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第17話 リーノ、王都を脱出する

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 ぽんっ!

「おっ……リーノ、どうだった?」

 やけに軽い音がして、自分の部屋に戻ってくる。

 僕が”向こう”に行っている間に、部屋の片づけまでしてくれていたのか、ずいぶんとすっきりとした部屋の真ん中で備え付けのベッドに腰掛けたランが、読んでいた本から顔を上げる。

 つくづくよくできた親友である。

「”ピコピコハンマー”で獣人族の女の子3人を叩いたらレベル37まで上がった」

「……は?」

 とりあえず、起こった事をありのまま説明してみたが、ランは理解できなかったようだ。
 ぽかんとした表情を浮かべている。

 ま、まあ、そりゃそうだよな。
 僕は向こうであったことを詳しくランに説明する。

「なるほどな……ララちゃんの力で”呪い”を無効化できるのか」
「女の子たちと”修行”するだけでレベルアップするとか、うらやましい奴め!」

 僕はアッカたちをピコピコハンマーで叩いただけである。
 ”修行”と言っていいんだろうかアレを……。

「ていうか、お前が手に持ってるそれ、なんだ?」

 そうだ、お土産があるんだった。
 僕はララがくれた”経験値の折詰”を改めて観察する。

 キラキラと七色に光っていることを除けば、道具屋で売っている弁当箱のような楕円形をしている。
 とはいっても、フタが付いていないので、中身を取り出すことは出来ない。

 どうやって使うんだろう?
 僕が首をひねっていると……。

 りんりん!

 テーブルの上に置いた宝玉からコール音と共に煙が吹き出し、ララの姿が空中に映し出される。

「すみませんすみません! ララ、”折詰”の使い方をお伝えするのを忘れてましたっ!」

 あわあわと両手を上下に振るララ。
 相変わらず彼女はあわてんぼうらしい。

 可愛らしい様子に思わずほおが緩む。

「あのですねあのですね、まずはその箱を”おすそ分け”したい人の頭に乗せます」

「こう?」

「……なんか微妙に恥ずかしいなこれ」

 ララの指示通り、ランの頭の上に”折詰”を乗せる。
 はたから見ると”弁当箱を頭に乗せているヘンな人”なので、ランの気持ちは良く分かる。

「それでは次に両手を組んで矢の形にしてっ……箱を指さしますっ」

「なるほど」

 肉体的な動作を伴う術なのだろう。
 ララの言う通り、”弁当箱”を指さす。

「指先に魔力を込めて……叫んでください、”ファ○キン女神”!」

「ん……”フ○ッキン女神”! ……って、えええっ!?」

 何か今、とんでもないFワードを口走った気がする。
 どういうコマンドワードなんだよっ、そんなツッコミをするヒマもなく……。

 カッ!!
 ぱああああああっ!

「な! 身体が……熱く?」
「オレも、レベルアップしたのか?」

「はいっ! これでリーノさんはレベル37、そちらのお兄さんもレベル35です!」
「おめでとうございますっ! ぱちぱちぱちっ!」

 ぱしゅん!

 ララの映像は、ニッコリ笑顔で拍手をすると、時間切れなのか消えてしまった。
 ……女神さまからバチが当たらないのだろうか?

「お、おう……マジかよ!」
「確かにレベル35まで上がっている……レベル27から30に上げるのに1年かかったっつーのに、マジでとんでもねぇな……」

 女神の天罰を心配する僕のとなりで、ランが両手を閉じたり開いたりしている。
 スキルシートを見せてもらったけど、ランもきっちりレベルアップしていた。

 ふたりともレベル35以上……マリノ王国でもトップのコンビになったという事だ。

「……とりあえず、出発するか」

「……そだね」

 また実感がわかないまま、僕たちは荷物を背負い立ち上がる。

 4年を過ごした僕の部屋……名残惜しくないと言えばうそになるけど、さっきまで感じていた不安は消え去っていた。

 ……おっと、その前に。
 僕はランに先に出るようにお願いすると、階段を下りて一階に向かった。


 ***  ***

「おばちゃん……急な話なんですけど、王都を出て行くことになりました」
「旅に持っていけないんで、良かったら使ってください」

 お世話になった大家さんのおばちゃんに挨拶し、魔術式調理器具など、持ち運びに不便なマジックアイテムを寄付する。

 急に部屋を退去することになるので、少ないけどお礼の金貨も包む。

「こんなに……ありがとねリーノ君」
「ラン坊から聞いたけど、大変みたいだね……くじけずに頑張るんだよ?」
「辛くなったらいつでも戻っておいで?」

「はいっ! ありがとうございますっ!」

 どこか、今は遠くに行ってしまった母上の面影を感じる優しいおばちゃんに、精一杯の感謝を込めてお辞儀をする。

 にあ~っ

「……お前も元気でね」

 下宿に居ついてる子猫に秘蔵の”だんけちゅ~る”を渡す。

「それじゃ、行ってきます!」

 そうして僕は入り口で待っていたランと合流し、潜伏先のノルド公国へ向かって歩き出した。
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