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第16話 スキル辞典リーノ、癒されに行く

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「お忙しいところすみませんっ!」

「ララ、リーノさんに興味津々ですのでっ!」
宝玉でお話を聞いていたのですがっ……大変な事になっているようですねっ!」

「リーノさんはこんなに頑張ってるのに……ララたちも救って頂いたのに……こんな仕打ち、許せませんっ!」

 魔法陣の光と共に異世界ナ・デナデへ召喚されるなり、目の前に現れたララは髪の毛を逆立て両手をぶんぶんと振っている。
 どうやら、僕を抹殺しようとしている連中に本気で怒ってくれているようだ。

「ふふっ、ありがとうララ」

 その可愛らしい様子に、ささくれ立っていた心が癒されていくのを感じる。

 頼りになる相棒と、僕を慕ってくれる女の子か……。
 やっぱり自分は恵まれているんだ……改めてそう実感する。

「と、いう事でっ!」

「ララ、大切なリーノさんのお役に立てないか、一生懸命考えましたっ!」
「やっぱりやっぱり、もっと強くなっていただくのが良いかとっ!」

「そこでっ!」

 ぎゅっ!

 そう言うとララは僕に抱きついてくる。
 いい匂いがするふかふかな犬耳の感触が相変わらず最高だ……。

「さあリーノさんっ、神の御業、NEWAZAを使うのですっ!」

 NEWAZA……僕のユニークスキル”ホールドダウン”。
 ララの魔術と合わせることで、”呪い”を一時的に無効化できる。

 ということは、”経験値稼ぎ”をさせてくれるという事かな?

 でも、ここはララたちの城の中……特にモンスターがいるようには見えないけど。


 ***  ***

「……理不尽だにゃん」
「いくら巫女様の頼みとはいえ、これパワハラだわん?」

「……ふたりとも、契約書第12条3項に書かれているの」
「ララ様の指令は絶対なの……この憤りはいつか救世主様の寝首を掻くことで晴らすの」

「…………」

 それでは、ぞんぶんに稼いじゃってくださいっ!

 ”ホールドダウン”の発動を確認し、笑顔きらきらのララから、”ごーるでんはんまー”と書かれたどう見てもおもちゃの”ハンマー”を渡され……隣の部屋に連れてこられた僕が見たのは、”すらいむ”と書かれた帽子を被った3人娘だった。

 ……彼女たち、ララの護衛兼助手の子たちだよな?

 何をやっているのかとララに尋ねると。

「はいっ!」

「”世界に迫る危機”に対抗するため、ララたちも修行をする必要がありました……ですが、お城の周りに広がる森にはアリさんとかハチさんとか、危険な魔獣が出るためおいそれと足を踏み入れるわけにはいきません」

「そこでララは考えましたっ!」
「アッカちゃんたちと”しみゅれーしょんばとる”をすれば、安全に経験値をゲットできるのではないかとっ!」

「なるほど」

 とりあえず深く考えてはいけないような気がしたので、機械的に返事をする。

「お渡ししたハンマーは威力を抑えてありますので、安全対策はバッチリですっ!」

「すごいね」

「さあ、遠慮なくどうぞっ!」
「アッカちゃんたちもっ! 思いっきり行っちゃって~っ!」

「……救世主様とはいってもしょせん童○なの」
「よし、アッカ! ミドリィ!」
「トライデントアタックを仕掛けるのっ!」

「ラジャーにゃんっ!」
「ミドリィは右から……アッカは左から行くにゃんっ」

「了解わんっ!」

 ばばっ!

「…………」

 いつのまに”しみゅれーしょんばとる”が始まったのか、アッカたちは僕の前で左右に展開し、時間差をつけて襲い掛かってこようとするのだが……。

 ぽてぽてと走る彼女たちの動きは、絶望的に遅い。
 ……平和なこっちの世界では、これくらいでも十分なのかもしれないけど。

「……えいっ」

 ぺちっ!
 ぽんっ!
 ぽこんっ!

 3人娘のじゃれ合い……もとい攻撃を軽く体をひねってかわした僕は、リズムよく彼女たちの頭を一発ずつぴこぴこハンマーでたたく。


 ズシャアアアアアアッ!


