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第8章 伊402、最終決戦へ

第8-3話 伊402のピンチを救え

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「フィル、全速力でお願い!
 ありったけの魔力を込めたから!」

 駆逐艦フレッチャーの艦橋に仁王立ちした僕は、全身から魔力を放出する。

「Aye, aye, sir!
 フェドCaptain!!」

 僕の魔力に呼応し、フレッチャーのエンジンが吠える。


 ドドドドドドッ!


 時速70km近く出ているだろう。
 フレッチャーの艦首は外海の荒波を吹き飛ばし、砕けた波頭が甲板を濡らす。

「まさかフィルの機関室にこんな秘密が隠されていたとはね……」

「くぅ……くぅ……」

 艦長席に座ったセーラ。
 彼女の腕に抱かれて眠っているのはひとりの女の子。

 年齢は5~6歳くらいだろうか?
 すらりとした体躯に尖った耳……さらさらとした銀髪を持つハイエルフの幼女。
 この子がフレッチャーのエンジンルームに設置されていたカプセルの中から出てきたのだ。

「多分だけど、この子を”魔力タンク”代わりに使っていたんだと思う」

 西部諸国では絶えたと言われていたハイエルフの系譜。
 純粋な興味本位でレヴィン皇国の古文書を調べていた僕は、100年ほど前にオーベル帝国領の山奥に移住した一族の情報を発見した。
 もし帝国が、ギフトの魔力供給元としてハイエルフを使うことを思いついたのなら?

 イレーネ殿下から聞かされていた最悪の可能性。
 その証拠を手に入れた僕は、近衛師団長さんに通信魔法で連絡。
 レヴィン女王の勅命でオーベル帝国のドックと駆逐艦フレッチャーは差し押さえられたのだけれど。

 突如皇国の沖合に出現したアビスホールの気配。
 アルバン皇太子たちが何かをしでかしたに違いない。

 僕とセーラ、フィルは事態の収拾とハイエルフの子供たちを救出するよう女王陛下から依頼を請け、戦場に急行しているのだ。

「こんな小さい子を”人間タンク”に使うとか……許せないわね!」

「Yes、セーラ! US Navyの誇りにかけてぶっ飛ばしマス!!
 Justiceは我にあり、デスよ!」

 彼女達の怒りがここまで伝わってくるようだ。
 もちろん僕も同感である。

 人型種族を使った魔法装置の研究開発は国際条約違反だし、彼らはハイエルフの子供たちを拉致しているのだ。
 国としても人としても許せる所業ではなかった。

 駆逐艦フレッチャーの艦尾には青地に白銀の星が輝く旗が翻る。
 フィルはカイザーファーマと結んでいた契約を破棄し、一時的にレヴィン皇国海軍所属となったのだ。

「SGれーだーの反応によると、あびすほーるの中で見た暗黒球が出現したみたいね」
「距離3万……急ぐわよ!」

 レーダースクリーンをのぞき込んでいたセーラが”敵”までの距離を報告する。

「OK! フルブースト!」

 エンジンの音が高まり、駆逐艦フレッチャーはさらに加速する。


 ***  ***

「イオニ君、シーサーペントが2体……右後方を抜けるぞ!」

「了解です! ダウントリム7度、深度40へ!
 殿下、目標までの距離は分かりますか?」

「くっ、距離は600……いや、1000か?
 すまん! 私の魔法ではフェド君ほどの精度が出ない」

「いえっ! 充分ですっ!
 一番、五番発射管に注水……て~っ!」

 シュシュッ!

 イオニと号令と共に、伊402の艦首魚雷発射管より2本の酸素魚雷が撃ち出される。

「到着予想時間まで30秒…………3、2、1、いまっ!」


 ドウウウウウウンッ!


 水中爆発の衝撃が、伊402を揺らす。

「よしっ! やったかな!?」

「いやっ、シーサーペントBは撃ち漏らした!
 こっちに突撃してくるぞ!」

「うひゃっ!? と、取り舵っ!」

 慌てて艦首を左に振るイオニだが、水中でのシーサーペントの動きはとても素早い。


 ズゴオオオオオオンッ!


「きゃあっ!?」

 シーサーペントの体当たりを受け、大きく揺れる伊402。


 ガキインッ!


「くっ……後部兵員室に軽微な浸水、隔壁閉鎖します!
 殿下! ダメージコントロールの為一度浮上します」

「ああ!」

「ネガチブブロー! 急速浮上!」

 シーサーペントの嚙みつきで致命傷を受ける心配はないが、浸水箇所は機関室に近い。
 万一の事を考えて対処をしておくべきだ。

 そう判断したイオニは艦を海上に浮上させる。

『ぬぬぅ! イオニよ、敵機が多すぎるぞ……手伝ってくれぬか?』

 イオニが破損個所を確認しようと司令塔から外に身を躍らせた瞬間、焦りを含んだミカの声がヘッドセットから聞こえた。


 ズドオンッ!
 ズドオンッ!


「ドラゴンの数が……増えてるっ!」

 二基の主砲と14門の副砲を振りかざし、ドラゴンの群れを撃つ戦艦三笠。


 ドンッ!
 パラパラッ……


 主砲が直撃したレッドドラゴンがバラバラになるが、敵の数は100体を超える。
 さらに悪いことに、三笠に装備された砲は専門の対空装備ではないため、発射間隔が遅い。

「ダメだ……やっぱフィルちんの高角砲じゃないと!」

 次弾装填までの数十秒間。

 10体を超えるドラゴンがあっさりと防衛ラインを超えてゆく。
 あの先には、心優しい人々が住むレヴィンの街が……。

 ダダダダッ!

 届かないと分かっていても、機銃を撃つイオニ。


『!! イオニ、上じゃっ!!』

「……えっ!?」


 街に向かうドラゴンに気を取られるあまり、上空警戒がおろそかになっていた。
 慌てて頭上を見上げると、そこには黄金の鱗を持つ巨大なドラゴンが。

「くっ、くそおおっ!」

 この角度では副砲で狙えない。
 大きく開かれた顎からは今まさにブレスが放たれようとしていた。


 わたし、ここまでなの……イオニの脳裏にフェドの笑顔が浮かんだ瞬間。

 ドンッ! ズドオンッ!


 エルダードラゴンの頭部を数発の砲弾が吹き飛ばす。


「遅くなってごめん、イオニっ!」

「フェドくんっ!!」


 イオニの耳に届いたのは、いま一番聞きたかった
 大事な大事なかんちょーさんの声だった。
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