25 / 36
第25話 北の街に迫る危機
しおりを挟むわふわふ、くぅ~ん
「ああっ……可愛いよララ……」
なでなで
甘えてくるララ (ワンちゃんモード)の全身を優しく撫でまくる。
彼女はしっぽをぶんぶんと振りながら目を細め、とても気持ちよさそうだ。
『あうあうっ! リーノさん……その撫で方、気持ちいいです……身体が熱くなって……ふぅ』
「……見た目は微笑ましいのに、やけに危ない空気が漂うのはなんでだろうな」
「ランさんのご友人……常識人でお優しいのに、ケモナー……」
「ああでも、もし私が犬になり首輪を付けられ……あのようにラン様に撫でられたら……うっ、鼻血が」
「??」
僕とララはただスキンシップをしているだけなのに、背後のギャラリーからツッコミが入るのはなぜだろうか。
「おいおいエリザ、鼻血が出ているぞ……昨日の晩飯 (すっぽん鍋)を食い過ぎたか?」
「へうぅ……ありがとうございますランさん」
……エリザちゃんからびんびんに放たれる好意の波動に気づかないランも相変わらずだ。
ノルド公国に落ち着いて数か月……僕たちはそれなりに平和な時間を過ごしていた。
最初の頃は追手に警戒していたのだけど……僕たちの逃亡劇は完ぺきだったらしく、ギルドやバルロッツィ家に嗅ぎつけられた気配もない。
僕たちは、冒険者のスキルを活かしてモンスター退治をしたり、ナ・デナデに行ってララとデート……もとい修行をしたりしている。
あまり目立つわけにも行けないので、レベルアップの速度はゆっくりで……現在ふたりともレベル45を超えたあたり。
既にノルド公国では断トツの使い手になっているのだが。
「ううっ、こほん……それでランさん、本日はレグナー公からモンスターの退治依頼がありまして」
「公都の北、ノルド山脈の奥地にフロストジャイアントが出現したとのことです」
危ない妄想で鼻血を出していたエリザだが、気を取り直してキリリとした表情を作ると、モンスター退治の依頼書を読み上げる。
……鼻の穴にティッシュが刺さっているのがシュールだけど。
「ふむ……出現場所は水源地に近い。 ヤツが水源を凍らせたら大ごとだな」
「どうだリーノ、行けるか?」
フロストジャイアントか……体長10メートルを超える巨人型のAランクモンスター。
あらゆる生物を凍らせる氷雪魔術を使いこなす、天災クラスのモンスターだ。
今の僕たちなら、対処できるだろう……ララもいるし。
『モフ法を使ってくる敵ですかっ! わんわんっ! ララにお任せくださいっ!』
僕の膝の上でくつろいでいたララが、ぴんっ!と耳を立ててドヤ顔でアピールする。
「ララもこう言ってるし……さっそく出発しようか」
「だな」
『わんっ!』
「ランさん、リーノさん、ありがとうございます。 夕食を準備してお待ちしております!」
こうして僕たちは、公都の北に広がるノルド山脈に向かって出発したのだった。
*** ***
ガオオオオオオンッ!
「で、でたっ! みんな、気を付けてっ!」
「ちっ……変異型の大型種かよ!」
僕たちの力を合わせれば、鼻歌交じり……とまでは行かないけど問題なく倒せると思っていたフロストジャイアント。
しかし、”現物”を見た瞬間、僕たちの顔は引きつってしまう。
何しろ、ヤツの体長は30メートルほどあったのだ。
小山のような巨体が地面を揺らせながら歩く。
運悪く、巨大化の因子を持った突然変異種に遭遇してしまったようだ。
ヤツの弱点は爆炎魔術……それなら、今使える最大魔術で!
”フレアブラスト”の3連射っ!
僕は腰を落とし、編み上げた術式にありったけの魔力を込めるのだけれど。
ウオオオオオオオンッ
ブワッ!
「くっ……これはっ!?」
ヤツは僕が魔術の予備動作に入ったことを見抜いたのか、おぞましい咆哮を上げる。
辺りに響き渡った不快な共鳴はフレアブラストの術式を破壊していき……。
「まずっ……封印魔術!?」
僕の得意技の”ホールドダウン”と同系統で、相手のスキルを封じてしまう魔術だ。
爆炎魔術式の編み上げに集中していた僕は抵抗に失敗する。
にやり……フロストジャイアントが笑みを浮かべた気がする。
間髪入れずに放たれた極大氷雪魔術のフロスト・ストームが僕たちを捉え……。
『わんっ! させませんっさせませんっ!』
パアアアアアッ!
ぴょんっ、と僕たちをかばうようにジャンプしたララが、魔力を全開放する。
バシュウウウッ!
ぱりんっ!
フロスト・ストームの渦はララを直撃するが、あっさりと吹き散らされる。
ついでとばかり、彼女は僕に掛かっていた封印魔術を解除する。
『この程度のモフ法、朝飯前ですっ!!』
「えぇ……」
とんでもない魔術抵抗である。
思わず呆れてしまうが、それはフロストジャイアントも同じだったようで。
「はあっ! ハヤブサ斬り!」
ザンッ!
「えっと……フレアブラスト×5」
ズドオンッ!!
動きを止めたフロストジャイアントの足をランの剣技が切り裂く。
おまけで増量しておいた僕の爆炎魔術が、立ち尽くしていたフロストジャイアントを飲み込んだ。
『えへへ、リーノさんランさん流石ですっ!
あんな超ヤバヤバ魔獣さん、ナ・デナデなら100万回滅んでますよっ』
嬉しそうにピョンピョン僕たちの周りを走り回るララ。
いや、僕としてはララの魔術抵抗の方がびっくりなんだけど……。
「ふぅ……なんにしても一件落着だ。 公都に戻るか」
「そうだね」
僕はララを抱き上げると公都に向かって歩きはじめる。
『くぅ~ん』
ああ、すりすりと甘えてくるララは可愛いなあ……。
「……なんかララちゃん、犬化が進んでねーか?」
がやがやと雑談しながら歩く僕たち。
「……ん? あれは何だ?」
最初に異変に気付いたのはランだった。
公都の方角に煙が上がっている。
かまどの煙にしては大きいし、狼煙でもない……。
あれはいったい……公都に急いだ僕たちは、驚きの光景を見ることになる。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。


Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる