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第7章 変わりゆく世界
第7-4話 モノ言わぬ姉妹
しおりを挟む「はっ……はっ……はっ」
大ボスであるエルダードラゴンは仕損じたものの、ドラゴンの大群を殲滅し、意気揚々と港に帰還したアルバンに事情を聞こうとオーベル帝国に割り当てられたドックに走るフィル。
「ハイネス! 聞きたいことがたくさんありマス!」
ちょうど艦から降りたばかりのアルバン一行を見つけ、問い詰めようと駆け寄るフィルだが。
「ふん、君か……私は女王と話す事があるのでね」
「キユー、相手をしておけ」
興味なさげにフィルを一瞥するアルバン。
そのまま従者数名を連れて皇宮の方角へ去ってしまった。
「ハイネス!!」
がばっ
「もう! どいてクダサイ!」
慌ててアルバンを追おうとしたフィルだが、警備兵たちに押さえ込まれてしまう。
「まあまあ、フィル君。
興奮するのは分かりますがね」
きらりと眼鏡を光らせながら警備兵を下がらせるキユー。
その口元には薄ら笑いが浮かんでいる。
まるでモルモットを見るような目だ……今まで見たことのない表情に、ぞくりとフィルの全身に悪寒が走る。
「君のお陰で貴重なデータが取れたことには感謝しています」
「ただ、これからは我らカイザーファーマが揃えた”新型ギフト艦隊”がモンスター共の相手をする……ああ、心配することは無いですよ」
「フィル君には今後配備される予定の、新装備の動作テストをしてもらいますから」
「くくっ、光栄でしょう?」
「な、なにを……」
じゃりっ……。
口調は丁寧だが、淡々と話すキユーから感じる底知れぬ狂気に思わず後ずさるフィル。
「というわけですので、”大攻勢”が終わるまでジェント王国の連中との接触を禁じます」
「外出も制限させてもらうのでそのつもりで」
「なっ!? いきなりそんな、ひどいデスよ!」
一方的に告げられた理不尽な命令に、両手を広げて不満を表わすフィル。
皇太子の元で動いているとはいえ、カイザーファーマは民間企業だ。
あくまで自分はギフトの妖精として彼らに協力する立場。
交わした契約書にもそう書いてある。
そう抗弁しようとしたのだが。
「……あまり面倒を起こすなよ、道具のくせに」
バチイッ!
「くあっ!?」
スーツの胸に付けられた、白いクリスタルが紫色に光ったと思った瞬間、フィルの全身を微弱なスパークが襲う。
「これ……Powerが?」
全身から力が抜け、ぺたんと座り込んでしまうフィル。
「……君の命は我々が握っていることを忘れないように」
それだけ言うと、キユーは踵を返しどこかに行ってしまった。
「そんな……イオニ、セーラ、フェド」
立つことも出来ないフィルは、絶望の面持ちでドックの天井を見上げるしかなかった。
*** ***
「オーベル帝国主導で、アビスホール制圧作戦が実施されることが決まった」
「出撃は1週間後……君たちには苦労を掛けるね」
数日後、レヴィン女王とアルバン皇太子との三者会談を終え、僕たちに割り当てられた宿舎に戻って来たイレーネ殿下は疲れた様子でそう告げた。
「殿下……こちらをどうぞ」
すっかりやつれてしまった殿下を気遣うように、暖かい緑茶とヨーカンを差し出すセーラ。
時刻は既に深夜、早朝から半日以上に及ぶ三者会談は殿下の気力と体力を根こそぎ奪ってしまったようだ。
「ああ、済まないねセーラ君」
ぽふん!
