 魔法技術が十分に普及していない地方なら、色々新しい事を試すこともできるだろう……私は、久々に技術者としての血が騒ぐのを感じていた。


「……兄さん、僕も付いて行っていいですか?」

 これからのわくわく人生設計を語る私に、フリードは思案顔になるとそう切り出した。

「え? いいのかフリード? お前のキャリアはまだこれからだろう?」

「そーなんですけど、今後帝都でダメージ床技術者は日陰者になりそうな気がしたので……」

 えへへと笑うフリード。

 ……確かに……”ダメージ床”は削減され、残りも外部委託業者が適当に維持するだけになるそうだし……フリードが付いて来てくれれば、私もやりやすい。

 こうして私とフリードは支度金を受け取ると、家の馬車にダメージ床の各種研究機材と新製品、ついでに現地での快適生活をサポートする沢山のマジックアイテムを買いこんで放り込み、意気揚々とカイナー地方に向けて出発した。


 さらば麗しの帝都よ……、しがない辺境領主の私には関係ないことですね!


 ***  ***

「ん……兄さんあそこ! 人が襲われています!」

 馬車5台を仕立て、帝都を出発して10日……もうすぐカイナー地方唯一の村、カイナー村に到着しようかという時……街道を少し外れているところで、ひとりの少女がモンスターに囲まれているのが見えた。

 モンスターはオークタイプが12体か……街道にはモンスター除けの街灯があるとはいえ、この辺りは辺境なので数も少ない……。

 少女は奮戦し、そのうちの1体を倒したようだが……多勢に無勢だ。 あのままではやられてしまうだろう。

 通りかかったのも何かの縁……助けてやらねば……。

 魔法を放とうとする護衛の魔法使いを手で制す私……モンスターと少女は近接しており、11体のオークを同時に倒せる範囲魔法だと、彼女を巻き込んでしまう可能性が高い。

 ここは私の出番だ……。


 私は荷物から10本ほどの”杭”を取り出すと、魔力を込める。

 ブイイインンンッ……

 込められた魔力に呼応し、青白く振動する”杭”……。

 私は少女を包囲するオークの背後を取り囲むように”ダメージ床”の展開場所をイメージすると、”杭”を無造作にぶん投げる!

 シュッ……カカカカッ!!


「発動……”ダメージ床壱式”!!」


 バチバチバチッ!!


 私のイメージ通りに”杭”は空中を飛び、オークの背後の地面に突き刺さる。

 ダメージ床の術式を発動させた瞬間、オークの立っている地面にが出現し、それに触れたオークを消し炭にした。


「ふぅ……キミ、大丈夫か?」

 オーク全てを倒したことを確認すると、私は術を解除、少女に駆け寄り、”杭”を引き抜きながら声を掛ける。

「わふっ……アイナ、助かったの?」

 くりくりとした大きな瞳に大粒の涙を浮かべる栗毛の少女。

 これが私と、アイナの初めての出会いだった。
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