7 / 62
第1章 追放トランスポーター、心機一転
第1-7話 大きな魚を逃した運送ギルドの憂鬱
しおりを挟む我が運送ギルドの経営は堅調だが……輸送部隊 (コンボイ)の被害が大きいのが気になるな……。
つい先日までフェドが所属していた運送ギルド……町の広場を一望する高台に、威風堂々石造りのビルを構える巨大組織だ。
その最上階の執務室で、ギルド長のリークは頭を悩ませていた。
海運ギルドの連中ほどバクチ打ちではない……輸送効率は下がっても、数十台の荷馬車に銃火器で武装した潤沢な護衛……大キャラバン主義を採用したリークの運送ギルドは、一回辺りの利益より到達率を重視し、顧客の信用を積み重ねてきたはずだった。
”魔の海”を通る海上輸送に比べ危険度は下がるとはいえ、大陸を縦横に切り裂く深い”魔の谷”……そこに出現する凶悪なモンスターの存在により、陸上輸送にもそれなりの危険が伴う。
そんな中でも近隣諸国の運送ギルドに比べ、85パーセントという圧倒的に高い目的地到達率を誇っていたのだが、ここ数か月、その成績に陰りが出てきていた。
「7.7㎜小銃弾の効かないキマイラ型のモンスターが出現しただと……そんな馬鹿な」
先日、”魔の谷”で凶悪なモンスターに襲撃され、壊滅したキャラバンの生き残りが書いた報告書を読み、唸り声を上げるリーク。
キマイラ型のモンスターはこれまでも多く出現していたが、我がギルドが装備するボルトアクション式の7.7㎜小銃で問題なく対処できていたはずだった。
強力な新種が出現したのだろうか?
「報告では、従来種のブルーキマイラとのことですが……」
かたわらに控えた秘書がそう報告する。
「それこそまさかだ! 従来種のモンスターがこんな短期間で進化するものか!」
「おおかた、新種のキマイラを見間違えたのだろう……出現率は低いとしても、護衛を増やすしかあるまい」
リークはギルド構成員の成果評価に対しては厳しいが、無謀なことはしない性格だ。
利益が下がることは承知で、護衛をさらに増やすようにと秘書に指示を出す。
だが……我々の運送ギルドは比較的安全な陸上ルートを使う事により、運送者……トランスポーターの雇用経費を抑えてきたのだ。
ブルーキマイラが本当に進化していて、陸上ルートの危険が大きくなっているのなら……腹の底に沸いた疑念を、秘書は頭を振ってやり過ごす。
憶測で進言しても仕方がない……それは私の職務ではないし。
有能だが、おのれの立場をわきまえすぎている秘書は、咳ばらいを一つすると、次の報告へと移る。
「デルビーの街の運送ギルド……我々の商売敵ですが……先日、新たな”ギフト”を入手したとの噂が……」
「石炭ではなく、”燃える油”を使って動く、”じどうしゃ”?というモノらしいですが……」
「……なんだと?」
リークの眉がピクリと動く。
”燃える油”……先日フェドの奴が言っていた”燃える水”と関係あるのか?
「……馬鹿な!」
秘書から資料を受け取ったリークが、内容に目を通した途端に驚きの声を上げる。
「石炭を燃やす”エンジン”にくらべ、数倍の燃焼効率があり、エンジン本体も半分の大きさで済むだとっ!?」
資料に添付された魔法写真には、”とらっく”なる、新型の輸送機械の姿が映っている。
デルビーの街近郊の山の中で発見され……デルビー運送ギルドに専有使用権が付与されたと記載されている。
何より脅威なのは……リークの運送ギルドで使っている荷馬車に比べ、10倍以上の積載量がある事だ……。
新型の”ギフト”は、最初に見つかった場所で複数個見つかる傾向がある……デルビー運送ギルドがこの”とらっく”を連ねたキャラバンを投入して来たら……!
我が運送ギルドの危機だ!
いささか慌てた様子で秘書に指示を出す。
「くそ! 今すぐフェドのヤツを呼び出せ!」
「あと、倉庫番もだ!」
「まだ町はずれの倉庫には、フェドが”変換”したアイテムが残っているはずだっ!」
ご自分でクビにしたんでしょうに……いい意味でも悪い意味でもギルドの利益を最優先するリークの姿勢に、むしろ感心しながら、倉庫番のジンに連絡を取る秘書だったが……。
「”燃える水”をすべて、フェドが回収しただと……?」
「はい、それに……そのほかの”大口径弾”や、廃棄予定だった余剰の”マテリアル”も相場以上の値段で買い取っていったとか……」
「そのあと、”鉄のクジラ”に乗って、”魔の海”の方へ出航したという話です」
街の酒場でやけ酒でもしてるのだろう……リークはフェドの行動をそう決めつけていたのだが……。
「”鉄のクジラ”……”魔の海”……デルビー運送ギルドが入手した新型のギフト……まさかっ!?」
フェドのブリーディング (機械翻訳)が、これら新型ギフトに反応するものだったとしたなら……。
「俺はまさか、大きなチャンスを逃したのか……?」
自分の軽率な判断が、金の卵を産むニワトリをふいにしてしまったのかもしれない……勘だけは鋭いギルド長リークは、部屋の天井を見上げかぶりを振るが……。
時すでに遅し……なのであった。
*** ***
「んん~っ! 空気が美味しい、日差しが気持ちいいな~」
レッドドラゴンの襲撃をやり過ごし、シーサーペントを撃破した僕たち。
激しい戦闘だったので、念のため各部の点検を……セーラの進言により、僕たちの潜水艦伊402号は、海の上に浮上?していた。
珍しく”魔の海”は穏やかで……水平線までくっきりと見える。
キラキラと日の光に輝く波頭がきれいだ。
「……うえっ!? リークさんから魔法通信の履歴が!?」
「やっぱり資材を弁償しろって連絡だったらイヤだなぁ~、着信拒否っと」
腰に付けたポシェットから魔法通信鏡を取り出した僕は、ギルド長のリークさんから魔法通信が入っていたことに気づき、顔をしかめる。
どのみち、通信圏外なので呼び出されることは無いけれど、元上司からの連絡はイヤなモノである。
契約上は、もう何かを言われる筋合いはないので、連絡先を消去して着信拒否に設定する。
僕はもう昨日までのダメダメブリーダーじゃないのだっ!