「はふぅ……癒されるな。
んん~っ、まったく……皇族としての衣を纏うと疲れるよ」
レヴィン女王から贈られたふかふかのソファーに座り込んだ殿下は、ヨーカンを口に放り込み緑茶をひとくち。
ソファーの上で手足を思いっきり伸ばしてリラックスされている。
ちょっとカワイイ。
「殿下! 按摩させていただきます」
もみもみ
「あふっ! 流石イオニ君の施術だな……疲れが溶け消えていくようだよ」
ぺちゃんとソファーに寝転んだイレーネ殿下を、マッサージで解きほぐすイオニ。
しばしほのぼのとした空気が部屋の中に流れる。
「殿下、それで”アビスホール制圧作戦”というのは……」
疲れている殿下には申し訳ないが、作戦の詳細を聞かないとね……遠慮がちに口を開く僕。
「ああすまない……大して難しい事ではないのだがね」
「読んで字のごとしさ……20隻を超える”新型ギフト”を手に入れたオーベル帝国艦隊を先頭に、力技でアビスホールを制圧する」
「我々とミカ殿には後方支援を依頼したいとのことだ」
「ち、力技ですか……」
「もちろんレヴィン女王も私も反対したのだがね……あれだけの数の”駆逐艦”に威圧されてしまっては……」
「くそっ、何が”三国が手を携えて”だ……あれではただの砲艦外交だろう!」
ぽふぽふっ!
圧倒的な力を持つフレッチャー級、それを22隻も揃えたオーベル帝国は、武力を背景に迫ったのだろう。
会議とは名ばかりの脅迫……その様子を思い出したのか苛立ちまぎれにクッションをパンチするイレーネ殿下。
「ただ……私も独自に情報を集めていてね、いくつか分かったことがある」
「何故アルバン皇太子がレヴィン皇国への遠征をごり押ししたのか……遠征途上での不審な動き」
「レヴィン皇国到着後の不自然な空白期間……」
「私とレヴィン女王が特に注目したのが、これだ」
ぱさっ
そう言ってイレーネ殿下はソファーの脇に置いた手提げカバンから一冊のゴシップ紙を取り出す。
先日セーラが読んでいたものだ。
「最近皇都周辺の村で起きているという”神隠し”ですか?」
「むむっ!?」
思わぬ話の展開に、キュースというニホンのアイテムでお茶のおかわりを淹れていたセーラが興味深げに顔を出す。
神隠しとはいっても、街の外に出れば普通にモンスターが出現するのである。
誤って街の外に出てしまい、モンスターに連れ去られる事件はそう珍しい事ではない。
こんな所に帝国の陰謀の謎を解き明かすヒントがあるんだろうか?
思わず表情に出ていたのか、イレーネ殿下は苦笑を浮かべながら大きく頷く。
「ふふっ、フェド君がそう思うのも無理はない」
「痛ましい事ではあるが、ありふれた事件だからな」
「だが……被害者がすべてSランク以上の魔法才能持ちだったとしたらどうだ?」
「!?」
驚きの余り、串に刺したヨーカンを落としてしまう僕。
一般的にハイエルフは人間族に比べて高い魔法才能値を持つ者が多い。
それがSランクとなれば……街の周囲に出現するレベルのモンスターに攫われるとは考えにくい。
「被害者はみな年端も行かぬ少年少女らしいがね……だがそれを差し引いても不自然な事件だ」
なるほど……右手を顎に当て考えこむ僕。
”神隠し”事件の発生は最近2か月に集中している……そして僕たちがレヴィン皇国に到着してから2か月。
突如出現した大量の新型ギフト……ここから推測される答えは。
「まあ、私たちも推定有罪で動くわけにもいかない」
「そこで、フェド君セーラ君……君たちに頼みたいことがあるんだ」
すっ……そこまで話すと、イレーネ殿下は厳重に封印された二通の封筒をテーブルの上に置く。
「一週間後、出撃の朝にどちらを開封するかを指示するから、中に入っている書状に従って動いて欲しい」
「はっ! 封密命令ですね!
承知しました!」
「はい、お任せください」
びしりと敬礼するセーラの後に従う僕。
世界の命運?を掛けたアビスホール制圧作戦。
その実施は一週間後に迫っていた。
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