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第5話 追放側サイド・ギルド長の誤算
しおりを挟む「まったく……フランコ様の気まぐれにも困ったもんだぜ」
「ま、おかげで俺はこうして豪遊できるんだけどな」
マリノ王国冒険者ギルド長であるアント・カリーニは、グラスに注がれた高級ワインを一息で煽ると満足の吐息を漏らす。
報酬で手に入れた35年物……上流階級御用達の高級娼婦も手配済みだ。
やはり仲介業が一番儲かる……冒険者を引退して数年、いささか寂しくなった頭部を撫でながらアントはご満悦だった。
「それにしても……跡継ぎであるガイオ様の任官が決まったからって、一応は血のつながった息子であるリーノのヤツを事故に見せかけて始末しろだなんて……」
絶縁したリーノを冒険者ギルドで採用し、今まで生き永らえさせていたのは万が一の”保険”だったという事か……。
全く宮廷政治に関わる天上の方々は恐ろしい……俺はせいぜいそこにぶら下がって甘い汁だけ吸わせていただきますよ。
ちらり、とアントは私室のテーブルに置かれた羊皮紙に目をやる。
”極秘”の印が押されたソイツには、リーノに依頼するモンスター退治の内容と……どこから手に入れたのか、Bクラスモンスターであるシザーハンズを差し向ける旨が書かれている。
”お役所”から出され、リーノに渡された依頼書は偽物……”運悪く出現した上位モンスターに殺される冒険者”を演出するためである。
「まぁ……面倒な依頼を処理するのに重宝していたんだけどな」
リーノはともかく、なぜかほかの冒険者と組もうとしないランドルフがセットなので、面倒なだけで見入りの少ない依頼をヤツらに押し付け、楽をしていたが……
まあ仕方がない。上流階級の皆様へのコネづくりの方が大切である。
にやりと笑いながら、哀れなリーノ君に形ばかりの祈りをささげるアント。
しかし彼は翌日、驚きの光景を目にすることになる。
*** ***
「こちら、マンドレイクの退治証明です」
「それにしてもギルド長……シザーハンズが出現するなんて聞いてませんよ!」
「依頼元にはモンスターの出現情報を正確に書いてもらえるよう、念押しをお願いします」
「あ、ああ……」
ごとり……
いつもの弱気な様子はどこへやら。
自信に満ちた表情で半ば炭化した巨大な鎌をギルドのカウンターに置くリーノ。
確かにシザーハンズの鎌だ……それにこの威力、最低でも”フレア・ブラスト”級か?
このギルド内でも、シザーハンズに対峙した経験がある連中はほとんどいない……酒場の冒険者連中が驚きの声を上げている。
馬鹿な!
いくらランドルフが付いていたとはいえ、マンドレイクの上位種にシザーハンズまで出現させたのだ。
絶対とまではいわないが、少なくとも連中が五体満足で帰ってくるなぞありえない。
流れの魔術師を雇ったのか?
いや待て、”フレア・ブラスト”が使える魔術師が入国したなど、そんな報告は受けていない……それに、コイツらがそんな金を持っているはずは。
「はん、アントさん……ギルドの規定により、割増報酬をもらうぜ?」
「くっ……ほらよ」
混乱するアントを尻目に、なにか含むところでもあるのか、剣呑な視線を投げてくるランドルフ。
アントは内心歯がみをしつつ、金貨の入った革袋を放り投げる。
「へっ、ありがとうな……依頼書の不備に気付かないなんて、閃光のアントらしくもないなぁ?」
「……公的な依頼書であるため、チェックが甘くなっていた。以後気を付けよう」
全く忌々しい……イラつきを押さえ、事務的に対応するアント。
「……そうだリーノ、スキルシートを更新しとかないとな」
「そっか、新しいスキルを使えるようになったんだっけ……4年ぶりだから手続きがいることすら忘れてたよ」
……なに?
何気なく放たれたセリフに、思わず右の眉を跳ね上げるアント。
リーノは呪いのせいでレベルアップ出来ない体質だ……よほどのことが無い限り、新たなスキルなんて習得できないはず。
どうせ、スキルシートに書き忘れていたゴミだろう……だが、提出されたスキルシートを見たアントは、驚愕のあまり目を見開くことになる。
(馬鹿なっ! ”フレアブラスト”に”アイスブラスト”もだとっ!? Bランク魔術となれば最低レベル25になっているという事だぞ……)
ちらり、脂汗をにじませながらこっそり能力評価魔術を発動させたアントは、スキルシートにウソ偽りがないことを理解してしまう。
(ありえんありえんありえんっ!! 絶対にありえん!!)
仮に呪いが解けていたとしても、一度の戦闘でレベルが3から30に上昇するなんて、世界の理に反している。
一体何が起こったんだ……リーノのヤツが一気にギルドトップになってしまったぞ……。
(それに……それにフランコ様になんと報告すればいいんだ……)
ギリギリと痛みだした胃を押さえる。
……まあまて、何かの間違いかもしれない……報告を上げるのはしばらく後にしよう、ああそれがいい。
現実逃避を続けるアントの目には、はしゃぐリーノたちの姿はもう写っていなかった。
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