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第4章 晴嵐宅配便

第4-3話 遭遇、もう一人の”精霊”(後編)

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「くっ、ここならアイツの射程外のはず……」

 レイニー共和国の港に突如出現した”駆逐艦”。

 ジェント王国と帝国は戦争をしているわけではないし、”駆逐艦”の所有者であるカイザーファーマとジェント運輸はライバルではあるけれど、ギフトを使って戦うことなどあり得ない。

 僕の説明を頭では理解していても、数年間激しい戦争を繰り広げた相手同士、簡単に受け入れることはできないのだろう。

 駆逐艦から大きく距離を取った晴嵐は、港の東に延びる半島の向こう側に着水する。
 確かにここなら半島にさえぎられ、大砲でこちらを撃つことはできない。

「大丈夫だよセーラ、前に話したようにギルド同士の私闘は国際条約で固く禁じられているし、もし向こうが撃つつもりなら、とっくに撃ってたんじゃない?」

「……確かに、フレッチャー級に積んである電探レーダーの性能なら、あたしたちよりずっと前からこちらに気づいてたとは思うけど」

「ううっ、でもねフェドくん……アメちゃん最新型駆逐艦の対空砲火はマジでヤバいんだよ」
「電探と高角砲が連動していて、回避軌道とってもズドンだよ……それに、誰かこっち見てた気がしたし!」

「うひゃっ!?」

 駆逐艦からのプレッシャーを感じたのか、鳥肌を立てるイオニ。

 う~ん、カイザーファーマのトランスポーターが、単独でイオニと同世代の大型ギフトを動かせるとは思えないから、彼女たちと同じように”ギフトの精霊”が現れている可能性が高い気がする。

「はっはっは! カイザーファーマの人間が来ているのなら好都合だな」
「先日のリトルアイランドでのモンスター退治横取りの件も含め、私の立場で話をしてみよう」

「何か分かったら知らせるから、君たちはのんびり羽を伸ばせばよい……ほら、ジェント王国中央銀行の小切手だ」

「あ、ありがとうございます」

 ああそうか、こちらの社長はジェント王国の皇族。
 万が一、カイザーファーマの連中がライバルであるこちらに嫌がらせを企んでいるとしても、跳ね返すことのできる政治力が僕たちにはある。

 ……豪快にお小遣いを頂いてしまった事だし、イオニ達に観光案内でもしようかな?

 イレーネ殿下の外遊は3日間の予定だ。
 世界有数の美しさと言われる、レイニー大聖堂には連れてってあげたいな。
 ぷかぷかと水上を走る晴嵐に揺られ、のんきな事を考えていたのだけれど。

「いえっ! ここは外国ですし、どんな不測の事態があるかもしれません!
 帝国海軍陸戦隊として、殿下の身辺警護をさせて頂きます!」

「イオニもいいわね?」

「もちろんだよっ! 電子兵装では負けても、わたし達の大和魂は負けないのですっ!」

「おお、そう言ってくれるのはありがたいが」

「…………」

 どうやら、のんびり休暇はしばらくお預けになりそうだった。

 僕たちは半島の付け根にある漁港の一角を借りて晴嵐を係留すると、陸路で街へと向かった。


 ***  ***

「ふぅ……無事に殿下を迎賓館に送り届けたから、しばらくは安心ね」

「うんっ、安心したらなんかお腹がすいてきた……フェドくん、レイニー共和国の名物ってなんかないの?」

「ああ、それなら……」

 周囲を豊かな海に囲まれたレイニー共和国は海産物が美味い。
 特に、カニが名物である。

 僕は港近くの海鮮レストラン、”クラブ・クラブ”にふたりを案内する。

「カニっ!! いいねいいね、フェドくんは日本人の心をわかってるね~!」

「ふふっ、カニに合う辛口大吟醸を持ってくればよかったわね」

 がちゃり

 上機嫌のふたりと、レストランの入り口をくぐる。


「……What?」

「「「あっ……」」」


 正面のテーブルで、うずたかく積まれたカニを片っ端から平らげている女の子。

 ふわふわとした金髪と青い目が印象的。
 なにより、イオニ達と長い時間過ごしている僕には分かってしまった。

 目の前の子が”駆逐艦”の精霊だと。


 ***  ***

「YES~! あの時の潜水艦は手ごわかったネっ!」

「でしょでしょ? 伊26さんはわたしたちのあこがれだよ~! 対潜部隊に追われながら戦艦を仕留める!」

「ん~? あの時やられたのはジュノー……軽巡洋艦デスよ?」

「マジでっ!?」

「ま、まぁ……戦果確認は難しいから。 んで、フィル! アンタ達の電探寄こしなさいよ! 反則でしょあれ!」

「nhh~? アゲてもいいけど、ジャパンの電子部品で修理できるノ? Greatに複雑な構造だよ?」

「うぐぐっ……!」

 海鮮レストランで駆逐艦フレッチャーの妖精、フィルと鉢合わせして1時間後……もしかしたら過去の因縁から喧嘩が始まってしまうかも。

 僕の心配は、いい意味で裏切られていた。

 モンスターとの戦いはあっても、国同士の争いは長らく起こっていないボトムランド (人間同士で争う余裕がないともいう)。

 その空気にあてられたのか、お互いをライバルと認め合う3人。

「OK~! それじゃ、いろんなコトで勝負しまショ~!
 フィルに勝ち越したら、サブのSGレーダー、アゲますよ?」

「その勝負乗ったっ!」

「まずは壱番、カニ大食いっ!」

「NO!? IJNの胃袋は化け物ですかっ!?」

「ふふっ……突撃一番よりユルユルなイオニの胃袋を甘く見たわねっ!」

 テーブル一杯のカニを追加注文し、大食い競争を始める彼女たち。
 その様子を微笑ましく見守りながら、殿下から頂いたお小遣いで足りるのか不安になる僕なのだった。
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