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第1章 追放トランスポーター、心機一転

第1-1話 ギルドをクビになりました

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「フェド君……なんで君はウチに必要なものを”変換”できないのかね?」
「”小銃用の弾 (7.7㎜以下)”を作れと言っているんだ……ウチが君に求めているのは、そこに転がっているガラクタではない!」

 運送ギルドの長であるリークが、少し白髪の混じった頭をかきむしりながら苛立たしげに机をたたく。

「す、すみません……これらの武器は威力が高いので、”魔の海”に出現するモンスターには有効だと思うのですが……」


 ちらりと僕は、自分が”変換した”モノに目をやる。
 ギルドの倉庫の中には、多数の”砲弾”が転がっている。

 僕の精一杯の抗弁に、リークさんは大きくため息をつく。

「いいかね? ウチの主戦場は”陸”だぞ? 何度も説明しただろう!」
「せっかく貴重なスキル持ちだからと採用したのに……」

「そもそも、そんなにデカい弾を撃つ”武器”が無いだろう!? 使えないモノを作られても困る!」
「希少な資材の無駄だ!」

「そもそも君はまともな解析結果も出さないし……」

 ひええ、”変換”結果だけじゃなく、”解析”結果にまで文句を言われそうだ……旗色が悪くなる前に、僕はさらなる反論を試みる。

「そ、それでは昨日作った”新型油”はどうですか?」
「”石炭”より燃焼効率も良く……」

「ああ、あの”燃える水”かね……少し火を近づけただけで爆発するような危ないシロモノが使えると思うのかね君は!」
「石炭を使った蒸気機関が世界の主流……それくらい常識だろう!」

 あえなく撃沈されてしまった……リークさんの細い目が僕を捉え、眼鏡の奥がきらりと光る。

「”トランスポーター兼ブリーダー”、フェド君」

 後に続く言葉を予想し、僕はそっとため息をついた。

「君はクビだ」
「無駄にした資材の弁償までは勘弁してやるから、今すぐここを出て行きたまえ」


 バタン!


 ギルド長執務室のドアが無情にも閉まり、僕はめでたく無職になった。


 ***  ***

「はぁ……上手く行かないなぁ」

 ギルドを追い出された僕は、街の郊外にある海岸をトボトボと歩く。
 底抜けに青い空と、キラキラと光る波しぶきの清涼感……無職になった僕の心は何一つ晴れないけど。


「おっ……珍しい”ギフト”だ!」


 ふと、波打ち際に20センチくらいの大きさの、黒い箱が埋まっているのを見つける。

 黒光りするボディに、数字が書かれた回転式のダイヤルが付いている。

 箱にはお椀のようなものが付いており、これを耳にあてて音を聞いてくださいと説明が書いてある。

 書物で読んだことがあるぞ……これは”電話”だ!

 明らかにで作られたそれは、”ギフト”と呼ばれるアイテム。

 詳しいことは宮廷付きの賢者様じゃないので分からないけど、僕たちが住んでいる世界、”ボトムランド”は色々な世界の一番下にあって……上の世界からたまにこうして色々なアイテムが降ってくる。

 この”ギフト”を回収して高く売ったり、使えるように解析するのが、僕がさっきまで所属していたギルドの仕事の一つなんだ。

「……ブリーディング (機械使役)」

 ポワアアアアッッ

 僕は砂に埋まっていた黒い”ギフト”を取り出すと、解析用の魔法を唱える。

 この魔法を使える術者は【ブリーダー】と呼ばれる。

 ブリーディングすることで、”ギフト”の機能と使い方を解析し、魔力を使って動かす事が出来るようになるのだ。

「”電話同士をつないで会話をすることが可能。 ただし、銅線で接続する必要があり、稼働には【魔力と電力】が必要”……」

「ううっ、ダメだぁ」

 僕は思わずため息をついてしまう。

 どうやらこのギフトは”魔力単体では動かない”ようだ。

 世間で需要が高いのは”小銃”などの単体で動くアイテムであり、このような動作に複雑な設備を必要とする物は敬遠されていた。

「というか、”電力”ってなんだ? なんで僕のブリーディング (機械使役)はこんなギフトにばかり反応するんだよ~」

 思わず愚痴が出てしまう。

 ”ブリーディング”には術者ごとに得手不得手があり、モンスターとの戦いに役に立つ小銃やライフルなど、武器の解析が得意な者もいれば、この世界の技術レベルでは使えないギフトにばかり反応する者もいる。

 僕は残念ながら後者なので、役に立たないとギルドをクビになったというわけ。

「くそぉ……ブリーディングが使えるようになったときは人生勝ったと思ったのに……」

 ブリーディング自体は貴重なスキルであり、莫大な金を稼ぐ者も珍しくないのだが……喜び勇んでギルドの門をたたいた僕だけれど、現実はそう甘くはないらしい。

 僕はポイっと”電話”を投げ捨てると、浜辺のしょんぼり散歩を再開する。

 と、その時……。

 キイイイイイィィィンッ……!

 甲高い音が鳴り響き、わずかに空気が震える。
 これは、”大物”が落ちてくる気配!

 ちいさな”ギフト”は人知れず海辺や山奥に落ちていることも多いが、”大物”と呼ばれる大型のギフトは、落ちてくるときにこのように”時空振”を伴う。

 これが「外輪船」や「蒸気機関」のような、この世界の物流を支える”大型機械”だった場合、一躍僕は大金持ちなのだが……。


 カッッッ!


「くっ……まぶしっ!」
「……って、これは!?」

 目の前に現れた”ギフト”に、言葉を失う僕。

 全長120メートルあまりの巨大な鉄の塊。

 ずんぐりとした、クジラのような流線型のボディの真ん中あたりには、丸い筒のようなものが載っており、その上に塔が飛び出ている。

 グレーと赤に塗り分けられ、ぷかぷかと目の前に浮かぶソレを、僕は確かに見たことがあった。

 なぜかというと……異世界の書物が、たまにギフトに混じって落ちてくる。
 僕はそいつを読むのが趣味の一つなんだけど……。

「”潜水艦”? うそだろ?」

 ”最新武器名鑑”……確かそのようなタイトルの書物に載っていたそれは、”水中に潜れる”という、夢の大型船だった。
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