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■第4章 レンド王国の危機
第4-1話 ミアとレンの騒がしい日常
しおりを挟む「ふふふ……これが、わたしの故郷の秘蔵スイーツ、パンナコッタだぁ!」
ば~ん! という効果音と共に、氷雪魔法で作った氷室から、冷やしていた金属製のトレーを取り出すわたし。
ふわり……と甘い香りが漂う、ミルクと生クリームをたっぷり使った魅惑のゼラチンがプルンと震えます。
「ここに……カットしたイチゴを添えて、たっぷりのカラメルソースを……」
わたしは大きな白磁器のカップにゼラチンをすくい取ると、半分にカットした完熟イチゴを並べ、その上から黄金色のカラメルソースをイチゴが沈むくらいに掛けます。
「はいっ! 出来上がりっ!」
「うおおおおおおおおっ!? ミアねーちゃん! 世界最強に美味しそうなのだっ!」
テーブルの上にトンと置かれたパンナコッタに、口の端からヨダレを垂らしたレンちゃんが歓声を上げます。
ふふっ……緑色の瞳の中に、真っ赤なイチゴが映っていて……とてもかわいいです!
「ミアねーちゃん! もう食べていいのだ!?」
「もちろん!」
わたしの許可が出ると同時に、レンちゃんは大きなスプ―ンにたっぷりパンナコッタをすくい取ると、
ぷるぷるのゼラチンをパクリと口に運びます。
「!?!? んんんん~~~っ! 甘くておいしいのだ~っ!」
満面の笑顔を浮かべるレンちゃんが愛しくて、思わずもふもふの頭を撫でるわたし。
ですが、レンちゃんが続けた次のセリフに、思わず時が止まってしまい……。
「にははっ! このぷるぷる……ミアねーちゃんの胸の100倍は揺れてるな!」
ぴきっ!
思わずレンちゃんの頭を掴む手のひらに力が入ります。
「……レンちゃ~ん? それはどーいう意味かなぁ?」
手加減はするけど……わたしの握力に、みしりと抗議の音をレンちゃんの頭が立てています。
「ひうっ!? ミアねーちゃん!? 冗談なのだ! ギブ、ギブ!!」
「……ごめんなさいは?」
「はいっ! ミアねーちゃんの胸は、パンナコッタに負けないくらいぷるぷるなのだ!」
「よろしいっ♪」
「……まったく、パウエルもカンタスも飽きないな……もしかしてワザとなのか」
「ふふっ……微笑ましいじゃないか」
「って、このパンナコッタっていうデザート、宮廷スイーツ以上の美味しさだね! さすがはミア!」
姉妹的スキンシップを繰り広げるわたしたちに、静かにツッコミを入れるレナードさん。
これもすっかりここ数週間で慣れっこになった光景です。
って、アシュリーさんの絶賛頂きました!
これで今夜もうさちゃん抱いてぐっすりと眠れそうです。
*** ***
「それはそうと……パナケアウィングスの新メンバーとしてレンを迎え入れたいと思うんだけど、流石に僕の国にも聖衣は1つしか見つかっていなくて……」
4人でパンナコッタを平らげた後、わたしが食後の紅茶を淹れていると、少し難しい顔をしたアシュリーさんがテーブルの上に何枚かの資料を広げます。
先日の”オーレリア戦災孤児院謎モンスター襲撃事件”において、わたしとレンちゃんの歌声がリンクし、能力強化系魔法の効果を強く発現させた現象。
聖衣を着ずにこれを発動させたことにアシュリーさんは驚き (能力強化系魔法はわたしもレンちゃんも使えません)、パナケアウィングスの新たな力になるかもしれないとレンちゃんをわたしたちの仲間として招へいしたいと孤児院に申し出たのです。
一応、本人の意思を確認したのですが。
「ミアね~ちゃんのごはんが食べられるのなら、どこへでも行くのだ!」
満面の笑顔から放たれたその一言で、レンちゃんはわたしたちの仲間になることになりました。
王都に戻って来てから、何度か歌声リンク?を試したのですが……孤児院での一件は命に危険が迫っていた中の火事場のクソ力みたいなものだったらしく、なかなか安定して力を発動させるには至っていません。
なので最近はこうしてレンちゃんを餌付けするばっかりになっていたのですが……。
「一応、聖衣とまではいかないけど、ミスリル銀を織り込んだ布を入手できたから、僕の持てる魔導技術のすべてを投入して……レプリカではあるけどレン用に新しい”聖衣”を作ってみたんだ」
そういうと、アシュリーさんはテーブルの上に一着の衣装を置きます。
わたしの聖衣は、白と朱色を基調としたゆったりめのローブ……衣装から伸びる羽根もふわりとしており、どちらかと言うとレガシーな神々しさを感じさせるデザインです。
こちらのレプリカ聖衣は、若草色をベースに直線的な白ラインが入り、身体にぴっちりと身に着けるTシャツタイプの上着に、動きやすそうなショートパンツ。
アウターとなるジャケットとショートパンツから伸びる青い羽根は、直線的なラインで構成されており、どちらかと言うと現代的なデザインです。
なぜかレンちゃんの耳に付けると思われる、青いモフモフの耳カバーも着いており、丈が短めのへそ出しルックになるであろう上着と合わせると、元気なレンちゃんのイメージにぴったりです。
むむっ……フリフリ系ではないですが、もふもふ耳カバーから漂うさりげないあざとさ……へそ出しの上着といい……レンちゃんが着たなら、とってもはなまるかわいいですっ!
デザイン的には最近の大陸のトレンドがふんだんに取り入れられており、良くも悪くも保守的なわたしの聖衣のデザインとは一線を画します……少しうらやましいかも。
「むおおおっ! レン好みの動きやすいデザインなのだ! こーたいしさま、ありがとうなのっ!」
レンちゃんも気に入ったらしく、目をキラキラさせながら新しい聖衣を抱いています。
皇国の有名デザイナーさんにお願いしたんだろうなあ……そう思ったわたしでしたが、アシュリーさんが爆弾発言を放り込んでくれました。
「ちなみにコレをデザイン+縫製したのはレナードだよ」
「こんな見た目だけど、器用だよね!」
「”こんな”は余計だアシュリー」
「……えっ……ええええええええええっ!?」
少し恥ずかしそうに眼鏡を直す、身長2メートルを超える筋骨隆々のレナードさん。
人は見かけによらない……改めてわたしはそう思ったのでした。
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