「セーラちゃ~ん! わたしの船体は大丈夫、少し傷がついてるだけだよ~」
「でもでも、こんなでっかい歯型が付くのかぁ……こわっ! サセチン (佐世保鎮守府)のオヤジさんに怒られるよ」
「セーラちゃんの方はどう?」
船体各所を点検していたイオニが、安堵の声を上げている。
ていうか、シーサーペントに噛みつかれて”少しの傷”ですむのか……確かに何か所か艦体の塗装が剥げている部分があるけど……あらためてとんでもない”ギフト”である。
「う~ん、あたしの晴嵐はやっぱまだ飛べないわね……この子、アメちゃん引き渡し用の機体みたいだけど」
「プロペラシャフトに亀裂が入ってるし、オイルも足りないわね」
”飛行機”である”晴嵐”の状態を確認していたセーラが大きなため息をつく。
艦橋の下部にある大きな筒状の倉庫?から取り出された晴嵐は、その大きな翼を広げ、”かたぱると”なる長大なレールの上に置かれている。
深緑と薄いグレーに塗り分けられた機体の胴体には、鮮やかな赤色で丸い印が描かれている。
セーラの話では、彼女たちが所属していた国のマークらしい。
全体的に曲線で構成された巨体はとてもスマートで美しい……できたら僕もコイツが飛ぶところを見たいんだけどな。
やはりこの”ギフト”の精霊として、分身でもあるこの”晴嵐”が飛べないのは辛いのだろう。
悲しそうな表情を浮かべるセーラを見ていると、なんとかしてあげたくなる。
「……ねえセーラ、今読んでるのって、コイツの整備マニュアル?みたいなものだよね?」
「構造や材質が分かれば、僕の”コンバージョン” (物質変換)で再現できるかもしれない」
僕は、しょげているセーラの肩をたたき、努めて優しい口調で声をかける。
「フェド?」
「いや、いくらあなたでも晴嵐のプロペラシャフトは……希少金属を使った芸術作品とまで言われた部品なのよ?」
「……でも、むむむ……フェドならもしかして」
最初は無理でしょ!な表情をしていたセーラだが、僕が”マテリアル”から重油や大口径弾を作り出したことを思い出したのだろう。
徐々に思案深げな表情になっていく。
さすがに僕も、複雑な”部品”ともなると、一発で作ることは難しいけどね……時間を貰えれば、必ずできる!
笑顔で見得を切った僕に、だんだんとセーラも笑顔になる。
「ふふ、じゃあお願いしようかな……この子にはとっても思い入れがあるの。 よろしくね、フェド!」
「おお~っ! 今のセーラちゃんの笑顔、レスのインチ (なじみの芸者)みたいですなぁ~、ちょろかわ!」
「って、イオニっ! からかわないのっ!!」
いたずらっぽい表情を浮かべて横やりを入れてきたイオニとじゃれ合いだすセーラ。
その微笑ましい様子を見ながら僕は、自分の夢をかなえるためにも、この子たちを笑顔にするぞと心に決めるのだった。
世界一の【トランスポーター (運び屋)】に僕はなるっ!!
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
月白色の叙情詩~銀礫の魔女が綴るもの~
羽月明香
ファンタジー
魔女は災いを呼ぶ。
魔女は澱みから生まれし魔物を操り、更なる混沌を招く。そうして、魔物等の王が生まれる。
魔物の王が現れし時、勇者は選ばれ、勇者は魔物の王を打ち倒す事で世界から混沌を浄化し、救世へと導く。
それがこの世界で繰り返されてきた摂理だった。
そして、またも魔物の王は生まれ、勇者は魔物の王へと挑む。
勇者を選びし聖女と聖女の侍従、剣の達人である剣聖、そして、一人の魔女を仲間に迎えて。
これは、勇者が魔物の王を倒すまでの苦難と波乱に満ちた物語・・・ではなく、魔物の王を倒した後、勇者にパーティから外された魔女の物語です。
※衝動発射の為、着地点未定。一応完結させるつもりはありますが、不定期気紛れ更新なうえ、展開に悩めば強制終了もありえます。ご了承下さい。
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
ざまぁから始まるモブの成り上がり!〜現実とゲームは違うのだよ!〜
KeyBow
ファンタジー
カクヨムで異世界もの週間ランク70位!
VRMMORゲームの大会のネタ副賞の異世界転生は本物だった!しかもモブスタート!?
副賞は異世界転移権。ネタ特典だと思ったが、何故かリアル異世界に転移した。これは無双の予感?いえ一般人のモブとしてスタートでした!!
ある女神の妨害工作により本来出会える仲間は冒頭で死亡・・・
ゲームとリアルの違いに戸惑いつつも、メインヒロインとの出会いがあるのか?あるよね?と主人公は思うのだが・・・
しかし主人公はそんな妨害をゲーム知識で切り抜け、無双していく!
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる