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第2章 新生トランスポーターの新天地
第2-9話 運送ギルド、落ちぶれる
しおりを挟む「マズい……本格的にマズいぞこれは」
ここレイニー共和国で圧倒的なトップシェアを占めていた運送ギルドのトップ、リークは毎日襲ってくる頭痛の種に頭を悩ませていた。
大陸を東西に分割する”魔の谷”……リークの運送ギルドは、谷を横断する陸上運送を主力としている。
そこで出現するモンスターが強力になった……2か月ほど前に発生した現象に対しては、より強力な武器を扱えるトランスポーターを護衛につけることで対処した。
高額な報酬は、ギルドの利益を圧迫したが、輸送部隊 が全滅したのでは意味がない。
問題はこれだけではない。
リークのギルドよりはるかに規模は小さいのだが、競合相手のデルビー運送ギルド。
連中が新型ギフトの”トラック”を投入してきたことにより、形勢は一気に逆転する。
”機関”へ登録されたスペック表を見ると、積載量は10トン、最高速度は時速50キロ……馬車や石炭車に比べ、10倍から50倍の性能である。
これを3台入手したデルビー運送ギルドは、宝石をはじめとした高価値の荷物をどんどん運び始めた。
食料品などに比べ、高価値の荷物は運送速度よりも目的地への到達率が重視される。
本来これらはリークのギルドの得意分野だったのだが……。
大量に、しかも早く運べるデルビー運送ギルドに太刀打ちできず、どんどんシェアを奪われている。
僅か1か月でリークのギルドはデルビー運送ギルドに逆転され、その差は開く一方である。
「……朗報もあります、リークさん」
「”魔の谷”に出現したブルーキマイラですが」
「フェドが残していった”大口径機銃”を使って倒すことが出来たとの報告が」
「そんなもの……弾丸を”コンバージョン”出来る者が誰もいないというのに、いったい何の役に立つのかね!」
「……失礼しました」
全く失礼とは思っていない態度で一礼する秘書。
だが、リークはそんな彼の慇懃無礼な様子に気づくことは無く。
(……ふむ、潮時かもしれませんね)
ひそかに届いているデルピー運送ギルドからのスカウト。
秘書として確固たる地位を築いたとはいえ、沈む船に残るつもりなど毛頭ないのだった。
「それに何だこのフェドのギフトは……”潜水艦”だと?」
「鋼鉄の船が海に潜るわけなかろう……更にギフトの精霊が出現した?」
「”機関”のギフト名鑑はいつから妄想を書き溜める場になったのだ!」
ひとしきり頭を抱えたリークは、今度は”機関”が発行しているギフト名鑑を読んで怒鳴っている。
忙しい人だ……そう思いながら秘書は、独自のツテで集めた情報をリークに披露してやる。
「そういえば……フェドの奴はジェント運輸の専属になったそうですな」
「イレーネ殿下の肝いりで……すでに”魔の海”を渡る輸送を数件成功させ、莫大な収益を上げたとか」
「”魔の海”を何度も渡っただと! そんなバカな!」
「それが、本当みたいですよ……これがジェント運輸の四半期決算書と株価の推移です」
「ぐっ……これは、まさか……」
ばさり、秘書は最新の経済誌をリークの執務机の上に置く。
”注目銘柄”と大書きされた記事には、”新型ギフト”を手に入れたジェント運輸が困難な輸送を次々に成功させ、莫大な利益と絶大な信用を獲得したことが特集されている。
もともと、イレーネ殿下は公正明大な人柄で知られ、皇族として地域貢献に余念がない人物だ。
とくに窮地に陥っていたリトルアイランドを救った緊急食糧輸送が高く評価され、ジェント運輸の株価は先月の2倍に上昇……依頼が殺到しているらしい。
その中心にいるのがフェドの”潜水艦”……動かしがたい事実に、フェドを追放してしまった自分の判断を呪うしかないリーク。
恥も外聞も捨て、奴を呼び戻そうとしても、すでに”殿下”の子飼いである。
そんなところにくさびを打ち込む度胸もコネもリークの手中に存在しないのだった。
「くそっ……こうなってはあの手しか……」
往生際の悪いボスに興味を無くし、執務室を出ようとした秘書の耳に、そのつぶやきだけが鮮明に届いた。
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