「ば、馬鹿なっ!? ナ・デナデ最強とうたわれた私たちのトライデントアタックがっ!」

「む……無念だにゃん……」

「わうっ……効いたわん……」

 戦いになってない気がするが、本気?で挑んできてくれた彼女たちには、本気?で返すのが礼儀であろう。

 僕は、懐から対獣人お姉さん最終決戦兵器、”だんけちゅ~る”をとりだすと、彼女たちの前に置く。
 獣人耳かきリフレのお姉さんの気を引こうと、素材から厳選し……1年以上の試行錯誤を繰り返して完成させた一品である。

「なにこれ……むしろ、全身が熱く? わふん……」
「にゃう……ミドリィもなんか……にゃうん」
「これは……秘儀、チャームっ! 救世主様、卑怯なの……ごろごろ」

 床に倒れ込んだ彼女たちは、”だんけちゅ~る”の香りに反応し、頬を赤く染めもじもじと身体をくねらせている。

「凄いっ! ナ・デナデ最強クラスの使い手であるアッカちゃん達を僅か一撃でっ!?」
「それに、チャームの追加効果で彼女たちを魅了……凄すぎですリーノさん!」

 至高のエサ……食材”だんけちゅ~る”、やっぱり彼女たちも気に入ってくれたようだ。
 安心しろ、みね打ちだ……静かにピコピコハンマーを床に置いた時、僕の全身を暖かな光が包む。

 これは……経験値の光……しかも、今まで感じたことのないくらい膨大なっ!?

「はいっ! リーノさんがいっぱいレベルアップできるよう、ララ……数日前からアッカちゃん達の食事にこっそり”どーぴんぐどらっぐ”を入れてましたっ!」

「「「えっ!?」」」

 ……この娘たちの関係、本当に大丈夫なんだろうか?
 そんな疑問がふつふつと湧いてくるも、今はこの膨大な経験値を有効に使わせてもらおう。
 僕はゆっくりと目を閉じ、莫大な経験値が”レベルアップ”を引き起こすのを待つ。

 ……ぴこん!

『お知らせします』

「……へっ?」

 一気にレベルアップした……そう感じた瞬間、”天の声”とでも表現したくなるような涼やかな声が頭の中に響く。
 これは……教会で治療をしてもらうときに聞こえる、女神さまの声!?

『一度に手に入る経験値がカンストしました……申し訳ありませんが超過分はカットされます』

 ……神の御声、というにはやけに事務的な通知である。
 ていうか、一度に獲得できる経験値に上限なんてあったのか……。

 確かに、レベル35を超えると必要経験値が一気にアップすることが知られている。
 そんなわけなので、レベル50を超える冒険者はほんの一握りなのだけれど。

 ”スキルシート”で確認した僕のレベルは37……さすがに一気にレベル50超え!
 という考えは甘かったか。
 だけどこれで十分……ランとの逃避行も上手く行くだろう。

 おもわず苦笑を浮かべた瞬間……何故かララが叫び声をあげ、右手に術式を展開させながら僕に飛びついてくる。

「隙ありっ! そうはさせませんよ女神様っ!!」

 むにゅん

「べふっ!?」

 勢い良くジャンプしたので彼女の胸元がちょうど僕の顔の位置に来て……。

 うおおおっ!?
 意外に豊かなララの胸部装甲がっ!?

 柔らかでいい匂い、僕が盛大に混乱していると……。

「”ポイントスティール”!」

 カッッ!

 ララの右手が僕のアホ毛を掴んだ瞬間……まばゆいばかりの光が広間を包み……。

「ふう、間に合いました……これが”経験値の折詰”ですっ!」
「女神さまにぼっしゅ~される前にララが横取りしときましたっ!」

「リーノさんのレベルアップには使えませんが……お友達などにおすそ分けすることが出来ますっ!」

 キラキラと虹色に光るお弁当箱のようなものを笑顔で差しだすララ。

 ……言っていることは可愛いけど、女神さまのもとに戻る?経験値をパクるようなことをしてよかったんだろうか?

 色々ツッコみたいことがあったけれど、僕は笑顔のララたち (一部のぞく)に見送られ、自分たちの世界に戻るのだった。
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