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第30話(閑話その2)温泉での誓い

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「凄い凄い! キレイ!!」

 展望台から見える光景に、歓声を上げるリーサ。
 目の前に広がるのは、どこまでも蒼い日本海の絶景。

「リアス式海岸ですか……本当に凄いですね!」

 フェリナも初めて見る風景に目を輝かせている。
 こちらに来る前は関東に住んでいたらしい彼女。

 これほどの絶景は、ちょっと見たことないだろう。

「温泉もあるんだよね、楽しみっ!」

「ああ、浴衣を着て外湯めぐりするんだ」

「そとゆめぐり!?」

「晩ご飯は超高級和牛だぞ?」

「おにくうううううううっ!?」

 目を真ん丸にして驚くリーサはとてもかわいい。

 8月最後の週末、俺たちは社員旅行兼家族旅行として山陰は城崎温泉を訪れていた。


 ***  ***

「なるほど……元の世界でリーサちゃんは魔法使いだったんですね」

「だいまどうし!」

 ふんす、と助手席で胸を張るリーサ。

 城崎温泉に向かう車内、俺はフェリナにリーサの事を説明していた。
 俺とリーサが異世界では恋人同士だったこと。
 リーサは大魔導士と呼ばれていて、数々の魔法研究の成果を記した本を俺がこちらの世界に持ち帰った事。
 俺が持っている”剣技スキル”にリーサの”魔法”。

「最初期のダンジョンバスターを含め、現実世界で使えるスキル持ちさんは存在しますが……」

 フェリナの言葉に頷く。
 我が国の”対怪異特殊部隊”も異世界帰りを中心に、そう言ったスキル持ちを集めている。

「”魔法”を使える方は、わたくしの知る限り初めてです」

 そう、ある意味身体能力と技術があれば再現できる”剣技スキル”と違い、魔法はマナやエーテル……魔法の素となる物質が存在しないと発動しない。

「えいっ、”キラキラ”!」

 リーサの指先から金色の光が放たれ、空中で像を結ぶ。
 ドラゴンに戦いを挑む俺とリーサ、だろうか?
 魔法研究に使う素材集めのため、ドラゴン討伐に駆り出された事を思い出す。

「凄い……ホログラムとはまた違うんですね!」

 ぷにぷに

 映像を指でつつくフェリナ。
 なんと魔法で作った映像は、触ることが出来るのだ。

「でも、魔法を使うとものすごくお腹がすくんだよね?」

 そう、ゴブリンロードを倒した後、リーサはお弁当を10人分以上平らげていた。
 レミリアさんの言う通り、リーサは魔法の素を体内で生成できるのかもしれない。

「それなら、魔法を使うのはほどほどにしといたほうがよさそうだな」

「ふお、なんで?」

 我が家の食費がヤバい、と言う事もあるが……。

「……魔法を使うたびに栄養を取られてたら。
 身長も、お胸も大きくならないかもしれないぞ?」

「!?!?!?!?」

 俺の指摘は、リーサには衝撃的だったようで。

「わ、わたし! 魔法は出来るだけ控えるね!!」

 最近少し胸が膨らんできたと喜んでいたリーサなのだ。

 ちらり

 スレンダーなフェリナの身体をチラ見するリーサ。

「こ、こちらに流れ弾が!?」

「ぷっ、くくくくくっ!」

 思わず吹き出す俺。

「ゆ、ユウさん! ひどくないですか!」

「どんまい、フェリナお姉ちゃん。
 エルフ族はひんにゅーがステータスだから」

「何の慰めにもなってません!!」

 がぜんにぎやかになる車内。
 クルマは一路、城崎温泉へと向かうのだった。


 ***  ***

 ちゃぷん

 透明なお湯に全身を浸す。

「はうぅ……きもちいい~」

 じんわりと染みこんでくる熱は、体内のマナを活性化してくれるようで。

「おんせん、さいこう~♪」

 ふにゃり、と相好を崩すリーサ。

 リーサたちは温泉街巡りを楽しんだ後、高級旅館にチェックインしていた。
 この旅館には露天風呂があり、脇を流れる大きな川と、日本海を一望できる。

「ユウものんびりしてるかな?」

 女子のお風呂は長いので、その間ユウは自由時間だ。

 わたしもユウもお互いを大大大好きだけれど、ひとりになれる時間も必要。
 特にユウはまだまだ若い健康な男性。
 日々のあれこれをどう処理しているか、少しだけ気になってしまう。

「……あうっ」

 向こうの世界で愛し合った日々が脳裏に浮かんできて、思わず赤面するリーサ。
 こちらの世界に赤ちゃんとして転生してきて、精神はだいぶ子供よりに引っ張られているけど、たまに向こうの世界での出来事を思い出しては恥ずかしくなるリーサなのだった。

「ふふっ、となりいいかなリーサちゃん?」

 ちゃぷん

 サウナを堪能していたフェリナがリーサの隣に入ってくる。

「うん! あったかあったかだね」

 ぴとっ

「はうっ!?」

 リーサのすりすり攻撃に目を回しかけるフェリナだが、すんでのところで踏みとどまる。

「り、リーサちゃんは元の世界ではユウさんの恋人だったのよね?」

 温泉で二人っきり、となれば女子トークだろう。
 ノーツ財閥の娘として教育を受けてきたフェリナはずっと女子校育ちで、色恋沙汰(異性との)とは無縁だった。
 ユウとリーサのなれそめが気になってしまうのは当然だろう。

「うん! 魔王との最終決戦に挑むまでのわずかな間だったけど……」

 今思い出しても体が熱くなる。
 世界の運命を掛けた決戦前……ユウはリーサに告白した。
 必ず生きて帰ろうね、その思いを込めて初めてを捧げた夜の思い出は、リーサの大切な宝物だ。

「リーサちゃん」

 リーサとユウの数奇な運命。
 リーサの頭を優しく撫でる。

「いまの生活も、とってもとっても幸せ。
 ……でも……やっぱりけっこんはできないのかなぁ?」

 リーサは夜空に浮かぶ月を見上げる。
 なにしろ今のリーサはユウの娘である。
 向こうの世界より倫理観や法律がしっかりしているこちらの世界、いくら血のつながりは無いとはいえ、自分の娘と結婚する事は出来ないだろう。

「ううぅ……」

 とびっきり素敵な女性に成長して。
 ユウ以外の男の人にお嫁に行くとか、ありえない。

「あら、それなら一つ手があるわよ?」

「ふお?」

 にやり、と悪い笑顔を浮かべるフェリナ。

「まず、リーサちゃんが16歳になったら。
 わたくしの所に養子に来るの」

「お、お姉ちゃんのむすめに!?」

「そうすればあら不思議。
 ノーツ リーサ・レンフィードとして合法的にユウさんと結婚できるというわけ。 先日改正された転生者条項を利用すれば、ね!」

「ふっ、ふおおおおおおおおおっ!!」

 ざばっ!

 興奮のあまり、湯船から立ち上がるリーサ。

「しかもしかも、フェリナお姉ちゃんとも家族になれるってことだよね!」

「そうだよ♪」

「やった~~~!!
 フェリナお姉ちゃん!
 その時が来るまで……ユウには絶対に秘密だよ!」

「もちろんです」

 月明かりが降り注ぐ露天風呂で……ふたりが交わした約束に、ユウが気付くのは当分先の事になりそうだった。

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