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第25話 北の街に迫る危機

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 わふわふ、くぅ~ん

「ああっ……可愛いよララ……」

 なでなで

 甘えてくるララ (ワンちゃんモード)の全身を優しく撫でまくる。

 彼女はしっぽをぶんぶんと振りながら目を細め、とても気持ちよさそうだ。

『あうあうっ! リーノさん……その撫で方、気持ちいいです……身体が熱くなって……ふぅ』

「……見た目は微笑ましいのに、やけに危ない空気が漂うのはなんでだろうな」

「ランさんのご友人……常識人でお優しいのに、ケモナー……」
「ああでも、もし私が犬になり首輪を付けられ……あのようにラン様に撫でられたら……うっ、鼻血が」

「??」

 僕とララはただスキンシップをしているだけなのに、背後のギャラリーからツッコミが入るのはなぜだろうか。

「おいおいエリザ、鼻血が出ているぞ……昨日の晩飯 (すっぽん鍋)を食い過ぎたか?」

「へうぅ……ありがとうございますランさん」

 ……エリザちゃんからびんびんに放たれる好意の波動に気づかないランも相変わらずだ。
 ノルド公国に落ち着いて数か月……僕たちはそれなりに平和な時間を過ごしていた。

 最初の頃は追手に警戒していたのだけど……僕たちの逃亡劇は完ぺきだったらしく、ギルドやバルロッツィ家に嗅ぎつけられた気配もない。

 僕たちは、冒険者のスキルを活かしてモンスター退治をしたり、ナ・デナデに行ってララとデート……もとい修行をしたりしている。

 あまり目立つわけにも行けないので、レベルアップの速度はゆっくりで……現在ふたりともレベル45を超えたあたり。
 既にノルド公国では断トツの使い手になっているのだが。

「ううっ、こほん……それでランさん、本日はレグナー公からモンスターの退治依頼がありまして」
「公都の北、ノルド山脈の奥地にフロストジャイアントが出現したとのことです」

 危ない妄想で鼻血を出していたエリザだが、気を取り直してキリリとした表情を作ると、モンスター退治の依頼書を読み上げる。

 ……鼻の穴にティッシュが刺さっているのがシュールだけど。

「ふむ……出現場所は水源地に近い。 ヤツが水源を凍らせたら大ごとだな」
「どうだリーノ、行けるか?」

 フロストジャイアントか……体長10メートルを超える巨人型のAランクモンスター。
 あらゆる生物を凍らせる氷雪魔術を使いこなす、天災クラスのモンスターだ。

 今の僕たちなら、対処できるだろう……ララもいるし。

『モフ法を使ってくる敵ですかっ! わんわんっ! ララにお任せくださいっ!』

 僕の膝の上でくつろいでいたララが、ぴんっ!と耳を立ててドヤ顔でアピールする。

「ララもこう言ってるし……さっそく出発しようか」

「だな」

『わんっ!』

「ランさん、リーノさん、ありがとうございます。 夕食を準備してお待ちしております!」

 こうして僕たちは、公都の北に広がるノルド山脈に向かって出発したのだった。


 ***  ***

 ガオオオオオオンッ!

「で、でたっ! みんな、気を付けてっ!」

「ちっ……変異型の大型種かよ!」

 僕たちの力を合わせれば、鼻歌交じり……とまでは行かないけど問題なく倒せると思っていたフロストジャイアント。

 しかし、”現物”を見た瞬間、僕たちの顔は引きつってしまう。

 何しろ、ヤツの体長は30メートルほどあったのだ。
 小山のような巨体が地面を揺らせながら歩く。

 運悪く、巨大化の因子を持った突然変異種に遭遇してしまったようだ。

 ヤツの弱点は爆炎魔術……それなら、今使える最大魔術で!

 ”フレアブラスト”の3連射っ!
 僕は腰を落とし、編み上げた術式にありったけの魔力を込めるのだけれど。


 ウオオオオオオオンッ
 ブワッ!


「くっ……これはっ!?」

 ヤツは僕が魔術の予備動作に入ったことを見抜いたのか、おぞましい咆哮を上げる。
 辺りに響き渡った不快な共鳴はフレアブラストの術式を破壊していき……。

「まずっ……封印魔術!?」

 僕の得意技の”ホールドダウン”と同系統で、相手のスキルを封じてしまう魔術だ。
 爆炎魔術式の編み上げに集中していた僕は抵抗に失敗する。

 にやり……フロストジャイアントが笑みを浮かべた気がする。
 間髪入れずに放たれた極大氷雪魔術のフロスト・ストームが僕たちを捉え……。

『わんっ! させませんっさせませんっ!』

 パアアアアアッ!

 ぴょんっ、と僕たちをかばうようにジャンプしたララが、魔力を全開放する。


 バシュウウウッ!
 ぱりんっ!


 フロスト・ストームの渦はララを直撃するが、あっさりと吹き散らされる。
 ついでとばかり、彼女は僕に掛かっていた封印魔術を解除する。

『この程度のモフ法、朝飯前ですっ!!』

「えぇ……」

 とんでもない魔術抵抗である。
 思わず呆れてしまうが、それはフロストジャイアントも同じだったようで。

「はあっ! ハヤブサ斬り!」

 ザンッ!

「えっと……フレアブラスト×5」

 ズドオンッ!!

 動きを止めたフロストジャイアントの足をランの剣技が切り裂く。
 おまけで増量しておいた僕の爆炎魔術が、立ち尽くしていたフロストジャイアントを飲み込んだ。

『えへへ、リーノさんランさん流石ですっ!
 あんな超ヤバヤバ魔獣さん、ナ・デナデなら100万回滅んでますよっ』

 嬉しそうにピョンピョン僕たちの周りを走り回るララ。
 いや、僕としてはララの魔術抵抗の方がびっくりなんだけど……。

「ふぅ……なんにしても一件落着だ。 公都に戻るか」

「そうだね」

 僕はララを抱き上げると公都に向かって歩きはじめる。

『くぅ~ん』

 ああ、すりすりと甘えてくるララは可愛いなあ……。

「……なんかララちゃん、犬化が進んでねーか?」

 がやがやと雑談しながら歩く僕たち。


「……ん? あれは何だ?」

 最初に異変に気付いたのはランだった。

 公都の方角に煙が上がっている。
 かまどの煙にしては大きいし、狼煙でもない……。

 あれはいったい……公都に急いだ僕たちは、驚きの光景を見ることになる。
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