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第3章 初めての空

第3-1話 新型ギフト!? まあそれはそれとして

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「フェド君たちが報告してくれた新型の”ギフト”だが……」
「”帝国”直轄の大商会、カイザーファーマの所有だと判明した」

「イオニ君、セーラ君が言った通り、”駆逐艦”という艦種らしいな」

 リトルアイランドでの仕事を終え、ジェント王国に戻った僕たちは依頼の完了とシードラゴンの巣で目撃した新型ギフトの事をイレーネ社長に報告。
 社長は僕たちにねぎらいの言葉を掛けると、新型ギフトについて調べることを約束してくれた。
 翌日、詳しいことが分かったと社長室に呼び出されたというわけだ。

 さすが社長……仕事が速い!

「”スペック”は……全長114.75m、満載排水量2,850トン……デカいな」
「主要武装は12.7㎝単装砲5基、40㎜連装機銃」
「最高速力は28ノット……」

 イレーネ社長が”駆逐艦”のスペックを読み上げていく。
 ふと、何か違和感を感じたのかセーラが首をかしげている。

「あれっ? イレーネ殿下、要目表を見せて頂けませんか?」

 セーラはいまだにイレーネ社長の事を殿下と呼ぶ。
 彼女はイレーネ社長から要目表を受け取ると、右手で「軍極秘」と赤字で大書きされた分厚い本を開く。
 伊402の艦内から持ち出してきたものだが、ここにセーラたちが戦った兵器のスペックが載っているらしい。

「やっぱり……フレッチャー級の最高速力は36.5ノット……魚雷装備や電探の事も書かれていない」
「殿下、この要目表は本来の性能より低く書かれています!」

「ほう……?」

 ぴくん、とイレーネ社長が右の眉を跳ね上げる。

「こちらの世界の人間に理解できない部分を省いたのかもしれないですが……速力は”艦”の最重要事項、コイツを意図的に低く載せているとなりますと……」

「なるほどなるほど……”機関”への報告を偽装するか、やってくれるじゃないか」
「流石は”帝国”の後ろ盾があるカイザーファーマといったところか……」

 イレーネ社長の言う通り、”ブリーディング”により解析したギフトのスペックは正確に報告するように決められている。
 解析できなかったのか、隠ぺいしたのか……イオニ達と同世代のギフトなら、彼女たちと同じ”精霊”が生まれている可能性もある。

 もちろんそんな事は要目表に書かれていない。

 カイザーファーマは強大な軍事力を持つ”帝国”を後ろ盾に、強引な商売を行うことで知られている。
 最近配下のトランスポーターを増強していると噂だったけど、こんなギフトまで手に入れていたなんて。

「はうう……イレーネ殿下、わたしたちこの”駆逐艦”と戦う必要があるんですか……?」

 リトルアイランドで”駆逐艦”と遭遇してから、イオニはずっと元気がない。
 イオニの話では、”駆逐艦”とは”潜水艦”の天敵で……特にこのギフト、フレッチャー級はイオニ達の世界でも最新型。

 海中深くに潜っていても、伊402の物よりもっと高性能なソナーでたちどころに見つけ出され、筒状の爆弾 (爆雷というらしい)を雨のように降らせてくる。
 彼女の仲間たちも大勢やられてしまったらしい。

「ふふ……イオニ君、心配せずともよい」
「確かにカイザーファーマは我がジェント運輸のライバルだが」

「世界の物流を支える……同じ目的を持ったトランスポーター同士が戦うなどナンセンスだし、私闘は条約により固く禁じられている」
「今回は我々がリトルアイランドと”先約”していたんだ……連中のしたことは違法ではないが、道義にもとる」

「イレーネの名で正式に抗議しておくから、君たちは気にせず仕事に励んでくれたまえ!」

「……殿下!」

 戦いになるかもしれない……心配そうな様子のイオニに、笑顔で心配ないと告げるイレーネ社長。
 彼女の言葉に、イオニはほっとした表情を浮かべる。

「カイザーファーマについては、ウチも動向を探っておこう」

「……さて、君たちも遠征で疲れただろうから、ゆっくりしてくれたまえ」
「伊402はこちらでオーバーホールするから、数日間はオフとしよう」

 見た目はちっちゃくてかわいいけど、頼りになる上司である。
 イレーネ社長は愉快そうに笑い声を上げると、部屋を出て行った。

「よし、社長のお許しも出たことだし……イオニ、セーラ、僕に付き合ってくれるかな?」

「ふえ? う、うん」

「どうしたの? もちろんいいけど」

 突然の申し出に目を白黒させるふたり。
 彼女たち……特にイオニが凹んでたのが気になっていたんだ。
 僕は、彼女たちをとっておきの場所に連れて行くことに決めた。


 ***  ***

「わあっ♪ 凄いっ!」

「絶景ね……島が空に浮いてるなんて、どうなってんのよ」

 ジェント王国の王都から馬車で2時間ほど……深い森を通り抜けた先にある美しい湖、そいつを一望できる高台に僕たちはやってきていた。

 森の中にぽっかりと姿を見せた透明度の高い湖……だけど、イオニ達が目を奪われているのは湖に対してじゃなくって……。

「すっごい高い空に浮かんでる……はえ~、新高山 (当時の日本の最高峰)より絶対高いね!」

 王都で購入したジェント王国名物、スライム饅頭を頬張りながらイオニが歓声を上げる。
 よかった、元気が出てきたみたいだ。

 イオニが言う通り、直径10キロほどの島が、上空数千メートルに浮かんでいるのがうっすらと見える。
 目の前の湖は、”島が浮かんだ時に出来た穴”ということになる。

 ボトムランドではごくまれにこういった”大地が剝がれる”現象が起きる。
 学者さんの研究では、地中に含まれる”マテリアル”の濃度が関係しているらしいけど、詳しいことはいまだに良く分からない。

「あそこに行くことが出来れば、マテリアル採り放題で一攫千金なんだけどね」
「飛行タイプ魔獣のティムは至難の業だし……この辺りの空は、”魔の空”だからな~」

 そう、”剥がれた大地”ではマテリアルがたくさん採れる。
 何とかしてあそこに到達できれば、莫大な財産をゲットできるのだけれど。

 ジェント王国にアレが出現したのは10年程前……かつてない規模の”剥がれた大地”、ジェント王国だけでなく、各国のギルドも大注目したんだけど……。

 あいにく”島”が浮かんでいる高度が高すぎ、しかも”魔の空”に巣食う飛行系魔獣の巣窟になっていることが判明し……こうやって下から眺めるだけの観光地になっているというわけだ。

「……あれ? もしかしてセーラちゃんの晴嵐の修理が終われば、あそこに行けるんじゃ?」
「フェドくん、わたし行ってみたいなっ!」

 ぎゅっ!

 船乗りとして、冒険心を刺激されたのか、興奮気味のイオニが抱きついてくる。

 わわっ!?
 彼女の胸の感触が……!

「まったく……晴嵐の修理はまだまだなんだから、そのうちね」

「は~い!」

 すっかりいつもの調子を取り戻したイオニは、僕の手を取ったままそっと顔を寄せてきて耳打ちする。

「ありがとう、フェドくん」
「わたしが凹んでたから元気づけてくれたんだよね」

「えへへ、フェドくんはわたしたちの優しいかんちょ~だよ!」

 にぱっ、と音がしそうなほど弾けた彼女の笑顔に、僕は思わず見とれてしまったのだった。
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