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第5章 伊402、はるか遠い大地へ

第5-1話 伝説の国へ遠征しよう

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「レヴィン皇国への遠征、ですか」

「ああ。 ウチの伊402とカイザーファーマのフレッチャー……今までとは隔絶するレベルのギフトが出現したという事で、ここ30年間交流が途絶えていた彼の国と連絡しようという話が西部諸国間で持ち上がってね」
「私としては道中の状況がどうなっているかも分からないし、危険だと反対したんだが、父上……国王陛下のご裁可があった」
「残念ながら我が国としては西部諸国連合の意向には逆らえないらしい……政治の世界に巻き込んで申し訳ない」

 ジェント王国の国璽が押された依頼書を手渡すイレーネ社長は、本当に申し訳なさそうだ。
 カイザーファーマとの運送競争が1勝1敗の五分の勝負になる中、次の仕事へ向けて伊402と晴嵐シリーズの整備を行っていた中での出来事である。

「レヴィン皇国はボトムランドの始祖となった国で魔法の総本山……僕たちが使っている数々の魔法も、元はレヴィン皇国の魔導士たちが開発したものだとか」
「ジェント王国の港からの距離は1万キロメートル以上……30年前に【アビスホール】と呼ばれる特異点が大海のど真ん中に出現した事で、海路での連絡が出来なくなったことは知識としては知っていますが……」

 駆け出しのころ、研修で勉強したことを思い出す。
 30年前、”大異変”と呼ばれる魔の海領域の拡大が起き、大海を隔てた東部諸国との連絡が不可能になった。

 魔法技術の豊富な東部諸国との交易は、西部諸国の悲願というべきものだ。
 各国首脳人が前のめりになるのもわかる……が。

「往復2万キロ以上ですか……マテリアルを積んでいけば燃料の心配はないとはいえ、往復数か月の旅路。 しかも行程の7割は魔の海ですか……相当に危険ですね」

 僕はちらりと視線を横にやる。
 イレーネ社長の執務室に置かれた応接セットのテーブルの上に海図を広げ、険しい表情で唸っているのはイオニとセーラだ。

 冒険紀行はトランスポーターの誉れ。
 多少の危険があったとしても挑んでみたい気持ちはあるが、彼女たちはどうなのだろう?
 乗り気じゃないのに危険な遠征をやらせるのは気が引けるが……僕が気をもんでいると、ため息を一つ。
 イオニがその形の良い唇を開く。

「……セーラちゃん……」

「……んっ?」

「……うおおおおおおっ!! 遣独潜水艦作戦の伊8さんみたいでめっちゃカッコいいっ!!
伊400型の限界に挑む前人未到の旅路……やばいっ、燃えて来たあっ!!」

「……へっ?」

 海図を握りしめ、ずだあんっ! と効果音を立てながら立ち上がるイオニ。
 ど、どうやら物凄く意欲的なようで……。

「そうだセーラちゃん! ついでに運河、運河を爆撃しようよっ!」

「いや、すんな!
……でもまあ、全行程駆逐艦の護衛付きでしょ? 悪くないわね」

「えっと、あの……ふたりとも、行ってくれるの?」

「ん? 陛下と殿下のご依頼だもの。 断るという選択肢は最初からないわよ?」
「そもそも伊402の最大航続距離は37,500カイリ (約70,000㎞)……往復2万キロの遠征なんてお茶の子さいさいよ?」

「……マジで?」

 セーラの言葉にあんぐりと大口を開ける僕。
 伊402のスペックは大体把握したつもりだったけど、そんなに長い距離を走れるのか……世界最大級の外輪船の10倍以上である。

「あたしたちが心配してたのは、艦隊を組むフィル……燃費の悪い大食い娘に伊402から給油したとしても、向こうまでたどり着けるかってコトよ」

「へへっ、”まてりある”を積んでフェドくんが重油に”こんばーじょん”してくれるなら、だいじょーぶだよね!」

「……まったく。 燃料を途中で生成できるとか、やっぱり反則だわ」

 満面の笑顔を浮かべるフィルとやれやれと苦笑するセーラ。
 ……どうやら彼女たちは同行者となる駆逐艦フレッチャーの燃料を心配していたようだ。
 彼女たちの話では、駆逐艦は潜水艦に比べて随分航続距離が短いらしい。
 彼女たちの言う通り、マテリアルを積んでいき途中で重油にコンバージョンすれば全く問題ない。

「という事で……燃料問題も解決しましたので、このご依頼……謹んで請けさせていただきます」

「わたしもぜひっ!」

 イレーネ社長に向けて最敬礼の姿勢を取る二人。
 社長も、ふたりの様子に安心したようだ。

「ありがとう。 代わりと言っては何だが、特使として私も同乗させてくれ」
「君たちにだけ危険な思いはさせないさ」

「はうっ!? お召潜水艦! なんたる名誉!!」
「セーラちゃん、最近使ってなかった司令室を掃除しなきゃ! 食糧も最高級の物を買いに行こう!」

「合点承知!」

 イレーネ殿下が同行するという事で、更にテンションが上がる二人。
 こうして僕たちははるか遠い伝説の国、レヴィン皇国へ向かうことになった。
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