追放された運送屋、僕の【機械使役】は百年先の技術レベルでした ~馬車?汽船? こちら「潜水艦」です ドラゴンとか敵じゃない装甲カチカチだし~

なっくる

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第6章 帝国の野望と変わる世界

第6-3話 活性化するアビスホールと帝国の思惑

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「アルバン殿下、それはいささか性急に過ぎるのでは?」

「”駆逐艦”でしたか、武勲は聞き及んでおりますが……ここ半年余りのアビスホールの急変はまるで31年前の……」

「レヴィン女王、ご心配には及びません」
「我ら、既にイレーネ姫と共同でアビスホール中枢の調査に成功しております」
「暗黒球……帝国の保有するギフトの力と、皇国の誇る魔法技術を合わせれば、必ずやアビスホールを討ち払えましょう」

「我々がボトムランドを蝕む闇を吹き払う救世主となるのです!!」

 首都の中心部にある女王の皇宮……白銀の間と呼ばれる広間で、レヴィン皇国女王、オーベル帝国皇太子、ジェント王国皇族イレーネの首脳会談が行われていた。

 ホワイトオリハルコンという伝説の魔法金属がふんだんに使われた広間の壁は、淡い七色の光を放ち息を飲むほどに美しい。

 羽ばたく不死鳥をモチーフにした恐ろしく精緻な彫刻など、時間が許せばじっくりと見物したい所だったが、紛糾する会議はそんな余裕をイレーネに与えてくれるはずもなく。

 自信満々にアビスホールの制圧を主張する帝国側に対し、慎重論を展開する皇国と王国側……会議は数時間にわたり平行線をたどっていた。

「ふむ……女王は我らの駆逐艦一隻だけでは不安とおっしゃるのですな?」
「確かにごもっともですが、こそこそと水中に潜ることのできるイレーネお嬢ちゃんの潜水艦も多少の役には立ちますぞ?」

「(イラッ!)」

 ナチュラルにディスられたイレーネの額に青筋が浮かぶ。

「そうですな、2か月ほど時間を頂けますか? さすれば女王に安心頂けるほどの”材料”をお見せいたしましょう」

「なにをなさるおつもりです?」

「ふふっ……それは見てのお楽しみとさせて頂ければ」
「さて、堅苦しい会議はこれまでといたしましょう! 皆の者! 宴の準備をせよ!」

 困惑する女王を尻目に、一方的に会議を打ち切ったアルバンは、従者たちを呼び寄せる。
 彼らが運んできたのは、帝国産の最高級ワイン。
 つまみとなる干し肉の山を持っている者もいる。

「ここからは帝国が誇る味覚を堪能していただきましょう!」
「おっといけません。 イレーネ姫はミルクでよろしいですな?」

「(イラッ! イラッ!)」

 芋と干し肉しかツマミがないくせに偉そうに!
 やけに貧相な”帝国グルメ”に閉口しながら、早くもイオニ達の”ワショク”の味が恋しくなるイレーネなのだった。


 ***  ***

「イレーネ姫……少しよろしいですか?」

 なし崩し的に始まった晩餐会。
 晩餐会というにはいささか料理は貧相であり、今もワインを瓶ごとラッパ飲みしているアルバンら帝国組には品性のかけらもないが。

 白銀の間の片隅でせめてもう少しまともな料理をとジェント王国お付きの料理人と相談していたイレーネのもとに、レヴィン女王が歩み寄ってきた。

「女王? 如何なされましたか?」

 さらりと広がる白銀の髪、女神像と見まごうほどの女王の美貌に一瞬目を奪われるイレーネ。
 だが、その端正な顔には憂慮の影が浮かんでおり……。

「西部諸国の方々からの此度の提案……アビスホールの脅威にさらされる我が国にとって大いなる希望」
「噂に聞こえたとおり、素晴らしいギフトと共にご訪問頂けたことは、女王として大変感謝しているのですが……」

 そこで女王はちらりとアルバン達の方に視線を投げる。

 あんな黒い球など、わが帝国に掛かれば鎧袖一触よ!

 などと、大言壮語が無粋な酒精の香りと共にこちらまで漂ってくる。

「近年のアビスホールの拡大は、彼らが思っている以上に深刻なのです」
「イレーネ姫、アビスホールの中心部で”暗黒球”を見たあなたになら、分かっていただけると思いますが」

 静かにうなずくイレーネ。
 今まで感じたことのない魔力のひずみと恐怖……アルバン皇太子があれほどの魔法を使えるのなら、この恐怖は肌身に感じたはずなのだが。

「それに、彼らの駆逐艦でしたか……あの姿を見ていると、頼もしさと共にどこか得体のしれないざわつきをこの胸に感じるのです」

 僅かに震えを伴いそう語る女王の姿に、意外な印象を受けるイレーネ。
 アルバン皇太子たちはともかく、駆逐艦フレッチャーの精霊であるフィルは善良で快活で、とても気持ちのいい子である。
 彼女のギフトからは特におかしな力を感じることは無かったが……。

「イレーネ姫、貴方と共に来たトランスポーターのフェド殿でしたか」
「研究所からの報告によると、たぐいまれな才能を持たれた方だとか……帝国の方々の事も含めて、貴方がたを頼りにさせて頂けますか?」

「!! もちろんでございます、レヴィン女王」
「この不肖イレーネ、微力を尽くさせていただきます」

 ハイエルフの血を引く者として、是非もない。

「ありがとう。 貴方の高祖父母と血を分けた先々代は正しかった……くれぐれも頼みます」

「はっ!」

 女王直々の言葉に、身が引き締まる思いのイレーネ。
 とりあえず、フェドの様子を見に行ってみるか。

 いつまでも下品な宴会を終わらせる様子の無いアルバン達を一瞥すると、丁重に女王に挨拶し、白銀の間を辞するイレーネなのだった。
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