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第29話 頼れる相棒、ランドルフの秘密

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「ふあ~っ、おはようラン」
「おっとそうだった……誕生日おめでとう! これでふたりとも成人だね」

「おうリーノ、おはよう」

 翌日、飲み過ぎて二日酔いの僕は昼前に目を覚まし、階下に降りる。
 すでに起きていたランと朝のあいさつを交わす。

 今日はランの誕生日だ……そういえば昨日彼が言っていたことを思い出す。

 ”明日以降、目にモノを見せてやる”……一体何のことだろうか、あらためて聞こうと思った僕は、ランの様子がいつもと違う事に気づく。

 いつもは動きやすい冒険着を普段着にしているのだが、今日の彼はびしりと白いスーツを着込み、胸に重そうな勲章を下げ、紅白のレイまで肩にかけている。
 ノルド公国元首であるレグナー公に接見する用事でもあるのかな?

「ランドルフ様、ご準備はよろしいでしょうか?」

 僕が首をかしげていると、背後から落ち着いた女性の声が掛けられる。
 この声は……エリザちゃんだ。
 背後をうかがうと、彼女も普段とは違い、ダークグレイのスーツで正装している。

「へへっ、という事でリーノ、起きぬけてすまないが……」
「ちょっと付き合ってくれねーか? あ、もちろん正装でな」

 何があるんだろう?
 いぶかしげな表情をしているだろう僕に向けて、ランはにやりと親指を立てるのだった。


 ***  ***

「えーと、なにこれ?」

 思わず口の中でつぶやく。
 僕は、目の前に広がる光景をいまだに信じられずにいた。

「長年の試練を終えられ、めでたきこの日を迎えられたこと、わが身の事以上にお慶び申し上げます」

 豪華な装飾が施された椅子に座るランの前に、ひとりの初老の男性が跪いている。
 ……僕の見間違いでなければ、ここノルド公国の元首、レグナー公だ。

 ここはノルド公国の公宮、もっとも広く格式高い部屋に大勢の人々が集まっていた。
 檀上に並ぶのはレグナー公をはじめ、公国の高官たち。

 そして、彼らの対面に整列するのは、堂々たる偉丈夫たち。
 気のせいか、彼らが身に着けている式典用の衣装に輝くエムブレムは……どこかで見たことのある、双頭ワシと二本の聖剣が交差する格調高いデザインは……

 であるアルベルト帝国の物に見えるんだけど……。

 と、偉丈夫たちの中から、ひときわ目立つ男性がランに歩み寄る。
 見事な白髪の、老人と言っても良い年齢に見えるが、はち切れんばかりに盛り上がった筋肉はとてつもない実力を秘めているようで。

「ランドルフ様、ご努力なさいましたな……成人前にフロストジャイアントを退治するなど、武人の系譜にふさわしいと御父上……皇帝陛下も褒めておられましたぞ」

「ふふ、そうおだててくれるな、爺……飛び切り優秀な友人とその彼女に助けられただけだ」

「なるほど、あの方が噂の”スキル辞典”の……まこと良き友人に恵まれたようですな」

 僕の3倍ぐらい強そうなご老人が優しい笑みを浮かべ、僕の方を見る。

 えっ、えっ……それに”皇帝陛下”、”父上”って!?

 直立不動の姿勢を取りつつ盛大に混乱する僕の前で、”爺”と呼ばれたご老人は高らかに宣言する。

「お集まりいただいた皆様方、皇帝陛下の名代である我が宣言させていただく!
 こちらにおわしますランドルフ・アルベルト殿下、本日成人の儀をもって正式にアルベルト帝国次期皇位継承者に内定されましたことを!」

「レグナー公におかれましては、長年の後見とご支援、大変感謝しております……そして殿下を支え共に成長して頂いた得難きご友人にも!」


(ええええええええええええっ!?)


 儀仗隊が一斉に券を掲げ、荘厳なファンファーレが鳴り響く。

 情報の洪水に押し流される脳内で、人生最大の驚愕の叫びを上げる。
 僕の頼れる相棒、ちょっとエロい悪友はどうやら、世界最大国家の皇位継承者だったようです。
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