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第2章 新生トランスポーターの新天地
第2-8話 恐るべき天敵?出現
しおりを挟む「あいたたた……どうしたの、イオニ?」
急速潜航!
そう叫んだイオニの手で艦内に通じる昇降筒に放り込まれた僕、したたかに打ちつけた腰をさすりながら立ち上がる。
「ベント開け! ダウントリム30……急いでセーラちゃんっ!」
「任せなさい! 重量物を艦首に移動!」
イオニに僕の問いに答える余裕はなく……必死の形相で潜航準備を整えていく。
ゴゴゴゴッ……
鈍い音を立てながら、艦内各所に積まれた報酬代わりの魔導水晶の原石 (リトルアイランドの名産で、魔法装置などに使われる)が艦首方面に移動していくのが見えた。
どうやら、艦の先っぽを重くして潜航速度を速める狙いみたいだが……説明を求めずにイオニの指示に従うセーラの様子は、さすが軍人といったところか。
僕も強化魔法で全身の筋力を強化し、原石の移動を手伝う。
そのかいあって、伊402の巨体はどんどん水中に潜っていく。
「深度50……60……70……懸丁装置作動、無音潜航!」
水深70メートル……陸地にほど近いこの辺りではほとんど海底の深さだ。
イオニの号令と同時に、エンジンがカットされ、不気味なほどの静寂が辺りを包む。
結局何が起きたの?
僕が口を開こうとすると、イオニが身体を寄せてきてそっと人差し指で僕の唇を押さえる。
ぷにっ……柔らかい身体の感触と、しっとりとした彼女の指先に、思わず赤面してしまう。
全くこんな時までアナタは……そう言いたそうな顔をして、セーラも近づいてきた。
艦橋直下の大部屋である、発令所に掲げられた時計の秒針が動く音すら聞こえそうな静寂の中、
ひそひそ声でイオニが”敵”の正体を告げる。
「……あのね、電探 (レーダー)波の照射を感知したの……」
「たぶん、駆逐艦……しかもアメちゃん最新型の……」
「……アンタがそんだけ慌ててるからまさかと思ったけどやっぱりか……」
真っ青な顔をしたイオニの説明に、心当たりがあるのかセーラが天井を仰ぐ。
僕には何のことかさっぱり理解できないけど……深刻な表情を浮かべたセーラが、僕の上着の袖を掴む。
「ねえフェド、アンタの他に”こんなの”を動かせる奴っているの?」
「”ギフト”のこと? いや、”潜水艦”や”飛行機”なんて、伊402の他に見つかった記録はないけど……」
セーラの問いに答えながら、発令所の本棚から”名鑑”を取り出す。
解析が済んだギフトは”統括機関”に登録する必要があり、登録済みのギフトがこの名鑑に載っている。
僕がこないだ申請した伊402と晴嵐までが反映された先月版である。
念のため、”船”のページを開くけど……伊402のような潜水艦は他に存在せず、最大の物でも全長100メートルほどの外輪船だった。
「ふ~ん、いないのね……でも、イオニの言葉が本当なら……」
「ひっ!? 来たっ!」
イオニが小さくおびえた声を出す。
同時に、海中に鈍い爆発音が響き……しかもそれが連続する。
ズン……ズン……ドオウンンッ!!
「きゃう!?」
「くっ……近いっ?」
「任せてふたりとも! 探査魔法!」
珍しく取り乱すイオニとセーラを落ち着かせようと、探査魔法を発動させる。
周りで何が起きているか探るのだ。
「丸い……筒のようなものが海中に落ちてきて……爆発している?」
どうやら、謎のギフトは”船”らしい……たくさんの”筒”をばらまいて……こちらを狙っているわけではなさそうだけど、広いで範囲で起こる爆発に、シードラゴンの反応が1つ、また一つと消えていくのを感じる。
もしかして、シードラゴンを駆除している?
だけどこの爆発の威力……伊402が積んでいる”魚雷”には遠く及ばないけど、現在使われている爆弾などと比べると破格の威力。
ものの数分で、シードラゴンは全滅してしまったようだ。
「ああああ……飽和爆雷攻撃だぁ……先輩たちもみんなこれでっ」
「落ち着きなさいイオニ! あたしたちが狙われたんじゃないからっ!」
「……フェド、”敵”の姿を確認するわよ」
「安全深度から潜望鏡を伸ばすから、あの凄い魔法をお願い!」
なにかのトラウマに触れてしまったのか、頭を抱えてしゃがみ込むイオニをセーラが元気づけている。
僕は静かに頷くと、潜望鏡に”耐圧”、”拡大”の魔法をかける。
「深度20まで浮上して、潜望鏡を上げるよ……アレは?」
限界いっぱいまで潜望鏡を伸ばし、少しだけ先っぽを海上に出す。
拡大された僕の視界が捕らえたのは巨大な船。
全長100メートルは優に超えているだろう。
平べったい蒸気船でも、ゴテゴテとした外輪船でもないすっきりとしたシルエット。
どこかロングソードを思わせるスマートな船体には1、2、3……5基もの大砲が積まれている。
しかも、スピードが速いっ!?
伊402の水上航行も速かったけど、それをはるかに上回る速度。
時速50キロは出ているかもしれない。
シードラゴンが全滅したことを確認したのか、この海域から立ち去ろうとしている。
「セーラ、こんな感じの船なんだけど……」
「な……うそでしょ!?」
「あたしにも見せてフェド!」
船の特徴を伝えたところ、さっと顔色を変えるセーラ。
僕は彼女と潜望鏡を交代する。
「あ……あ、艦種識別表を見る間でもないわ……」
「駆逐艦の……フレッチャー級ですって!?」
思わず叫び声を上げるセーラ。
ボトムランドにもたらされるギフト……そこに大きな変化が訪れようとしていた。
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