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第4章 晴嵐宅配便
第4-5話 晴嵐参号機、進空!
しおりを挟む「ふふん! アメちゃんの対空砲がどんなに凄くても、飛行機なしで制空権は取れないのよっ!
むこうにグラマン無しっ! こちらには晴嵐ありっ!」
晴嵐参号機の翼の上に立ち、人差し指で太陽を指し示すセーラ。
「うおおおおおっ!? いいぞセーラちゃん!!」
「えっと……」
レイニー共和国と正式な契約を交わし、カイザーファーマと”運送競争”をすることになった僕たち。
その第1便を1週間後に控えたある日、僕はセーラに呼び出されて伊402用の格納庫まで来ていた。
目の前には改修が完了した晴嵐参号機が台座に乗せられ、緑の翼を休めており、
その両翼には大型の連装機銃が、ガンポッドよろしく取り付けられている。
「参号機は戦闘機型ね!
ふふふ……コイツは最新の九九式二〇粍二号機銃五型!
なぜか艦内の書庫室にあった設計図からフェドが再現してくれたわ!!」
「”コンバージョン”の使い過ぎでニキビができたけどね」
僕のとりえであり、ジェント王国に来てからも鍛えに鍛えた”魔力量”をもってしても、100回以上の試行錯誤が必要だったけど、なんとかセーラの満足する精度で再現できた。
「おつかれさま、フェド!
コイツの凄いところは従来型の1.5倍の発射速度だからね……”どらごん”なんてイチコロよ!」
「それが両翼に二丁ずつ! 弾数は合計1000発!
重いから速度は落ちちゃうけど……”どらごん”の最高速はせいぜい時速100ノット (170㎞)ちょい、全く問題ないわねっ!」
上機嫌でポーズを決めるセーラ。
機銃弾をコンバージョンしすぎて腰痛になったけど、セーラが喜んでくれているようでよかった。
「ということで、うちは万全の態勢で航海に挑むわよっ!」
「おお~っ!!」
拳を振り上げるセーラとイオニ。
カイザーファーマとの”運送競争”、その第一戦は間近に迫っていた。
*** ***
『こちらセーラ一番、対空電探の調子はどう?』
「こちらイオニ。 周囲50カイリ (約90㎞)に飛翔体の反応なし、問題ないよ!」
『セーラ一番了解。 雲上哨戒を続けるわ』
「イオニ了解。 気を付けてね!」
晴嵐参号機で上空を飛ぶセーラとの通信を終えたイオニが、荒れ狂う海に目を丸くする。
「ひゃ~っ、台風の中みたい! フェドくんかんちょ~、大丈夫?」
「う、うん……慣性制御の魔法でなんとかっ……うぷっ」
艦の前面に防護魔法のシールドを展開しているとはいえ、荒れ狂う怒涛の大波は伊402の巨体を木の葉のように翻弄する。
慣性制御の魔法を掛け、腰にハーネスを結んでいるけど、気を抜いたら吹っ飛ばされそうだ。
ある意味いつも通りな”魔の海”の天候と言える。
”運送競争”の第1戦、カイザーファーマのフィルとほぼ同時刻に出港した僕たちは、全速力のまま浮上航行し、魔の海に突入する作戦を採っていた。
最高速度は駆逐艦であるフィルの方が速いのだが、ディーゼルエンジンの馬力と、僕たちだけが持っている”航空戦力”を生かす戦術だ。
セーラいわく、ドラゴンと対空戦闘になるとどうしても回避軌道を取る必要があるし、一度落ちたスピードを回復させるには時間が掛かる。
必ず襲って来るであろうドラゴンを晴嵐参号機で片っ端から撃ち落としながらまっすぐ進めば、僕たちにも勝機があるだろう。
ということで、伊402と晴嵐両方に魔力を供給すべく、魔力タンクとして奮闘?している。
激しい揺れに正直今にもリバースしそうだが、ご褒美のアイス (セーラ特製)とイオニの膝枕 (ぷにぷに)が待っているのだッ!
