追放された運送屋、僕の【機械使役】は百年先の技術レベルでした ~馬車?汽船? こちら「潜水艦」です ドラゴンとか敵じゃない装甲カチカチだし~

なっくる

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第4章 晴嵐宅配便

第4-6話 大空戦、空の魔獣を落とせ

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「フィルちゃん!? 凄い対空砲火だけどあの子一隻だけじゃ……!」

 戦いの様子を見てイオニが声を上げる。
 対空戦闘についてはよく分からないので、専門家のふたりにも望遠魔法を掛けたのだ。

 駆逐艦からは絶え間なく大砲が打ち上げられ、次々とレッドドラゴンを撃墜している。
 だけど、彼女の周囲を舞うドラゴンの数は減るどころか増えていて……どうやら、連中は仲間を呼び寄せているようだ。
 東の空に密集する暗雲から次々と別の個体が湧き出てくる。

 高位のモンスターであるレッドドラゴンがこれだけの密度で出現するなんて異常事態だ。
 魔の海の中央部には積乱雲に覆われた”剥がれた大地”が浮かんでおり、そこはドラゴン種など空棲モンスターの巣になっているという噂だが……。

 もしかしてアレが巣なのかもしれない。
 なれば、一刻も早くこの場を離れた方がよさそうだけど……。

「フェドくんかんちょー! あのままじゃやられちゃう! 助けよう!」
「セーラちゃん!」

「わかったわ! まったく手がかかる子なんだから」

「”3号”も積んどいたから!」

「りょーかい!」

 ”海の戦士”である彼女たちには放っておくという選択肢はないようだ。
 もちろん僕も異存はない!

「セーラ! レッドドラゴンは右後方が死角になるからそこから攻めて!」
「イオニ! フィルと協力して奴らを引き付けよう! セーラがある程度落としてくれたら連中も撤退するはず!」

「ありったけの魔力を込めたから伊402はしばらく大丈夫……僕は晴嵐の方に乗るよ!」

「「了解っ!」」

 ふたりの返事がシンクロする。
 僕が晴嵐の後部座席に飛び乗った瞬間、エンジン全開の晴嵐は一気に加速し大空に飛び立つ。

 伊402も大きく舵を切り、牽制の射撃を放ちながらフィルがいる方へ向かう。

 伊402はいざとなったら水中に潜ることができる。
 ドラゴンを引き付けるには最適といえた。

「フェド! どらごんは右後方が死角って言ったわね? どれくらいまで離れて大丈夫なの?」

「記録によると右後方30度の範囲はほぼ見えないみたいだよ」

「おっけー、それなら好都合ね!」

 セーラはペロリと唇を舐めると、晴嵐を急上昇させる。
 胴体の下に爆弾?を4発もぶら下げているのでいつもより速度は遅いけど、レッドドラゴンに比べれば格段に速い。

「”3号爆弾”はタイミングが命……慎重に狙いを定めるわよ」

 レッドドラゴンの群れの上方1000メートルくらいまで上昇した晴嵐は、手近な断雲に姿を隠し旋回を続ける。


 ドンッ!


 その時、海上から鈍い爆発音が響く。
 驚いて下を見ると、フィルの艦体に装備された大砲の1基が赤い炎を上げている。

 恐らく、レッドドラゴンのブレスが命中したのだろう。

 いくらフィルの駆逐艦が分厚い装甲を持つと言っても、レッドドラゴンのブレスは強力だ。
 何発も喰らっては致命傷になりかねない。

『ひゃああっ!? 南無三っ!』

 ドバアッ!!

 ヘッドセットからイオニの声が聞こえる。
 どうやら彼女はギリギリのところで潜航と浮上を繰り返し、レッドドラゴンを引き付けているようだ。

 伊402の装甲はフレッチャー級より分厚いみたいだけど、危険なチキンレースであることに変わりはない。

「!! セーラ、新たなドラゴンの増援なし! 今飛んでる奴で全部だよ!」

 念のため展開していた探査魔法が反応する。
 どうやら、”巣”からの増援はこれで打ち止めのようだ。

 それでも宙を舞うレッドドラゴンの巨体は40を超える。
 冗談抜きで国家レベルの危機といえる絶望的な状況だが……。

「よしっ! 目標は密集しているわね……200メートルごとに3号爆弾4点投射!」
「フェド、照準をお願いできる?」

「まかせて、セーラ!」

 パアアッ!

 僕はターゲット魔法を発動させる。
 本来は土木工事の測量やマーキングなどに使われる補助魔法だけど、こうやって照準にも応用できるのだ。

 赤、青、緑、黄色……4色の魔法の光が空中に現れ、正確に200メートル間隔に並ぶ。
 光のマーカーの真下にはレッドドラゴンの群れ。

 海上のフィルとイオニに気を取られている奴らは気付いていないようだ。

「行くわよフェド! 耐衝撃姿勢!」

 ぐんっ!

 セーラの声と共に、晴嵐が一気に加速される。
 断雲から飛び出した機体は緩やかに下降し、魔法マーカーに正対する。

「3号爆弾投下用意……てっ!」

 ガコンッ ガコンッ ガコンッ ガコンッ

 規則正しく4発の爆弾がレッドドラゴンの群れに向かって投下される。
 セーラたちの爆弾の威力は知っているけど、たった4発でどうにかなる数じゃない。

 なにか秘策があるんだろうか……そう思っていた僕の目に、驚きの光景が映る。


 ドンッ!
 バラバラバラバラッ!


 群れの真上で炸裂した爆弾は、花火のように数百数千の光の矢に分かれ、レッドドラゴンを襲う。


 クアアアアアアアアッ!?
 ウオオオオオンンッ!?


 レッドドラゴンたちが狼狽したような咆哮を上げる。
 光の矢1つ1つにはそれほどの威力はないようだけど、数千を超える数の飽和攻撃である。

 光の矢は次々とレッドドラゴンの翼や胴体に突き刺さる。
 運悪く頭部に直撃を食らった個体は力尽きて海面に落下する。

 瞬く間に20体以上のレッドドラゴンが撃墜され、残りもほとんどが傷ついている。

 バサッ、バサバサッ!

 本能的にかなわないと悟ったのだろう。
 レッドドラゴンたちは巣と思わしき暗雲へ撤退していく。

「す、凄い……なにアレ?」

「ふふん! 帝国海軍が誇る新兵器……3号爆弾! 上手く使えば鈍重などらごんなんて一網打尽よっ」
「フェドの照準も完璧だったわ、ありがとっ!」

 思わず呆然と海面を見下ろす僕に、ドヤ顔で説明するセーラ。
 なるほど……彼女たちの武器の威力に改めて驚く。

 ひとまずこれで危機を脱したかな……僕は駆逐艦の艦上に立つフィルに向かって大きく手を振った。


 ***  ***

「Yes、IJNのパックショットデスね。 Fuu……助かったぁ」
「Thanks! イオニ、セーラ……フェドっ!」

 大きく息を吐き、ニカッと笑顔を浮かべたフィルが晴嵐に向かってサムズアップする。

 こうして僕たちは数十体のレッドドラゴンを殲滅するという大戦果を挙げたのだった。
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