9 / 62
第2章 新生トランスポーターの新天地
第2-2話 幼女と新たな雇い主
しおりを挟む”魔の海”でワイバーンに襲われていた船を助けた僕たち。
その船に乗っていたのは小さな女の子で……。
「おおっ……君たちが助けてくれたのか、ありがたい」
「ジェント家を代表して感謝する……いやなに、”魔の海”の定点観測をしていたら夢中になってしまってね……いつの間にかこんな沖まで来てしまった」
危機が去って安心したのか、立ち上がった少女はやけに大人っぽい口調で話し出す。
身長は小柄なセーラよりさらに小さく、130センチもないだろう。
くせ毛気味の桃色の髪は、肩までの長さでくるくると丸まっている。
もみあげからのぞく耳は、ぴんと尖っており、エルフの血が入っているように思われる。
魔導研究者がよく着ている丈の長い白衣の下には、グレーのタイトスーツを着ている。
足元は高めのヒールと、見た目と服装がアンバランスだ。
「それにしても……その”ギフト”は凄い性能だな……見たところ、”ディーゼルエンジン”で駆動し、水中に潜ることのできる”可潜艦”といったところか?」
「!!」
え、凄い!
この子、一目で伊402が潜水艦であることを見抜いた!?
僕と同じく、”上の世界”の書物を読むことが趣味なのか?
いやでも、この船のエンジンは外から見えないし……なぜディーゼルエンジンで動いていることが分かるんだ?
鋭い少女の指摘に、驚愕する僕。
うしろでイオニとセーラが息を飲む音が聞こえる。
彼女たちも驚いているようだ。
「この子……どうしてわたしのことが見ただけでわかるの~?」
「はっ!? もしかして艦政本部 (軍艦の建造を管理していた組織)の秘密職員!?」
「あのね、んなわけないでしょ……でも、あたしも気になるわ」
「どうしてわかったの?」
油断ならないかも……少女に向けて鋭い視線を送るセーラ。
だが、少女はその視線を軽く受け流すと、愉快そうな笑い声をあげる。
「くっくっく……いやなに、排気の煤が石炭に比べて薄いと思ってね……先日デルビー運送ギルドで発見された”ディーゼル自動車”のようなモノかと推測したんだ」
「申し遅れたね、私の名前はイレーネ。 ジェント家の長子で、ジェント運輸の代表者を任されている……こう見えても38歳だぞ、ハイエルフの血が入っているからな」
「「「えええええええええっ!?」」」
あまりに情報量の多い自己紹介に、僕たち3人の驚愕の叫びが海上に響き渡ったのだった。
*** ***
「なるほどなるほど……いやぁ、見れば見るほど素晴らしいギフトだ」
わうん!
先ほど助けたイレーネ……さんは、興味深げに伊402の甲板を歩き回り、しきりに頷いている。
その足元をちょこまかと走り回るのは、漆黒の毛を持つ子犬……彼女の話では、地獄の番犬ヘルハウンドらしい……マジですか。
彼女の護衛兼ペットで、彼の力を解放すると自分まで危険なので、ワイバーンと戦っているときは能力をセーブしていたそうだ。
「……”えるふ”って、西洋のお伽噺よね……覚悟はしていたけど、異世界ってすごいわ」
「ふふっ、セーラちゃん、そう言ったらわたしたちの存在もたいがいお伽噺だよ~」
ちょこまかと動き回る一人と一匹を、微笑ましい表情で見守るイオニとセーラ。
彼女たちには、イレーネさんが38歳といわれても、にわかには信じられないようだ。
「ふむ……フェド君!」
「君はこの船……潜水艦を使って、運び屋 (トランスポーター)をしたいと言っていたね」
「どうだろう? モノは相談なのだが、私のジェント運輸に所属しないか?」
「手前ミソになるが、ジェント王国内ではシェアトップだぞ? ”マテリアル”の在庫も豊富だから、君たちに融通することも可能だ」
ひと通り甲板上を調べ終えて満足したのか、イレーネさんは僕の前に歩いてくると、腕を組み、ドヤ顔でポーズをとりながら提案してくる。
これは……スカウト?
正直な話、いくら画期的なギフトを所有していても、フリーでトランスポーターを営むとなると、営業や経理など、大変な事も多い。
手数料を取られるとはいえ、どこかのギルドや企業に所属する方が楽だ。
「それに……この”ギフト”の専用使用権を機関に認めてもらう必要があるだろう?」
!! そうだった……あまりに勢いで飛び出してきたせいか、そのあたりの事務手続きをぜんぶすっ飛ばしていた。
事後申請は面倒くさいし……にやりと笑うイレーネさんの会社のもとで働かせてもらうのが一番無難なんだけど……。
「僕はそうしたいと思うけど……ふたりはどう?」
僕だけではこの船は動かせないし、ふたりの意見を聞いてみないと。
僕はイオニとセーラに問いかける。
「わたしはだいじょ~ぶだよ、マスターであるフェドに従うよ!」
「それに、イレーネちゃんかわいいし♪」
「あたしも大丈夫よ! ……正直フェドって事務作業苦手そうだし」
うっ……見抜かれている。
「二人も賛成のようなので……それではイレーネさん、ご厄介になります」
「はっはっはっ! 賢明な判断だ」
「こちらこそよろしく……フェド君、イオニ君、セーラ君」
「って、むぎゅっ!?」
僕の申し出に、嬉しそうに両手を広げるイレーネさん。
見た目はちっちゃな少女なので、アンバランスさがカワイイ。
案の定かわいいもの好きのイオニに抱きつかれている。
こうして、僕たちは思わぬ形でイレーネさんが代表を務めるジェント運輸に所属することになったのだった。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる