レベルアップしない呪い持ち元神童、実は【全スキル契約済み】 ~実家を追放されるも呪いが無効な世界に召喚され、爆速レベルアップで無双する~

なっくる

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第8話 スキル辞典リーノ、二度目の異世界へ

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「ん? アントの奴、今日はどうしたんだ?」

「バルロッツィ家に出張してるみたいだね……あ、僕が依頼書を取ってくるよ」

 冒険者ギルドに顔を出した僕たちは、ギルド長であるアントが不在であることに気づく。

 壁に掲げられた行先掲示板には、やる気のない字で「バルロッツィ家に出張 (直帰)」と書かれている。

 ギルド長直々の出張とは何事だろうか?

 重要な依頼でもあるのかな……まあ、そういう”格が高くて美味しい”依頼が僕たちに回ってくるわけはないので、どうでもいいか。

 パワハラギルド長がいないのは大変好都合なので、僕は比較的優しい事務のおばちゃんに声を掛け、多少なりとも条件の良い依頼書を入手する。

 僕が10通ほどの依頼書を抱えてテーブルに戻ると、ランは難しい顔をしながら新聞を広げていた。

 ここマリノ王国では数種類の一般紙と経済紙、そして冒険者向けの専門誌が発行されている。
 ランが読んでいるのは、経済紙の国際情勢欄だ。

 恥ずかしい話だけど、バルロッツィ家で受けた教育が適当だったので、僕は勉強が苦手なのだ。
 どこどこの国同士の貿易赤字で関係がうんぬん……などと言われてもさっぱりである。

 ランはパリピっぽく振舞っているけど頭もよく、育ちの良さが行動の端々から滲む。
 本人はしがない武家の次男で、修行のために実家を叩き出されたよと笑っているけど、実はいいとこのお坊ちゃんだったりして……。

「ラン、いくつか稼げそうな依頼を持って来たけど……」

「ん~、マリノ王国が外部から魔術顧問を招聘ねぇ……非の打ち所のない経歴が逆に偽装っぽいな、気に留めておくか……」

 僕が話しかけても、ランは新聞の内容に没頭しており、気付く気配がない。

 そういえば、そろそろララからコールがあるかもしれない。

 今日は簡単な依頼にするべきかな……ギルドに併設された酒場で2人分の朝食を注文しながら、僕は考えを巡らせるのだった。


「……っとすまん、気になる記事があったもんで、待たせちまったか?」

 ギルド名物のハムサンドセットが出来上がり、テーブルに運ぶ。
 ようやく記事を読み終えたのか、ランが済まなそうに顔を上げる。

「ううん、大丈夫だよ」
「それで、今日の依頼だけど……途中で”召喚”されるかもしれないし、コイツはどうかな?」

 セルフサービスのコーヒーを飲みながら、あらかじめ選んでおいた依頼書をテーブルの上に置く。

「王都地下水道のブロブ退治か……これくらいならオレ一人でも大丈夫だし、お前は”デート”に備えたらどうだ?」

 にやりと悪戯っぽい笑みを浮かべるラン。

「ななっ、で、デートってなんだよ!」
「たぶん”向こう”で戦闘もあるし……遊びに行くわけじゃ……ごにょごにょ」

 いくら取り繕ってもこの相棒にはお見通しのようだ……いつもより入念に髪をセットして、街のブティックで選んでもらったチェック柄のおしゃれ冒険着を着ている時点でバレバレかもしれない。

「くくっ……この埋め合わせは次の依頼でな!」

「リーノがさらにレベルアップすれば……”特Aランク”の依頼も狙えるかもしれないぜ?」
「そうすりゃ1年は遊んで暮らせるさ」

「……そうそう、ランドルフ様のアドバイスだ。 イケそうなときは押していけよっ!」

 ランは言いたいことだけ言うと、僕の肩をポンと叩き、ハムサンドを片手にブロブ退治へ出発してしまった。

 ……持つべきものは気の回る友人である。

 せっかくだから”お土産”も準備しようかな……。
 僕は”デート”の準備のため、いそいそと下宿に戻るのだった。


 ***  ***

「こんにちはっ、リーノさんっ!」
「……おおっ、今日はいつもよりおしゃれさんですねっ!」

 2時間ほどかけて”お土産”を準備する。

 念のためもう一度顔を洗い、鏡に向かって入念に髪型をセットしていると、ララから貰った宝玉がピコピコと点滅し、軽やかな鈴の音を奏でる。

 呼び出しコールかな?
 そう思った僕が宝玉に触れると、緑色の煙と共にララの姿が空中に映し出される。

 僕がおしゃれしていることに気づいてくれたようで、さっそく褒められてしまった。

 ……最初に”召喚”された時は使い古しの冒険着だったからね (マンドレイクに抱きつく予定だったし……)。

 ニコニコと笑うララも、先日と違う格好をしている。
 ちらりと肩を出した、丈が短めのピンク色のワンピース。

 桜の髪飾りと水色のサンダルが元気いっぱいの彼女によく似合っていて……やべえ超カワイイ。

「ララ、今日は私服なんだ」
「と、とっても似合っててかわいいよ」

 もつれる舌にムチを入れ、ララの私服を褒める僕。

「はうっ!? ラ、ララの事も知ってもらいたくてっ!」
「仲間も紹介したいですし、もしよければ一緒にご飯でもって……はわわわっ!」

 不意打ちだったのか、ララも顔を真っ赤にして俯いてしまう。

「えとえと……えいっ!」

 ぱあああああっ

 誤魔化すように彼女の手が振られ、僕の身体は青い魔法陣に包まれるのだった。
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