追放された運送屋、僕の【機械使役】は百年先の技術レベルでした ~馬車?汽船? こちら「潜水艦」です ドラゴンとか敵じゃない装甲カチカチだし~

なっくる

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第5章 伊402、はるか遠い大地へ

第5-5話 謎多き帝国の技術

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 照準器の十字が”どらごん”の移動先に重なるように機体を操る。
 全身に青い鱗をまとい、長大な髭を空中にくねらせるその姿は昔話に出てくる青龍のようだ。

 夢か現か、御伽噺のような”敵機”ではあるが、20mm機銃が効く事は分かっている。

「落ちなさいっ!」

 裂帛の気合と共に機銃の発射ボタンを押し込む。

 ダダダダッ!

 一直線に伸びた一対の火線は、狙い通りヤツの胴体を捉え……。

 クアアアアアアアッ!?

 20mm機銃弾の直撃を食らい、ひとしきり空中をのたうったブルードラゴンは力尽きたのか密雲の中に墜落していく。

「よし! フェド! ぶるーどらごん1機撃墜よ!」

「それにしても……これでどらごん撃墜数50機かぁ」
「ふふっ、まさか晴嵐で海軍指折りのエースになれるとは思わなかったわね」

 ブルードラゴンを確実に仕留めたことを確認し、太ももにベルトで固定している手帳に撃墜スコアを書き込んだセーラはうれしそうに笑う。

 帝国海軍では個人スコアは公式認定されないのだが、士気向上のため現地部隊ではよくスコアを競ったと聞いている。

「撃墜マークは何がいいかしら……って!?」

 モンスターの襲撃もひと段落し、ほっと一息ついたセーラが絵の得意なイオニに描かせるノーズアートのデザインを考えていると、視界の端に大きな影がよぎる。

「くっ……太陽の中から!?」

 晴嵐参号機の左上方、ちょうど死角となる位置から急降下したのは、赤い鱗を持つ巨大なドラゴン。

「ちっ、指揮官機ってわけね!」

 体長は通常の固体よりも大きく、40メートル近くあるかもしれない。
 悪いことにロケット弾は撃ち尽くし、機銃弾の残りも50発程度。
 ちょうど補給に降りようと思っていたところだ。

 傷を負わせて動きを鈍らせれば、対空砲火が仕留めてくれるだろう。
 そう判断したセーラは、操縦桿を右に倒し、レッドドラゴンの後を追おうとするのだが……。

『セーラは先に補給に下りて! ここは僕がっ!』

 ヘッドセットから聞こえてきたのは、フェドの声だった。


 ***  ***

「よしっ……”リモートコントロール”は順調……」

 セーラに補給の指示を出した僕は、魔法の制御に意識を集中する。

「フェドくんかんちょー! 指示通り直進するから、波には気をつけてね!」

 艦内から顔を出し、僕に向かって叫ぶイオニに了解の合図を返す。


 ズゴオオオッッ……ドッパーーンッ!


「うおっと!」

 荒れ狂う波と風が僕の全身を揺さぶる。
 ハーネスと拘束魔法で固定しているとはいえ、気を抜くと大きく揺れる甲板から放り出されそうだ。
 押し寄せる吐き気を気合で押さえ込みながら、僕は”とある魔法”を発動させながら空を見上げる。

 嵐の真っ只中である。
 魔の海の上空は厚い雲に覆われているのだが、魔法を介した僕の視界はその密雲の中に一羽の巨鳥をしっかりと捉えていた。

 胴体の下に小型爆弾を搭載したその姿は、晴嵐壱号機である。
 機体の右下方には超大型のレッドドラゴンのイメージが見える。

「うおおっ……晴嵐さんの爆音が聞こえてきたっ。 機体を無人制御するなんて!」

 そう、僕が試行錯誤しながら数ヶ月の時間をかけて作り上げた新魔法【リモートコントロール】により、晴嵐壱号機を遠隔操作しているのだ!

 セーラほどの正確な操縦は無理だけど……巨大な的に当てるくらいならっ!


 グオオオオオオンンッ!?


 背後から迫る壱号機に気づいたのか、レッドドラゴンが飛行コースを変える。

 これくらいなら大丈夫!

 セーラから叩き込まれた晴嵐の構造を思い出し、”右フラップ”を上げる操作を脳裏に浮かべる。
 その瞬間、くるりと左下に向かって晴嵐が機体を翻したイメージが伝わってくる。

 慎重に垂直尾翼を操作し、機体の軸線がレッドドラゴンに乗るように動かしていく。

「よし、いけるっ!
 落下軌道をイメージして……3、2、1、今だっ!!」

 ガコオンッ!

 爆弾の投下指令を晴嵐壱号機に伝える。
 巨鳥の腹の下から離れた爆弾は、イメージ通りに飛翔し……。


 ズドオオオオオオンッ!

 ギャオオオオオオンッ!?


 巨大な火柱が密雲を突き抜け、少し遅れて爆発音が聞こえる。
 断末魔の絶叫を上げたレッドドラゴンは、バラバラになって海面に落下する。

「ふぅ~っ、何とかなった~!」

「凄いよフェドくんかんちょー! 雲の中で爆弾を当てるなんてっ!」

 だきっ!

 大戦果に興奮したのか、イオニが艦内から飛び出してきて僕の背中に抱きつく。
 心地よい感触を堪能していると、僅かなめまいが僕を襲う。

 2時間以上もモンスターの襲撃を迎え撃ってきたのだ。
 流石に魔力も尽きかけている。

 セーラの参号機の補給も必要だし、食事を採ってしばらく休むべきか……幸い”れーだー”に新たな敵の姿はない。
 僕がそう思案していると。

『ヘーイ! フェド、niceキル!!』

 ヘッドセットから陽気なフィルの声が聞こえ、波頭の向こうにフレッチャーの艦体が見えた。
 夢中で戦っているうちに、離れ離れになってしまったようだ。

『Air Coverアリはやっぱりいいデスね!』
『セーラの補給をするんデショ? ちょっと待ってね……ハイネス!』

 セーラと僕の晴嵐が着水できるように波を押さえて欲しい、そうお願いしようとした時、フレッチャーの艦内からアルバン殿下が姿を現す。

『ふん、任せたまえ』

「え?」

 てっきり駆逐艦が大きく円を描いて航行し、波を打ち消すのかと思っていたが……右手を上げたアルバン殿下から、膨大な魔力が立ち上る。

「な!?」

 思わず驚きの声を上げてしまう。

 キラキラキラ……

 空中に金色に輝く直方体が出現する。
 長さは200メートルを超えるだろうか。
 巨大な光の箱は、そのまま海上に着水する。

 ドバアッ!

 光の箱は、荒れ狂う波頭を無理やり押さえつけてしまった。

『これは2時間ほど持つ。 早く着水して補給することだ』

「あ、ありがとうございます?」

 あまりの出来事に声が裏返ってしまう。
 これだけの効果範囲を持つなんて……僕の防御魔法でも伊402の前面をカバーするだけで精一杯なのだ。
 人間のレベルをはるかに超える超絶魔法と言えた。

『うわっ!? なにこれ! 光の滑走路が出来てるじゃない!!』

 驚いたセーラの声がヘッドセットから聞こえる。

「驚いている場合じゃないや、早く補給しないと!」

 僕はセーラの後に続いて壱号機を操作し、そこだけ凪のようになった海面に着水させるのだった。
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