僕は自分の限界と戦いつつ、甲板に仁王立ちを続けるのだった。
*** ***
『こちらセーラ一番、わいばーん3機撃墜』
『そろそろ残弾が心もとないわね……フェド、どこか着水できそうな場所ある?』
「ちょっと待ってセーラ……うん、南西30㎞に小島があるから、そこの島影なら大丈夫だと思う」
数時間後、空棲モンスターの襲撃を何度か撃退した僕たちは、ようやく一息ついていた。
セーラの声にもわずかに疲れの色が混じっている。
僕は海図を広げると、小さな無人島が近いことを確認し、上空のセーラに指示を出す。
『了解、助かるわ。 そこで補給しましょう』
ホッとしたセーラの声がヘッドセットから聞こえ、雲の切れ間からきらりと晴嵐の翼が見えた。
「艦の進路を島にむけます……と~りか~じっ!」
イオニの号令と共に、伊402の艦首が南西方面にむけられる。
”魔の海”にはこのような小島が点在しており、島の周囲では嵐も弱まるので一休みするのに都合が良い。
命知らずのトランスポーターたちが”セーブポイント”と呼ぶ準安全地帯である。
まあ、運が悪いとモンスターの巣になっているんだけど……。
*** ***
「うう~っ、流石にもんすたーを警戒しながらの雲上飛行は疲れるわねっ」
島影と言ってもそれなりに波は荒い。
慎重に着水した晴嵐から、汗だくのセーラが下りてくる。
「お疲れさま、セーラ。 これでも食べてね」
「おっ! ”かすていら”ね。 気が利くじゃない、フェド」
僕はタオルと水、お手製のお菓子を彼女に手渡す。
たっぷりの砂糖を使ったふわふわの黄色い焼き菓子。
僕の故郷、レイニー共和国では一般的なお菓子だけれど、セーラたちの世界にも同じものがあるらしい。
「あっ! ずるいフェドくん! 後でわたしにも頂戴ね!」
「もちろん! 沢山焼いてあるから」
晴嵐参号機に弾薬と燃料を補給するイオニの声に、大皿一杯の焼き菓子を指さす僕。
「よしっ! 急いで補給するぞっ!」
俄然動きが良くなった彼女に苦笑しながら、焼き菓子……かすていらを口に運ぶ。
その途端口いっぱいに広がる甘い香り……我ながら素晴らしい出来栄えだ。
魔力の維持には糖分の補給が重要なのだ。
「それにしても……意外ともんすたーの襲撃がなかったわね」
かすていらを食べ終え、軽くストレッチをしているセーラ。
彼女の言う通り、いつもに比べてモンスターの襲撃が少ない。
レイニー共和国への最短ルートを取るため、”魔の海”のど真ん中を突っ切るのだ。
ここまで比較的下位種のワイバーンしか出現していないのは幸運なのか何が要因があるのか……。
「……あれ? 今むこうで何か光ったような……対空砲?」
補給を終え、かすていらを頬張っていたイオニが最初に異変に気付く。
「ん? この波長は……まさかVT信管 (電波を発し、標的の近くに来たら自動的に爆発する砲弾)!?」
レーダーを覗いていたセーラが驚きの声を上げる。
「えっと……2時の方向? 僕に任せて……”視界拡大”!」
気になった僕は、彼女たちが指し示す方角に向けて望遠魔法を掛ける。
「あれは……レッドドラゴンの大群!?」
拡大された視界に映ったのは、数十体のレッドドラゴン。
その下の海面にいたのは……。
「フィル!?」
120mを超すスラリとした船体。
4基の大砲を振りかざし、絶え間なく砲弾を打ち上げている。
勇ましく大砲の上で仁王立ちしているのは、今回の競争相手である駆逐艦の精霊フィルだった。
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